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88話 時間切れ

『勝った…!!』


 風の子の魂が抜けていく。これで脚は奪った。あの剣の子一人なら多少手間取ったとしても負けることは無い。

 さあて…まずは魂を喰らって魔力の回復を…!抜け出た魂を回収しようと手に触れる。その時——、


 〈触れるな〉


『な、に…!?』


『神風』


 魂から切り裂く風が放たれた。


『…!?痛い!!この風、私にも当たる!?』

 その風はこの空間全土に広がり、草木も、私たちも、剣の子も、この空間の制御すらも全て断ち切った。暗い森が切り裂かれ白い光を取り戻していく。



 ………

 …………

 ……………!!

「…っは!?」


 あれ?ここは?

 辺りを見ると、何もない白い空間にいた。

 ……僕は何をしていたんだっけ?なんかとても長い夢を見ていた気がする。


『はあ……はあ……何……なの?』


「…!」


『貴方……一体何者なの…!?』


「え〜っと…?すみません、よく思い出せなくて………」

 僕って一体誰だっけ?


『自覚が無い…じゃあさっきの風は…?この子の意思じゃ無いの……?』


「あの…それより大丈夫ですか?怪我しているみたいですけど…」


 着ている服がボロボロで長い黒髪もひどく乱れており、服の隙間から見える身体も至る所がパックリ切れていた。血が出ていないのが不思議だがかなり重傷に見える。


『魂に触れようとしたらあの風が起きた。そして謎の声……。魂に別の存在が?』


 僕の言葉を意に介さずブツブツと独り言を続けるお姉さん。何度か呼びかけても全くこっちに気を遣う素振りがない。


『こんな…こんなはずじゃなかった…。魂を奪うなんて造作も無いことだったのに…。ましてや霊魔法も使えない子供だったのに…』

『邪魔さえ入らなければ…!あの剣の子……!あの子さえ現れなければ………!!』

『そしてあの風……。全部……全部壊された…。あの切り裂く風……!あれは何なの?』


 風?そういえば目を覚ます前に物語が聞こえてきた気がする。その話の中にも風が関係していたような…。


『ああ…もう夢が終わる…。魔力(じかん)切れよ。貴方は無事に逃げ切れた』

『あそこに浮遊している魂も貴方の元へ帰ってくるわ。どうせ私には触れられないし…』


 お姉さんが目配せした方を見るとフヨフヨと雲のようなものが浮かんでいた。僕の魂?あれが?…ということは、


「僕、死んだんですか?」


『………』

『死んでないわよ……まだ』


「まだ?」


『ええ…次の夜を楽しみにしていて………「約束」よ』

『また、夢の世界で会いましょう?』





「……!」

「…ク!」

「ロク!!」


「…っは!?」


 あれ?ここは?

 辺りを見ると、何もない白い空間……ではなく、暗がりの森の中だった。

 確か僕は魂を抜かれて……そこから先が思い出せない…。

 目の前には僕を心配そうに見つめる2人がいた。ガンジくんと司教さんだ。


「はは……!起きたか…。良かった……」

「身体に異常はありませんか?一時は呼吸も止まっていたので心配で心配で…………?ロク君?」

「………あ、はい…多分大丈夫だと思います。ちょっと記憶が曖昧で……」

「おいおい…それは大丈夫なのか?魂を取られているのではないか?」


 それは…分からない。何か大事なことを忘れている気がする。でも何だったか思い出せない。


「そうだ…!リキくんは?大丈夫なの?」

「リキ殿か…。元気…ではないな。少し前に目は覚ましたのだが……少し体調が…」


 …?煮え切らないな。何か問題でもあったのか?


「まあ、直接様子を見た方が早いだろう。そこで寝転がっているから確認してみるといい。…おおっと、立てるか?」


 立ち上がろうとした時、手足に力が入らなくてヨロけた僕に肩を貸してくれるガンジくん。夢の中とはいえ2戦とも全力で戦ったんだ、その疲労は現実にも返って来ていた。


 支えられながらゆっくりリキくんの元へ歩いて容体を確認する。そこには大の字になって目が虚ろになっているリキくんがいた。リキくんを見た瞬間、思わず——、


「リキくん…助けてくれてありがとう…!」

 と、感謝の気持ちを口にしていた。あの時、助けに来てくれなければ僕は魂を抜かれていた。感謝してもしきれない。


「うぅ…。ああ…いいって…ことよ…」


 僕の感謝に覇気のない返事が返って来た。

 そもそも何故そんなに具合が悪そうなのか…僕が魂を抜かれた後、何かあったのか?


「大丈夫?また魂取られたの?なんでそんなに具合悪そうなの?」

「……酔った」

「…へっ?」

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