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異世界を愛した男、転生。

 …異世界。それは、竹岸真也(タケギシシンヤ)にとっては唯一の逃げ場であった。真也にとって日常とは酷く空虚なものである。退屈、無駄、憂鬱、言葉を上げたらきりがないだろう。真也にとって世界とは無意味なものなのである。外で周りの大人を見ればスーツを身に着けた人がスマホを片手に何度も頭を下げている。中高生はエナジードリンクを飲みながら家に引きこもってパソコンを触っている。こんな世界のどこが楽しいのだろうか。


「…つまらん。異世界に行きたい。」


 真也は一言呟き、ベッドへ寝転がった。ベッドの上や机の上は漫画本と描きかけのイラストで溢れかえっている。真也が唯一この世界での楽しみとしているものが異世界というジャンルである。小説、漫画、イラストなど、異世界に関するもの全てを愛している。


「あー、転生したい。転移でもいい。魔法使いたい。ロボット乗りたい。勇者には…なりたくない。なんか王女とかに命令されそう。スローライフ送りたい。あ、でも誰かに頼りにされる冒険者にもなりたい。」


 そういって真也は机の上のエナジードリンクを飲んだ。今日はもう五本目である。客観的に見れば、彼は中高生に見えるだろう。しかし、彼の実年齢は今年で二十四歳である。とっくに成人済みなのである。


「…あぁっっ!?頭…!」


 突如、頭痛が真也を襲った。恐らく、日常的に過剰な量のエナジードリンクを飲んでいたことが原因だろう。真也はその場に倒れこんだ。幸い、ベッドへと倒れたので頭は打っていない。しかし、友達や家族にも見捨てられているため、助けを呼ぶことはできなかった。


(…俺、ここで死ぬの?嫌だ、まだ読んでない漫画や小説があるんだ。まだ、生きていたい。このつまらない世界じゃなくて、美しい世界や物語に触れていたい。嫌だ、嫌だ!!!)


 真也はそのまま動かなくなった。意識を強く持とうとしたが、限界はすぐにやってきた。眠りに落ちるよりも遥かに早かった。まさか、エナジードリンクを飲みすぎたことが原因で死ぬとは本人も予想していなかっただろう。まぁ、一日に五本、それも日常的に飲んでいたのなら気づかないわけはないような気もするが。


 真也は薄れゆく意識の中でいろいろな記憶を見た。それはすべて異世界に関することであった。家族や友人のことは流れず、異世界の思い出だけが流れてゆく。そうだ、彼は、この世界では生きられなかったのだ。肉体はこの世界にいながら、魂だけは異世界に行ってしまっていたのかもしれない。


 ◇◇◇


「…ん?」


 真也は目が覚めた。先ほどの頭痛は嘘のようになくなっている。真也は自身の手を頭に当てた。すると、ある違和感に気付いた。


(…あれ、なんか手、小さくない?)


 自分の手を見てみると、明らかに小さくなっている。足も細くなり、身長も縮んでしまっているようだ。そして、周りを見てみると古代遺跡のような場所にいたのである。


「…異世界、来た?」


 自然と言葉が出た。肉体の変化、突然の転移、見慣れない建物。これらの少ない情報から脳が自然と判断したのであろう。普通の人ならば、起きて知らない場所にいたらとても動揺するだろう。しかし、真也はある感情が体の奥底から湧き上がってきていた。そう、興奮だ。


「これが…異世界。俺が望んで、俺が夢見た世界。あぁ、美しい。」


 真也は目の前の遺跡に興奮していた。ただの古ぼけた石の建物だが、真也にとってはなにか心にグッとくるものがあったようだ。


 真也が遺跡に入ろうとすると、突如として目の前に光るパネルが現れた。まるでゲームのステータス画面のようだ。


 シンヤ・タケギシ Lv0

 年齢 : 17

 種族 : 人間

【能力値】

 HP : 10/10

 MP : 100/100

【スキル】

【称号】

 異世界からの来訪者


「…あぁ、最高。」


 シンヤはさらに興奮していた。気づいたら知らない場所にいたことも、自分の名前がカタカナに変わっていたことも、最早どうでもよかった。自分が夢に見ていた世界にいる。これが現実なのかはわからないが、今のシンヤにとってこの事実だけが唯一の幸せなのである。


 シンヤはステータスを閉じると、遺跡を探索し始めた。巨大な塔がいくつも建てられている。ほとんどの建物が風化で崩れてしまっているが、形はまだ残っている。そして、シンヤはあるものを見つけた。人の形をした人形のようなものが、道に倒れている。


「…なんだ、これ。魔物か?」


 シンヤは人形のようなものを触ってみた。金属のような質感だが、どうやら違うらしい。なんというか、土を固めたような感じである。


(ふむ...ここがどう言った世界観なのかが分からないからなんとも言えないな。見た限りだとただの古ぼけた鎧だが、ロボットのようにも見える。材質は土を固めたようなもの...俺の経験からすると初級ダンジョンで手に入る装備のようだが...いや待て、これが本当に装備なのか?魔物の残骸のようにも見える...)


「...わからないな。とりあえず放置で。」


 シンヤはひとまず放置することにした。幸い動く様子もない。危険性はないと判断した。


 それから少し歩くと、一際大きな建物を発見した。縦長の大きな建物だ。まるで工場のようである。入口に金属板がはめ込まれており、文字が彫られている。当然ながら解読不可能である。


「おぉ、文字...凄い...って」


 シンヤは一瞬立ち止まった。金属板は錆びていたものの、反射はする。そこに映っていたのは自分の姿ではなかった。髪は黒髪から金髪へと変化し、目の色も同じような色へと変化している。そして、気にもしなかったが、服はギリシャ神話に出てくるようなものに変わっていた。


「...誰だ、こいつ。」

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