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私が嫌いな冬

作者: 砂上楼閣

私は寝るのが好き。


温かい部屋で、柔らかくてふんわりした毛布に包まれて、誰にも邪魔をされずに寝られたら、それだけで幸せ。


眠れずに過ごす夜は長くて、退屈で、それでも温もりに包まれて目を閉じる事ができるのは幸福だと思う。




温もりのある家が好き。


寒ければ暖房を付けて、温まってきたら楽な格好をして。


温かい食事と、お風呂と、お布団がある、それだけで十分過ぎるほど幸せを感じる。




私は寒いのが嫌い。


手の先が、つま先が、体の端から、少しずつ凍えていくあの感覚が嫌い。


芯まで冷え切ってしまったら、そんな事考えるのもしたくない。




冷たい寝床が嫌い。


どんなに丸まっても、冷たい地面に接する所から、体の熱がどんどん奪われるから。


冷たくて固い床に体温を奪われて、寒さとは別の痺れと震えを自覚しながら少しでも熱を逃すまいと丸まった時の記憶は、今でも夢に見る。




隙間風を、雨風を凌げるだけでも幸せを感じる事がある。


薄いビニール越しに冷たく刺すような雨粒を延々と感じ続けて、いつしか温もりすら感じてしまうようになった時。


まだ私は生きているんだって、本当に強くそう感じたのをいまだに忘れられない。




固くぼろぼろと崩れるご飯の一粒とて残すまいと、大切に齧り付いた。


生きるため、体を温めるため、動くために、お米の一粒だって残せなかった。


プラスチックの容器が変形するまで噛むと、ほんのりと甘く感じた。




お前の寝床だと濡れてぐちゃぐちゃになった地面を指さされ、丸太を3本並べてその上で寝た事がある。


濡れたら寒さで震えが止まらなくなって、いずれは震える事すらできなくなる。


体は痛かったけれど、それでも確かに丸太は私の命を繋いでくれた。




冷たい雨と風が吹き荒れる林内で、地面に置いたリュックにしがみつくように仮眠した。


風上にリュックがあれば、直接雨や風は当たらない。


それだけで幾分かはましになった。




冬にはあまりいい思い出がない。


冬以外にも、大変な事はたくさんあったけれど。


それでも、冷たい床に体温を奪われるように、命が少しずつ死に近付いていくような感覚のする冬は、一番嫌い。




私は冬が嫌い。


私は寒いのが嫌い。


私は冷たい雨や風が嫌い。




私は夏の暑さが和らぐ頃に思い出す。


寒くて、冷たくて、辛かった時の記憶を。


冬の訪れは、私の内にある熱すらも奪っていく。




いつかこの思い出が、温かくて、楽しいもので上書きされますように。


そんな事を暖かい室内で願ってみる。


今この瞬間だって、いつまでも続くものではないのを知っているけれど。

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