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四十年目のスキャンダル

 パソコン画面の前には、ハッシュボブの気の強そうなアジアンビューティーが座っている。

 その隣には、アマテラスがいつものポーズでオープニングの準備をしていた。


「みんなを照らす、希望の光、あまちゃんねる……ぴかー」


 二人とも目の上に指で菱形をつくり、始まりの合図を出した。


「今日はね……姉君が出かけているので……マサトさんに来てもらいました」


「どうも初めまして、マサト・アストレアです」


「マサトさんは私の親戚で……今はモデルをしてます」


「モデルと言っても名ばかりですけどね、今は会社の事務仕事と家事手伝いがメインです」


「見ての通り、細くてうらやましい……私は最近、毎日ごはん食べてるから太った……」


「そんなことないですよ、あまてらすさんこそ男性にとって理想だと思いますよ」


 和やかに会話が進む中、コメントが次々と書き込まれる。


『アリ寄りのアリ』

『ふつくしひ……』

『黄金比ってこういう人のこというのだな』

『要チェックや!』


「そういえばマサトさんは……あの有名女優さんの娘なんですよね?」


「まあ、一応そうなりますね、ワタシは認めてないですけど……」


『有名女優?名前的にハーフだよな?』

『マサトって日本名だと男だけど、海外だと女性にも使うんじゃね?』

『アジア系の顔してるし、誰だろうな?』

『ちょっとまて、有名女優でアストレアって一人しかいなくね……』


 コメントが引っ切り無しに書き込まれ、特定するように考察が始まっていた。


『いやいやいやいや』

『ないないないない』

『でもよ、なんとなく面影あるよな』

『海外の女優に詳しい特定班はよ』


「ちなみに、お名前出しても大丈夫……かな?」


「はい、許可は貰ってます」


「では発表します……マサトさんのママは……『ヴェネリス・アストレア』さんです」


 その瞬間、コメント欄が一瞬の空白ののち、濁流のように流れだす。

 

『ちょっ!!!!』

『永遠のアストレア!?』

『これ……名誉棄損とかにならない?』

『それって、あまてちゃんも親戚ってこと!?』


 その後、嘘か本当かでコメント欄での議論が始まった。

 当人たちはそのことへ特に触れず、まったりとした会話をして放送は終了した。


 

