失恋をした。暑い夏の日だった。
私は失恋をした。暑い、暑い夏の日だった。
好きになったきっかけは単純。ちょっと優しくされただけだった。あっという間に恋に落ちた。
恋をしたばかりの頃は楽しかった。ちょっと目が合えば奇跡のように感じて、席が近くなれば運命のように感じて、この後劇的な展開が起きるのかとわくわくした。少し話しただけで舞い上がり、もらった言葉を頭の中で繰り返した。宝物のようにその言葉を記憶の奥底にしまい込んで抱きしめた。
それでも、何も起こらなかった。臆病な私は相手が動くのを待って、何もしなかった。私のことを友達としか思っていないあの人からアプローチも何もあるわけがない。何も起こらないまま2年が経ち、クラス替えになってしまった。
物語のような恋をしたかった。まだ諦めきれなかった私はクラスが離れてからは積極的に動こうと決めた。
会話できるようになった。誕生日プレゼントを渡せた。お返しに私の誕生日にはチョコレートをもらった。食べるのが勿体なくて、賞味期限を確認しながらもしばらくは机の上に飾っておいた。
気持ちが沈み込んだり浮き上がったり。恋は心臓に悪い。
そして、どん底に墜ちる瞬間もあるのだ。
私の好きな人が、人気のない教室で同じクラスの女の子と仲良く手をつないでいるのをたまたま見てしまった。二人で肩を寄せ合って楽しげに微笑みあっていた。私には、見せたことのない笑顔だった。
わざわざ確認するまでもない。失恋だ。私は失恋をしたんだ。これが3年間の恋の幕引きだ。
帰り道を早足で歩く。水が顔をぬらすが、泣いているわけじゃない。泣いていない。ただ、汗をかいているだけだ。家に帰ってすぐ、自分の部屋に閉じこもった。
全部、終わりにしよう。あの人にもらったチョコレートを飲み込むのと同時に失った恋の残り香さえも飲み込んで終わりにしよう。
好きになって幸せだったって素敵な言葉だと思う。それでも私には嘘だとしても思うことができない。この失恋の痛みを味わうくらいなら、恋をしない方がよかった。恋に気がつかなければよかった。
上手な恋の忘れ方を誰か教えて。