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職業面接の時間です

 アキラを愛する三人の乙女が正座をして背筋を伸ばし、横並びになり前を見据える。


 相対するのは、同じく正座をする少女。

 だが、その背は丸く縮こまっており、目は泳ぎまくっていた。


 

「さて、アマテラスさん、貴女は何が出来ますか?」


 まるで面接官のような口振りで幸江が問い詰めた。


「……………………死にません」


 長考した上、答えたのは私の持つ唯一の能力。

 

 生きとし生けるもの者なら絶対に避けられない、死を逃れられるという、破格とも言える力だった。


「それ以外をお聞きしてます」


 だが、それはばっさりと切り捨てられた。


「何が得意なことや、社会で役に立ちそうなことはありませんか?」


 それは(まさ)しく面接だった。

 私の『生活費を稼ぎたい』という願いを叶えるために、まずは適性を知ることから始められたのだ。


「…………………………編み物」


 私が洞窟で三千年近く行っていた、自分の髪の毛を使った作業。

 なんとか社会で通用しそうな特技といったら、それくらいしか思いつかなかった。


「それで、この部屋の管理費や諸々の生活費が払えると思いますか?」


 この大和幸江と名乗る少女はずっと笑顔だ。

 だけど、それは表面だけで、目の奥はまったく笑ってない。


「…………無理」


 確か、管理費と積み立て金が毎月十万円くらい引き落とされている。

 それに光熱費やネットショッピングなど諸々を合わせると、毎月二十万円ほどが必要になる。


 何かを編んでフリマで売っても、そんなに稼げる気がしない。

 かといって、人と関わる仕事なんて絶対無理。


「では、どのような仕事を御希望ですか?」


 御希望……口で説明するのは難しいから、メモに書き出してみる。


 人と会わない、時間に縛られない、外に出ない、給料が高い。


 これが絶対条件だ。

 そうじゃなきゃ無理。


 頑張って書いたメモを、幸江へ渡す。

 彼女はそれを読み上げ、他の二人に聞かせた。


「随分と社会を舐めているな」


「これやと、うちの会社で働いてもろうて……いう手も使えしまへんわなぁ、他に示しがつきまへん」


 酷評、無理。


「アマテラスさん、貴女は普段何をなさってますか?」


 普段……寝て起きて、ネットや動画見て、ゲームしてる。


 それを書き出し、差し出す。


「ダメ人間ではないか、私は悲しいぞ」


「性根のところから、叩き直さなあきまへんようどす」


 正論、無理。


「分かりました、それでは以上の事を踏まえまして、貴女の出来そうな仕事を考えさせて頂きます」

「また明日来ますので、お待ち下さい」


 再訪、無理。


「それでは失礼します」


「また明日会おう」


「ほな、失礼させてもろいますえ」


 こうして三人は玄関から帰っていった。

 正直、もう会いたくない。

 

 だけど、それは不可能だった。


 なんで私が素直に彼女たちの言うことを聞いているのか?

 それは幸江の能力にあった。


 彼女は影を伝って部屋へ自由に入って来られたのだ。

 そんなの反則だ、いくら鍵を閉めても意味がないじゃないか。


 魔法使い、無理。


 おまけに布団まで無くなってしまった。

 一応、あとで新しいのが届くと言っていたけど。


 ストレスで寿命が一気に減った気がする。

 私に寿命は無いんだけど。


 

 なんでこんな体に生まれてしまったんだろう。

 父君(ててぎみ)のことは大好きだけど、受け継がれたこの力だけは大嫌いだった。


 こんな体じゃなかったら、あの時、弟と一緒に死んでいたのに。

 そしたら、三千年もの長い孤独も味わわずに済んだ。


 正直、辛すぎて無理。


 ひとりで洞窟の中にいると、宇宙にひとりぼっちで放り出されたような感覚になる。

 寒くて暗くて、生きてるのか死んでるのかもわからない。

 天井から落ちる水滴の音だけが、現実を感じさせた。


 何度も自殺を試みたんだけど、血を見たくないからやり方が絞られる上、想像以上に自分が頑丈だったせいで、全く成功しなかった。


 崖から飛び降りたら一瞬で死ねるかもしれないと思った。

 でも、頭が破裂しても回復した上に、あたり一面血の海になっていて、余計トラウマが酷くなった。


 毒も無理、溺死も無理、焼死も無理。

 ただ苦しいだけで、全て回復が上回ってしまった。


 気が狂ったって、それすら治してしまう。

 どうせならトラウマごと治してくれたら良いのに、記憶だけはどうにもならない。


 おそらく、私が確実に死ぬためには、父君に頼むかテラに頼むしかないだろう。

 

