夏に消える
婚約していた彼ー。
4年9ヶ月付き合った彼ー。
愛してると伝えてくれた彼ー。
私は幻を見ていたのだろうか。
友人と浮気、ヘルス、ソープ、2人でのデート。
されたくないと願っていたことは全てされた。
これでもかと傷つけられた。
何度も信じようと努力した。
それでも彼に捧げた時間はもう戻ってこない。
4年9ヶ月前ー。
秋、肌寒さとちょうど良さが恋心を刺激した。
バイト先の先輩と。ありがちな恋だ。
あの頃は、追われる恋っていうのをしていた。
海岸で告白された。
キラキラした目が嬉しくて、好きで溢れていた。
いつからこんなに苦しくなったのか。
3年前ー。
いつもの優しい彼。
しかし、ふいに違和感を覚える。
女の勘というやつだ。
だめだとわかっていても止められなかった。
私は初めて携帯をのぞいた。
そこには溢れ出てくる異性とのやりとり。
可愛い、会える?、大好き、、、、
私を絶望させるには十分だった。
それでも覗いた自分の責任だと自分のせいにした。
この時に手を離せていれば。
この時にもっと自分を大切にしていれば。
これから遭う絶望を知らずに済んだのに。
2年前ー。
この時には相当違和感を覚えていた。
スキンシップが極端に減った。
誰かと比較するような言動が鼻につくようになった。
人間は覚えが悪い。
また私は同じ過ちを犯す。
次は財布。こういう時だけ勘が冴える。
とても財布が怪しく感じた。
中を覗くとやはり。ヘルスのカードが入っていた。
しかも1番高いコースを選択したようだ。
それも癪に触る。
これで私の覚えた違和感がしっくりくる。
私も流石に別れようと思って彼を問い詰めた。
しかし、意志の弱すぎる私はまた彼を許してしまう。
嗚呼、だからまた絶望を味わうんだ。
早く手を離さないと。人生が壊れるのに。
1年前ー。
私の誕生日。
突然、プロポーズをされた。
本当になんの前触れもなく結婚を申し込まれた。
雰囲気と自分の誕生日に舞い上がって、
その場で承諾してしまった。
この頃、彼はとんでもなく優しかった。
今までは倦怠期かと勘違いさせられるくらいに。
だが、それが人生最大の誤算である。
そんなことにも気づかず、
私は非常に舞い上がっていた。
彼は転勤族だからついて行く、と。
新卒で入った会社を1年で退職した。
準備万端だ。
気合いを入れた私とは裏腹に、
お互いの両親が反対している。
ここで私は全てを思い出す。
彼は信用に足る人間ではないということを。
気づいた頃にはもう遅かった。
話も進んでいる。
最後のチャンスだと信じて、
開けてはならない彼の携帯をまた覗く。
嗚呼、思い出した。この絶望を。
溢れ出てくる浮気。
証拠を消したつもりなのか、
探らないと出てこないように知恵が施されている。
なんで爪が甘い生物なのだろう。
湧くように出てくる証拠。
ホテルでの写真。箱ヘル。ソープ。
研修先で異性と2人でディズニーに行っていた。
LINEのアルバムにお気に入りの女の子との写真が綺麗に保存されていた。
もちろんブロックリストにいる
使われていない人のアルバムに。
アルバムのみを見る機能を
彼が知らないことが私をまた苦しめる。
研修中遊びに行っていいか聞いた時、
勉強するから来るなと言われた。
こういう時に鈍い勘に腹が立つ。
もうこれ以上絶望することはあるのだろうか。
信じた自分が可哀想だ。
自分に申し訳ない。
今日ー。
婚約は両親の反対によって延期されていた。
それが功を奏して、
私はほんの少しだが心の傷跡に蓋をしていた。
しかし、私はまだかなり依存している。
相手はかなりのクズ男だ。
酒、タバコ、金遣い、女癖、遅刻。
あとギャンブルをすれば全てが揃う。
頭では理解している。
なのに心が止まってくれない。
心はボロボロなのに未練しかない。
残ったのは絶望と心の傷。
こんな自分が可哀想でやるせない。
と思えば少し勇気は出せる気がする。
これからは自分を大切にしてあげたい。
もう泣かなくていいように。
もう思い出さなくて済むように。
できる限り傷つかないように。
できる限り傷つけないように。
私は夏に消えることを選ぶ。