表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

195/260

あまちゃんねる

 デスクトップパソコンの前で、アマテラスがダブルピースをする。

 そのポーズは今までと違い、腕を額まで上げておでこにピースで菱形を作っていた。


「……みんなを照らす……希望の光……あまちゃんねる……ぴかー」


 引き()った顔はそのままに、新たなオープニングが完成していた。

 彼女の背後には、なぜか真っ黒な刀が床に刺さって、映像に見切れている。

 

 それはあまりにもシュールな絵面だった。

 

 なぜそんなことになったのか?

 それは、姉弟の和解によって引き起こされた。



「これでやっと、姉弟仲良く暮らせるわね」


 ヒルコが安心したように告げる。


 その視線の先には、弟二人が宿った黒刀を大事に抱えるアマテラスの姿があった。


「ヒルコ姉……ありがとう……」


「私はあなた達のおねーちゃんだからね、当然よ!」


 そう言って胸を張る姿は、頼りになる姉そのものだった。


 

 もともとヒルコは、アマテラスの前に死産で生まれた子だった。

 アルから継いだ膨大な力に耐えられず、生きてこの世に出ることはなかった。


 だがその魂は、強大な力を持ったまま現世を彷徨い続け、他の魂を吸収し続けた。

 自我も持たずに、ただ怨念の籠った魂を溜め込み続けた結果、最凶の邪神と成り果てたのだ。


 そして、妖怪大戦争と呼ばれた戦いにおいて、アルに名前を告げられ自我が形成された。


 その時より、ヒルコは弟妹の存在を意識することとなった。


 妹が苦しむのをなんとか助けてあげたい。

 その一心で何度も洞窟へ足を運んだ。


 しかし、邪神であるこの身には様々な制約が掛けられている。

 現世にいられる時間も少ない。


 それでも、妹は徐々にヒルコの来訪を喜んでくれるようになった。

 その姿に愛おしさを覚え、いつか妹が自由に生きていけることを願った。


 今回の事は、本当に良い機会だった。

 

 他の妹と協力し、洞窟から出させて、現代の生活にも慣れさせていた。

 ツクヨミの魂も癒え、目覚める準備も出来ていた。


 しかも、ニクスがスサノオを捕まえてくれると言い出した。

 キツイお仕置きのついでにだったが。


 ずっと捕まえようとはしていた。

 後悔を抱えた姉弟が、それを払拭するには会わせるしかないと思っていたからだ。

 

 だが、スサノオは、ヒルコを恐れて逃げ回っていた。

 そして、逃げ足だけは本当に神レベルだった。

 

 だから、ニクスに常闇の太刀を預けたのだ。

 

 アルが、ヒルコの膨大な呪力を吸わせるために作り出した神器。

 そこにはツクヨミも眠っている。

 もし、スサノオを刀に宿すことが出来たなら、兄弟の再会が叶う。


 それがヒルコの計画だった。


 なにより、アマテラスを救おうと本気で思う人間が現れてくれた。

 弟と和解し、人間の温かさに触れられれば、きっと妹は立ち直れるはずだ。

 

 そして、ヒルコの思惑通り、姉弟は無事にお互いを許すことが出来たのだ。

 あとは、アマテラスがひとりで立てるだけの強さを持たせるだけだった。


 大事な妹を想う姉は、これからが本番だと気を引き締める。

 


 先ほど姉弟の絆を取り戻し、喜びへ浸ってたアマテラス。

 