 でも、それだけは絶対無理。


 父君を悲しませたくないし、テラになんて会いたくない。

 最愛と最恐は頼れない。


「疲れた……無理」


 今日はもうなんにもする気が起きない。

 このまま寝てしまおう。


 布団が無いことに気づいたが、そのまま床で眠りについた。

 洞窟の岩に比べれば、フローリングなんて柔らかいものだった。



 起きると体の節々が痛い。

 だが、そんなのは一瞬で治る。


 スマホにコンシェルジュから連絡が来ていた。

 どうやら布団が届いたらしい。

 玄関の脇に置いてあるらしいので取りに行く。


 それにしても昨日は散々な日だった。

 

 ギャルと、お嬢様と、お化けに訪問され、その上で詰問された。

 知らない人と面と向かって話すのは何年振りだろうか。

 おかげで精神的な疲労が抜けていない。


 変な時間に寝たせいか、時計を見たらまだ夜明け前だった。

 とりあえず水を飲んで、昨日途中だったゲームの続きをしよう。

 

 ネットもゲームも、姉が教えてくれた。


 父君が、テラのせいで洞窟に来られなくなってから、父君にお願いされたからと言って、たまに私の姉妹が来るようになった。

 

 その内の一人が私の姉だ。


 彼女は、姉妹の中で一番遊びに来てくれて、たくさんのおみやげにくれるので大好きだった。

 だけど、あまり長居すると穢れが溜まるとかいって、毎回すぐに帰ってしまう。


 その姉からプレゼントされたのが、パソコンとゲーム機だった。


 部屋の中で全て完結するこの遊びは、私を虜にした。

 それから、新しい機種が出る度にやり込んだ。

 お金の出所が、妹の財布からだというのが心に引っ掛かってはいたが。


 だから、働きたいという気持ちは本当に持っていた。

 その当てと行動力がないだけで。


 昨日来た彼女たちは、本当に私に合った仕事を探してくれるのだろうか。


 もし、働くことが出来たら、少しずつでも妹にお金を返していきたい。

 たとえ何年かかろうとも、時間は無限にあるのだから。


 でないと、父君にも胸を張って会えない気がする。

 どちらにせよ、外には出られないんだけど。


 我ながら無理を言ったとは思う。


 他のふたつはともかく、テラを倒すなんて天地がひっくり返っても無理。

 それこそ、核爆弾を抱えて特攻したってお互い生き残ってそうだ。


 もしかしたら、三千年鍛え続けていれば、テラに勝てるくらい強くなれただろうか?

 でも、省エネ暮らしを心掛けてたので、運動はまったくしていなかった。

 

 運動どころか、本当に何にもしていない。

 息すらするのを忘れていた時もあった。


 私の人生とは一体なんなのだ。

 明るくなれる要素がひとつもない。


 父君は、何をもって『天照(アマテラス)』なんて名前を付けたのだろう。

 光のない私が、照らせるものなんてどこにもないのに。


 

 鬱々とした気分でゲームをしていると、インターフォンが鳴った。

 画面越しにあの三人が映っている、どうやら本当に来たらしい。

 

 招きたくなんてないけれど、足掻いたところで強行突破されるのだ。

 諦めて入室を許可した。


「おはようございます、早速ですが貴女の仕事が決まりました」


 幸江が、昨日と変わらない笑顔で報告する。


「よかったな!アマテラス!これでニートから脱出できるぞ!」


 雪乃が嬉しそうに肩を叩く。


「必要なもんは、みな用意してありますさかい、すぐにでも始められますえ」


 蕚が準備万端だと言って、様々な機械を床に並べ出す。


「それでは発表いたします、貴女がこれから始める仕事は——」


 告げられたのは、確かに自分が出した条件を全て叶えたものだった。

 でも、どう考えても私に向いているとは思えない仕事。


「……………………………………無理!!!」


 

 こうしてアマテラスは、人生で初めて職へ就く。

 それが成功するかどうかは、神すらもまだ知らない——。

 

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