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邪神はいつも鐘を鳴らす

 アマテラスによるゲーム配信動画は困難を極めた。

 

 まず固まってしまい、ゲームが進まない。

 その上、ゲームタイトルを告げただけで、あとは何も言葉を発せず、唯々時間のみが過ぎていく。


 結局また、八本の放送事故を取り終わった時点で、アマテラスが限界を迎えた。


 

「——それでは、本日はこれで終わりです」


 幸江が告げる終了の合図。


「少しずつですが登録者は増えています、このまま進めていきましょう」

 

 溶ける私に、無慈悲な言葉を投げかける。


 継続、無理。


「最後の方は、キャラクターが少し動くようになっていたぞ!」


 雪乃が、フォローになってない励ましを掛ける。


「なかなか趣のある音楽が聴けました」


 蕚が、私ではなく、初めて聞くレトロゲーの音を褒める。


「とりあえず、話すことに慣れなければどうにもなりませんね」

「今日から、(わたくし)たちが泊まり込み、会話の練習をしましょう」


 お泊り、無理。

 他人がずっと家にいるとか、不死身でも死んじゃう。


「布団や生活道具一式は、すでに用意して運び入れております」

「いくつかの部屋はほとんど使われた形跡がないので、それぞれに割り振らせて頂きます」

「食事等は、こちらでお作りいたしますので、一緒に食べましょう」

「ちなみに私は、アキラさんにいつか食べて頂くことを想定して、プロ並みですのでお楽しみに」


 最後の言葉だけは私ではなく、ほかの女子たちへ視線を向けていた。


「うちも、もちろん花嫁修業は済ませておりますえ」


「アルの好みをすべて把握しているのは、私だけということを忘れるなよ」


 目から物理的に火花を散らしながら、少女たちが睨み合う。


 マウント合戦、無理。


 

「どうぞお食べ下さい」


 幸江が、リビングのテーブルに料理を並べ、皆に振舞う。

 確かにおいしいのかもしれないが、他人と食べる食事は、緊張で味なんてわからなくて無理。

 

「少しくどいが、まあまあだな」


「関東のお味、いう感じどすなぁ」


 おそらく彼女らはライバルなのだろう、素直に褒めることはしない。

 

「別に、貴女たちへ食べさせるために、覚えたわけではありません」


 料理階級戦争、無理。


「私たちから料理を覚えてもらって、料理系配信者もいいですね」

「洞窟にいた時はともかく、今まで四十年近くマンションで自炊なさっていたのでしょう?」


 そう言われても、まったく使われてない調理器具を見て察して欲しい。

 食べなくても生きていけるのだ、そこにお金や労力を掛けたくなかった。

 

 料理、無理。

 

「そういえば、他の部屋には大量の本や漫画が置いてありましたけど、御自身で集めたのですか?」

 

「……あ、あれは……ほとんど……貰いもの……」


「どなたから頂いたのですか?マンションを買って下さった妹さんからですか?」


「……え……いや……その……姉君(あねぎみ)


 おそらく会話の練習を兼ねているのだろう。

 でも、グイグイ来られるの無理。


「ちょっとまて、確かアルの記憶では、お前より前に生まれた子供はとうに亡くなってるはずだ」

「今生きている子は、アマテラスが最年長じゃないのか?」


 雪乃が、記憶を探りながら聞いてくる。

 

 確かに彼女の言っていることは正しい。

 父君の()()()()()子供の中では、私が一番上。


「あら、紫星さん知りませんでしたの?あれだけアキラさんの過去に詳しいとおっしゃっているのに?」


 心の底から嬉しそうに、幸江が愉悦を目に浮かべる。


「私はもちろん知ってますよ、アキラさんの大切な御令嬢ですからね」


 そして追い打ちを掛けた。


「うちも知っておりますえ、あの方を愛しておりますさかい」


 そして当たり前のように参戦する蕚。


「な、なぜだ、なぜ私だけ知らないのだ……」


 頭を抱え、苦悩するように涙目になる眼帯ギャル。


 恋の鞘当て、無理。


「教えてくれアマテラス!それは一体誰なんだ!?」


 身を乗り出して、掴みかからんばかりに聞いてくる。

 迫力あり過ぎて無理。


「……あ……え……ヒ……ヒルコ……(ねえ)


 目を泳がせながら、なんとか姉君の名前を口にした。


「ヒルコだと?知らんぞ、そのような名前の子供……」

 

 雪乃が眉を寄せて必死に思い出そうとしてると、そのタイミングで玄関のベルが鳴る。


「誰かいらっしゃいましたね?エントランスからではなく部屋のベルですから、コンシェルジュでしょうか?」


 幸江が、リビングにあるインターフォンの親機を見ると、そこに映っているのはひとりの少女。

 その姿を見て、私は椅子から立ち上がり、慌てて駆け出す。


 そして、玄関のドアを開けて少女へ向かい飛びついた。


「……姉君ー!」


「久しぶりね、アマテちゃん!呼ばれたから来ちゃった、元気してた?」


 そこにいたのは私の姉、世界最凶の邪神であるピンク髪のゴスロリ少女、蛭子(ヒルコ)だった。



「お、お初にお目にかかります蛭子様、や、大和幸江と申します」


 体を震わせながらも、柔らかい笑みを崩さず挨拶を交わす幸江。


「お噂はかねがね伺うております、西園寺蕚と申します」


 (かしこ)まったように頭を下げる蕚。


「紫星雪乃だ、君はアルの娘……なのか?」


 不思議そうに尋ねる雪乃。


「そうよ、私がパパの長女、世界幽世(かくりよ)連盟理事長の蛭子よ!」


 ヒルコが、腰に手を当てて皆に宣言する。

 