「はい、おつかれさまでした」


 幸江が二人を労う。


「再生回数、だいぶ稼げましたね」


 蕚が数字を数えながら笑顔を見せた。


「今回もみごとにバズったな!」


 雪乃が覚えたてのネットスラングを得意げに使った。


「……これ、物凄い沢山の人が見てるんだよね?」


 マサトが眉を寄せて飲み物を口に運ぶ。


「マサトさんはウチに居候の身ですからね、存分に使わせて頂きます」


 幸江が家主の特権を行使していた。


「ごめんね……マサトさん」


 アマテラスが申し訳なさそうに詫びる。


「いや、いつかはバレるから、身内の役に立てるならその方が良かったよ」


 マサトが手を振って、気にしないでと伝えた。


「さーて、明日は祭りよ!世界中がこのチャンネルを見るわ、気合入れなさい!」


 すでに髪の毛がほとんど黒くなってしまったヒルコが、SNSを使って告知を乗せた。


『事の真相は明日の放送を見てもらえればわかる!本人が登場するかも?乞うご期待!』



 そして翌日。


「みんなを照らすぅ!希望のひかりぃ!あまちゃんねるぅ!ぴかぁ」


 アマテラスより前に出て、カメラに写り込むアストレア。


「ほ、本日のゲスト……世界的女優……ヴェネリス・アストレアさんです」


「ニホンノォ、ミナサマァ、コン、ニィチワァ!」


「え……さっきまで普通にしゃべってたのに」


「ノリよぉ、なんかぁネット配信?ってのぉ、初めてだから面白くってぇ」


「そうですか……実は、昨日、マサトさんに来てもらって」


「観たわぁ!あの子カメラ映えするわねぇ、さすがワタクシの娘よぉ」


 その言葉で、コメント欄が爆発する。


『omg……』

『No way!』

『You’ve got to be kidding!』

『That’s unbelievable!』


 同時通訳で流された英語圏のリスナーが次々とコメントを打ち込む。


『マジだったか!』

『父親だれよ!?』

『というかアストレアのスキャンダルって40年で初めてじゃね?』

『偽物派息してる?』


「マサトさんは……納得してないみたいだったけど……」


「反抗期かしらぁ、ワタクシが作ったんだから、間違いなくワタクシがママよぉ」


「あの……それで聞きにくいですけど……お相手は……?」


「相手はねぇ、ニクスっていうメス猫よぉ」


 あまりにもセンセーショナルな発言に、コメント欄が爆発した。


『意味わからん!アメリカンジョークか?』

『LGBTきたね』

『相手がネコならアストレアがタチなのか』

『やっぱこのチャンネルは放送事故がつきものなんだよなぁ……』


 結果、この動画は過去最高の再生数を叩き出し、アマチャンネルは世界トップレベルの知名度を誇る配信番組となった。


 ヒルコと幸江たちの計算通りに事が進んでいた。


 これまでの事は、全てテラを倒す布石。

 それが打たれていたのだ。

 


「準備は整ったわ、明日テラを倒すわよ」


 ヒルコがマウスを持ち、パソコン画面を開く。

 

「『Dragon Dominion』、このゲームを決戦の舞台にするわ」


 画面に提示したのは、大規模リアルタイム戦略シミュレーションゲーム。

 プレイヤーが龍と神の陣営に分かれ、最大千人対千人で戦う、戦略と個人戦闘のスキルが融合されたものだ。

 

 役割分担と補給線管理で戦略性を生み出し、プレイスキルと盤上戦略が同時に求められるものとなっている。

 兵士・指揮官・補給員などの役割を選び、一般兵士は自分目線のFPS、司令官はRTSマップで部隊を配置し兵士プレイヤーに命令を送る。

 

 つまり指揮官の命令を、兵士が正確に実行することで戦術が成立するのだ。


 勝利条件は本拠地制圧か、敵陣営の指揮官である『神将』や『竜王』を倒すこと。

 あとは時間切れ判定による制圧拠点数で、勝敗が決まる。


 本来なら、指揮官などの役割は集まったプレイヤーの中からランダムで決められる。

 だが、今回はコラボ企画として、『Dragon Dominion』運営に掛け合い、指揮官をアマテラスとテラに固定してもらったのだ。

 

 『あまちゃんねる』は、すでにゲーム会社を動かせるほどの知名度を手に入れていた。

 そして、両陣営に参加できるユーザーは、当日の抽選によって決められることも約束してもらった。


 その結果、テラの陣営についているプレイヤーであっても、アマテラスのファンならば寝返りを期待できる。

 普通ならプレイヤーランキングを下げるような行為はしないはずだが、にわかプレイヤーならそのデメリットを気にしない。

 上手くいけば1対1999人という圧倒的な戦力差すら起こせるかもしれないのだ。


 そのために、話題性重視の配信をしてフォロワーを増やした。

 ゲームに興味無い層を取り込み、アマテラスの外見に惹かれただけの面白半分で参加するプレイヤーを呼ぶ算段だった。

 

「昨日、テラに話を通しておいたわ、興味を持ってくれたからあとは戦うだけ」


 テラは、ドラゴンが出てくるゲームが好きな傾向を持っている。

 だから、ヒルコはこのゲームを選んだ。


「卑怯だなんて言ってられないわ、相手はあのテラだもの」


 そのためなら、いかなる手段も辞さない。


「龍退治……やり遂げるわよ!」


 人事は尽くした。

 世界中を巻き込み、場を整えたのだ。


「……うん!」


 アマテラスは拳を握り、その瞳に炎を宿らせる。

 それはまさしく父親と同じ光であった——。

広告の下にある☆☆☆☆☆から、作品の率直な評価をよろしくお願いします。


また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、ものすごく嬉しいです。

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