「それで、あとは動画の方だけど」


 だが、姉から不意に言われた言葉は、私に冷や水をぶっ掛けた。


「……え!?なんでヒルコ姉がそのこと知ってるの?無理!」


「だって、あのチャンネルの一番初めの登録者は私よ」


 あまりにも衝撃的な事実を告げられる。

 あの放送事故としか思えない動画の数々を、最愛の姉に全て見られていた。


 羞恥プレイ、無理。


「それでね、まず、オープニングに紹介メッセージと決めポーズが欲しいわね」

「次に、アマテちゃん一人だと会話が持たないから、ナレーション役とツッコミ役を用意しましょう」

「それは、ツクヨミとスサノオがやればいいわ」

「あとは、しばらくゲームを私と一緒にやりましょう」

「それなら会話も弾むはずよ」


 ヒルコは、動画の改善案を一気に並び立てる。


「あとは結界を張るから、その刀を渡しなさい」


 姉が私の手から刀を取る。

 そして、パソコンのある撮影部屋に入ると、その床に刀を突き立てた。


「これでしばらくは私も現世にいられるし、二人の声もマイクで拾えるわね」


 テキパキと場を整えていく姿は、小学生のような外見とは相反するもの。

 世界幽世連盟理事長の立場は伊達じゃなかった。


 そして、新たな形となった私の動画『あまチャンネル』は再始動した。



「す、素晴らしい出来となりましたね!」


 幸江が、上ずった声で褒めちぎる。


「確かに、会話は成り立っていたと思いますえ」


 蕚が、客観的な意見を口にする。


「凄いじゃないか!今までで最も配信動画らしかったぞ!」


 雪乃が喜びの声を上げた。


 確かに今までで一番声を出した。

 たとえそれが擬音であったり単語であっても、言葉は言葉だ。


 何より姉君が一緒にプレイしてくれたので、あまりカメラを意識せずに遊ぶことが出来た。


 とにかく、固まらずに最後まで配信できたのだ。

 大きな一歩だろう。


「良かったじゃない、もう少し慣れてきたらコメントを受け付けるようにしましょう」


 実は、まだコメントを解禁していない。

 放送事故動画だと、碌なコメントが来ないだろうと判断されたからだ。


 荒らし、無理。


「それじゃ、少し休んだら続きを撮りましょ」


 ヒルコが軽く伸びをして飲み物を口にする。


「コメントが付くようになったら俺らの出番なんだな?」


 背後の刀から声が上がる。


「馬鹿な事を言って炎上させるなよ」


 弟たちが、私のサポートを心待ちにしてくれていた。


 姉弟の共演によるチャンネル、それが『あまちゃんねる』だ。

 姉君が考えてくれたこの形態なら、やれる気がしていた。

 何より永く関係を断っていた弟たちと、また仲良く暮らせることになったのが、心から嬉しかった。


「あの……雪乃、幸江、蕚……ありがとう……」


 その切っ掛けをくれたのは三人の少女。

 彼女たちの行動から全ては始まっていた。


「気にするな!見返りを求めてやったことだ!」


 雪乃が嬉しそうに笑顔を見せる。


「私は、アキラさんが望むことをしただけです」


 幸江がブレを見せずに微笑む。


「うちも、チトとアキラ君のためどすえ」


 蕚も、あくまで自分のためにやったと言い張る。


 それでも、どうしようもない引き篭もりの私に、手を差し伸べてくれた少女たち。

 そこには人の優しさがあった。


 確かに過去、人間は私を追いまわした。

 

 それでも、私の秘密を知るまでは、いつも優しくしてくれたのだ。

 だから、私もそれに報いようと肉を与えてしまっていた。


 悪いのは、自然の摂理を狂わすこの力であって、人ではなかった。


 父が愛した人類は、優しさというとても美しいものを持っている。

 それを永らく忘れてた。


「……それでも……ありがとう」


 少し前まで暗い世界にいた。

 その扉を強引に開けてくれたのは、間違いなく彼女たち。


「あのね……約束のことなんだけど……」


 だからそれに報いたいと思った。


「もう叶えてもいいかなって……」


 弟たちに会えた、そしてまた昔みたいに笑い合えた。

 それで十分過ぎるほどの恩を貰った。


 これ以上望むのは無理。


「それはダメだ!」


 雪乃が、それを拒否した。


「私は途中で投げ出す気はありません」


 幸江が、遂行を口にする。


「契約を守ることは、社会人として当たり前のことどすなぁ」


 蕚が、社会の常識を説く。


「それに、テラを倒すのは私の宿願だ!」


 獰猛な笑顔で告げる雪乃の顔は、自身の望みでもあると伝えていた。


「それでも……」


 テラを倒す、私にはどうやっても無理な話。

 姉ですら無理なことを自分なんかが出来るはずない。


「そのことなんだけど、私に考えがあるわ」


 姉は含むように言い、頼もしい笑顔を見せた。


「それも含めて、まずはフォロワーを増やしましょう」


 画面に映っている、人の数を見つめる。


「そして人類の力を集結させて、アマテラスの光によって……テラを倒すわよ」

 

 その瞳は、妖しくも美しく輝いていた——。

広告の下にある☆☆☆☆☆から、作品の率直な評価をよろしくお願いします。


また、『ブックマーク追加』と『レビュー』も一緒にして頂けると、ものすごく嬉しいです。

挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