「幽世連盟……?なんだそれは?」


 雪乃が眉を寄せて首を捻る。


「簡単に言うと、()の世ならざる者たちの集まりってことね」

「雪乃、アナタの鬼とかが住んでる世界よ」


 そう言って、雪乃の眼帯を見つめる。


「……もしかして、母の言っていた、紫星の呪いを解いてくれた邪神というのは……貴女なのか?」


「そうね、パパに頼まれたのよ」


 その言葉を聞き、雪乃がリビングの床に正座をして深く頭を下げた。


「母と紫星の呪いを解いて頂き、有難うございました」


 それは心からのお礼。

 

 長年、紫星を縛り付けていたのは、紛れもなく呪いだった。

 それをアキラと彼女に解かれたことで、母は命を救われた。

 

 そして雪乃は中学の事件の際、鬼の呪いで助けられていた。

 なにより、アキラと出会う切っ掛けを作ってくれたのだ。


 しかも、今再び、鬼の力を借りている。

 呪いは、雪乃にとっての祝福、その大本への深い恩を感じていた。

 

「紫星は長い間、ウチの子たちを大切にしてくれていたから、感謝してるわ」


 ウインクをして、好意を見せるヒルコ。

 その姿は、マセた子供にしか見えない。


 だが、その身に秘める恐怖は、穢れを祓う専門家である幸江の震えが物語っていた。


 

「姉君!……この者たちを……追い払って下さい!」


 突然、上げられた声。

 それは先ほどから、ヒルコの後ろへ隠れるようにくっついていた、アマテラスの懇願だった。

 

 涙目でその背中に縋るアマテラスは、姉がいる今しかないと必死に訴えていた。

 

「ヒルコ様!お願いです、アマテラスを私たちに預けて下さい!決して悪いようにはいたしません!」


 雪乃が頭を下げたまま、邪神へ強く願い出る。

 そこには記憶の中で共に暮らしていた、身内としての気持ちが含まれていた。


「おねーちゃんとしては、妹の言うことは何でも聞いてあげたいのよね」


 それを聞いて、アマテラスの顔が晴れる。


「でも……この子たちは本気でアナタを想って行動してるわ」

「もちろんパパのためだろうけど、少なくとも雪乃はアマテちゃん本人を気にかけてるのよ」


 背中にくっつく妹へ、優しく諭す姉。


「いい機会だから、アナタもそろそろ外に出なさい、パパに会いたいんでしょ?」


 その姿は、今まで妹へ見せた事のないもの。


「しっかり生きて、おねーちゃんを安心させて」


 すでに死んでいる姉から告げられた『生きて』という言葉。

 それより重いのもはないだろう。


「……でも……無理……」


 そこまで言われても、涙を浮かべ、拒否を口にするアマテラス。

 心の傷は、それほどまでに深かった。


「大丈夫!おねーちゃんも今日からしばらくここに住んで、協力してあげるから!」


 それを聞いて、アマテラスが目を開いた。

 そこに映るのは、喜び。


「……でも……穢れは?……前はそれでダメだって……」


 ぬか喜びにならないかと瞳を揺らす。

 

「大丈夫、それも考えてあるわ」


 その視線を、この場にいるひとりの女子へ向けて告げる。

 

「大和の娘、『常闇の太刀』を出しなさい」


「ひゃいっ!」


 その相手は大和幸江。

 先ほどから小鹿のように震え続けている大和家当主だった。


 霊を使役し、その力を持って悪霊を鎮めるのを生業とする大和。

 そんな彼女にとって、蛭子の力はあまりにも絶望的な恐怖だった。

 感じ取ることが出来る分、それはある意味テラを超えるほどのもの。


 逆らうことも出来ず、自身の影からニクスより賜った神器を取り出した。


「ちょっと借りるわよ」


 震える手で差し出された刀。

 それを軽い感じで受け取ると、そのまま慣れた手さばきで鞘から引き抜く。

 すると刀身に紫電が走り、神が目を覚ました。


『おい!我が子孫よ!もっと外界に出さぬか!鞘の中は暇で仕方がないぞ!』


 刀からいきなり声が響き、苛立ちを見せながら喚き散らす。


「久しぶりねぇ、スサノオ」


 だが、今それを手にしているのは幸江ではない。


「ずいぶんと偉そうにしてるじゃない」


 彼がテラと同じくらい、下手するとそれ以上に恐れている存在。


『…………げぇっ!……あ、あ、姉上!』



 こうして、アルの子供たちが三人揃う。

 そこにいたのは、日本最古の神々だった——。

挿絵(By みてみん)

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