雪乃の世界は、神によって開かれる
この小説
『神の瞳に恋してる』
は誤字脱字、言い回しチェックと専門用語(外国語や古語など)以外でAIは使っておりません。
文章、内容ともに自分で考えてます。
そのせいで、拙さや粗が目立つとは思いますが、よろしくお願い致します。
出来る限り、毎日更新していきたいと思っております。
紫星雪乃の世界は閉じていた。
『僕の子供を産んでくれないか』
その閉じた世界を開くことになる最初の鍵。
彼女にとって全ての始まりとなる福音。
そして、雪乃の母と彼が——子供を作る事へと繋がる言葉だった。
それを告げたのは、高校一年の七月という中途半端な時期に転校してきた、新たなクラスメイト。
彼は、少し背は低いが、非常に整った顔立ちをしている少年だった。
髪にシルバーのメッシュが無造作に入っており、この学業優秀な者しか入れない特進クラスでは一際目を引く姿をしている。
「初めまして、僕の名前は一条アキラ、よろしくね」
私の座っていた席に近寄り、その簡素な自己紹介をした。
「お願いがあるんだけど、よかったら僕の子供を産んでくれないかな?」
そして、唐突に自分の子供を産めと言い放ったのだ。
一昨日転校したばかりで、きっと私のことを知らないのだろう。
だが、例え知っていたとしても、ほぼ初対面の相手に告げて良い言葉ではないと思った。
その無遠慮な言葉を受けて、私はお返しに突き刺すような視線を向けた。
「私に近寄るな」
冷たいガラスのように硬質で透明感のある声が、教室内に鋭く響いく。
その声を切っ掛けにざわめきが起こった。
授業以外では、滅多に口を開かない私が声を上げたせいだろう。
「無理にとは言わないけど、考えておいて」
彼は、私の拒絶を歯牙にもかけず、微笑みを絶やさずにそう伝えて席に戻った。
それを眺めていたクラスメイトたちが、声のトーンを落とし、それぞれヒソヒソと話し始める。
——私には噂があった。
『紫星雪乃に近づく男には必ず不幸が訪れる』というものだ。
事実として、私を口説いた男子が立て続けに大きな怪我を負っている。
そのせいで、クラス内のみならず、この学園全体の中で孤立していた。
放課後、私はいつものように帰り支度を済ませ、足早に学校を出る。
友人など一人もおらず、校内に用事など何もないからだ。
校門から少し歩いたところで、再び先ほどの転校生に声を掛けられた。
「紫星さん、さっきの話なんだけど考えてくれたかな?」
私はその言葉を、完全に無視して歩き続けた。
「初めては怖いかもしれないけど、僕、慣れてるから安心してくれていいよ」
「君と僕の子供なら、きっとすごくいい子が生まれると思うんだ」
「結婚は出来ないけど、金銭的な援助は必ずするから、出来るだけ多く産んで欲しいな」
「可能なら十人以上欲しい、住むところやお手伝いさんはまかせて」
歩きながら、延々と繰り出されるふざけた言葉の羅列。
私はそれにまったく聞く耳を持たなかった。
そういえば彼の転校初日に、クラスメイトの女子たちが、私の近くでこの少年の事を話していた。
一条アキラは、日本有数の財閥である一条家の長男で、その界隈では神童として有名だったらしい。
ただ、ここ数年は体調を崩して長い療養生活を送っていて、表舞台には出て来なかったのだという。
それが理由なのか、一条家からは廃嫡の身分として扱われているとの事だった。
私にとって、それらの情報は興味の無いどうでもいい事だ。
彼だけではない、男という存在そのものに強い拒否感があった。
だから、いい加減その口を黙らせるために立ち止まり、彼を見据えた。
「貴様——死にたいのか?」
瞳に、氷のような冷たさを宿らせる。
実はこのような事は、今の高校へ入学した時から幾度となく起こっていた。
その理由は、私の外見が男の目を引きやすいからだ。
端正な鼻筋に、鋭く整った切れ長の瞳。
髪は腰の辺りまで真っ直ぐに流れ、前髪も眉の位置で揃えられている。
しっとりと紫がかったその色彩は、陽の光の中で冷ややかな艶を放つ。
モデルのような背筋の伸びた姿勢は、意思の強さと肉体の均衡の良さを表す。
肌は、日差しを拒んでいるかのように白く、見る人に儚さすら感じさせた。
この見た目のせいで、入学してから男子生徒に付きまとわれる事が多々あったのだ。
しかし私の強い拒絶と、立て続けに起こった事故による悪い噂のおかげで、最近は皆無となっていた。
きっと、この男子もその類だろう。
先ほどの一言で、いつものように切って捨てたつもりだった。
しかし、彼は私の言葉を受け、微笑みを絶やさずに答える。
「死にたくないよ、僕は死ぬことだけは全力で回避しようと思ってるんだ」
普通の男子なら、即座に撤退するであろう視線と言葉。
だが、彼は微塵も恐れず正面から答えたのだ。
思わず眉間に皺が寄る。
彼を、完全に撥ねつけなければならない輩と認識した。
「ならば、私には近づくなと言っている!」
噛みつきそうなほどに歯を剥き睨む。
それは警告だった。
触れてはならないものが、確かにそこにあると伝えていた。
「大丈夫だよ」
だが、その意味をすでに理解してるかのように、優しく言葉を返す。
そして彼は、流れるように私の手を握った。
意表を突かれ、思わず反応が遅れる。
慌てて振りほどいた瞬間——彼の頭部に何かが勢いよく衝突した。
それは、人の拳ほどもある石だった。
石は彼にぶつかったあと、そのまま落ちて、鈍い音を立てながら地面へ転がる。
目の前で起こった惨劇に、私は目を見開き、口元を抑えた。
こうなることはわかっていたのに、また被害者を出してしまった後悔に、身体が震えだす。
「生きているか!」
なぜ、手など握らせる隙を作った。
もっと強く拒絶していれば。
もっと冷たく完璧に突き放していれば。
押し寄せる自責の念と共に、その場へ立ち尽くす彼の容態を確認する。
地面に落ちている石の大きさを考えれば、良くて骨折、最悪の場合は即死もありえた。
「——平気だよ」
だが、私の心配をよそに、彼はまるで何事も無かったように無事を告げた。
確かに石は当たったはずなのに、血を流すどころか傷ひとつ無い姿で微笑みを湛える。
「僕は、基本的に物理ダメージを受けないからさ」
そういって朗らかに笑う彼の顔を、私は驚愕の表情で眺めていた——。




