ドラゴンバスターズ
『あまちゃんねる』とのコラボ企画により、『Dragon Dominion』は過去一の賑わいを見せていた。
抽選に集まったプレイヤーは十万人を超え、プレイ当選率はかなりの低確率となった。
運営も見学者の数を考慮し、急遽サーバーを増設し分割した上で同期させることにより対応していた。
この分ならば、目論見通りの展開が待っているはず。
アマテラスたちは、その様子を見て始まりを心待ちしにていた。
だが、そこにひとつ誤算が生じる。
開始一時間前、運営から有名プロゲーマーたちの参加を発表をされたのだ。
どうやら、テラが司令としてプレイするのを知ったプロゲーマーたちが、こぞって運営に参加希望を出したらしい。
『Dragon Dominion』は、最大千人対千人の戦いだ。
頂点に全てを従える司令官がいて、その下に百人を束ねる隊長が十人いる。
その合計二十人の隊長枠に、有名なプロゲーマーを当てがうという発表だった。
こちらとしては、不利になりかねない話だったが、運営には逆らえず受け入れるしかなかった。
なぜ、プロゲーマーが参加するとまずいのか?
それはテラのネットゲーム界におけるカリスマ性にあった。
実は、テラの存在はネットゲーム界隈でかなり有名になっていた。
固定ネームである『tera@doragon5000』。
彼女は彗星の如く現れ、あらゆるゲームでトップに君臨した。
他のプレイヤーと一切馴れ合いをせず、ただひたすらに腕を磨く。
そのストイックな姿に憧れるゲーマーは後を絶たなかった。
彼女が離席する時によく呟く『おなかへった』のフレーズ。
それにより、腹ペコを略して『ペコ』と呼ばれ崇拝されていたのだ。
プロゲーマーにもテラのファンは多く、ペコの信者、略してペコシンと自ら名乗って、ネームの後ろにPを付けてアピールしていた。
もし、こちらの隊長にPを冠する者が入れば、その部隊は掌握されたも同じ。
そうなってしまえば目論見とは逆に、圧倒的不利な状況に陥りかねない。
だから、その条件を飲む代わりに、こちらの隊長は自分たちで選ばせてもらう事にした。
そして、選んだ隊長十人は身内で固める事で、敵が陣営に入ることを防いだ。
一番隊隊長ヒルコ、プレイヤースキルや冷静さ、ネットゲーム界での知名度も含め、チーム内で最も有能な人物。
二番隊隊長大和幸江、ゲームに馴染みは無かったが、その卓越した反射神経と学習能力で、あっという間にトッププレイヤー並みの技術を習得した。
三番隊隊長西園寺蕚、全体を俯瞰出来る彼女は、戦場においても幅広く活躍できるはずだ。
四番隊隊長紫星雪乃、才気溢れる彼女の腕前は、三人娘の中で一番上手くなっており、何より打倒テラへの熱意に満ちていた。
五番隊隊長月読命、刀の中から霊力によりゲーム操作を可能とした彼は、アマテラスを守護することへ全力を尽くすだろう。
六番隊隊長須佐之男命、逃げ足だけは神レベル。
七番隊隊長マサト・アストレア、ゲームはほとんどしたことがないが、沙耶さん譲りの気配り上手を見込み補給を任せた。
八番隊隊長ヴェネリス・アストレア、ファンの数だけならこの中で最多を誇るだろう。
完全にお飾りだが、味方を鼓舞するのは得意のはずだ。
九番隊隊長山岸心寧、日本のファン数ならアストレアにも負けてない。
こちらも支援要員だが、彼女の下で戦う兵士はやる気が違うはず。
十番隊隊長高橋秀樹、マンションのコンシェルジュ。
急遽、数合わせでお願いした。
いつもアマテラスがお世話になっており、その奉仕精神は戦場でも頼りになってくれるはずだ。
そして総大将、天照大御神。
当初、幸江たちは水瀬裕子に隊長をお願いしようと思っていたが、知り合い以外と絡みたくないと駄々をこねた人。
結局、コンシェルジュさんに無理を言い、多大な迷惑を掛けている張本人。
姉弟と仲直りしようが、登録者数が増えようが、根本的にはあまり変わっていないようだ。
以上、不確定な要素を多分に含んだ布陣をもって、テラを討つ。
チーム名は『ドラゴンバスターズ』、名前だけはまさにテラを倒すに相応しいものだった。
「作戦としては、合計二十個ある拠点を出来るだけ占領して、一時間後のタイムアップでの勝利を目指すわ」
ヒルコがボイスチャットで皆に伝える。
「テラを撃破するのはかなりリスキーだし、テラがいる本陣を攻めるのも同じことよ」
「こちらの有利な点は数が多いことだから、それを最大限に生かしましょう」
個人スキルでは誰もテラには勝てないだろう。
ならば搦め手で勝つと伝える。
「始まったら、まずは味方がどれだけあっちの陣営に入っているか、動きを見極めるわよ」
「アマテちゃんのファンなら、こちらを積極的には攻撃してこないでしょうし、ジリジリと攻めていきましょう」
このゲームは、味方を攻撃することは出来ない。
だが、司令官と隊長が出した指令を守らず、自分勝手な行動をした兵士を、軍規違反とみなし退場させられるシステムがある。
だから、兵士となったプレイヤーは基本的には指令を必死にこなそうとするのだが、アマテラスのファンならわざとそれを破ることもあるだろう。
そもそもニワカプレイヤーならば、指令そのものを遂行できないことも多いはずだ。
結果として、向こうの戦力は自滅に近い形で減っていく可能性が高かった。
あとは向こうの隊長に、こちらの味方が一人でもいてくれれば、圧倒的に有利となる。
それらを見定めるのに最初の十分を使うと決めた。
「向こうの隊長と戦うのは私と幸江と雪乃だけ、あとの隊長たちは向こうと鉢合ったら必ず逃げなさい」
テラ陣営の隊長はプロゲーマーだ、素人の腕では太刀打ちできない。
隊長がやられると、その部隊の誰かにランダムで指揮権が移る。
身内以外に隊長を任せてしまうのは不安が大きい上に、アマテラスが動揺する。
つまり、こちらの隊長は誰一人として欠けてはならなかった。
さらに、今回隊長に選ばれなかった十人のプロゲーマーはランダムで両陣営に配置されることとなった。
そうなると、Pを付けた敵側のプレイヤーが味方に紛れ込んでいる可能性もある。
いざという時に裏切られて、こちらの不利になるような動きをされると最悪だ。
隊長は、兵士がミスをしないと退場させられない。
だから、そのようなプレイヤーは常に見張っておく必要があり、それに人員が割かれる。
状況は、想定していたものとかなり違ってしまった。
それでも、今よりテラに勝てる可能性のある機会などそうそう巡っては来ないだろう。
やるしか無いのだ。
「始まるわよ、準備はいい?」
「「「はい!」」」
こうして、テラとアマテラスによる、ゲームを舞台にした全面戦争の火蓋が、切って落とされたのだ——。




