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87話 神が起こした奇跡の風

「これが俺たちの無敵のスタイルだ!!」


『………………あ、そう』


「さあ、どっからでもかかって来い!」


完全にドン引きだ。可哀想なものを見る目でスウーっと後ろに身を引き、奥にあった木の枝に座ると、パチンと指を鳴らす。

すると、3体の影が前と左右に現れて、腕をカマに変形して一斉に襲いかかってくる。


「うっ…!おお!?いきなり3体かよ!?」

「リキくん、これ大丈…わわっ!?」


3対同時に繰り出されるカマの応酬に防戦一方で攻めることが出来ない。僕も攻撃が当たらないように適度に距離を置くように移動していた。


「ロク、さっき見たいにギューンって動け!」

「え!?そ、そんな、どこに動けば…?」

「んなもん、適当で良い!」


適当って言われたって…!


『あら〜?これが無敵のスタイル?随分弱っちいのね?そんなに強いなら私も真似して見ようかしら…!」


遠くで眺めていた魂喰いがまたパチンと指を鳴らすと、攻撃していた3体の魂喰いの背中に乗るように新たな魂喰いが現れる。

7体同時…!もしかして、その気になれば10体でも100体でも出せるのか?上に乗った魂喰いのカマが今まさに振り下ろされようとしていた。この数は流石のリキくんでも捌ききれない。


「やべぇ…!どこでもいいから早く動け!!」

「わ、分かった!!」


もう迷っている場合じゃない。相手を撹乱するように周りを動いて回避しよう…!


『縮地+追い風』


さっきと同じように凄まじい速度で移動し攻撃を回避する。あくまで回避、僕の想定ではそのつもりで動いていた。しかし——、


『ギャアア!!?』

『ガフッ!?』

『ア……?』


6体の魂喰いが同時に消滅していた。




『え…?な、何が起こったの…?』

『あの子達が消えたと思ったら、6体の私が全身ズタズタになって消滅した?ありえない。どんな冗談?』


「ほら言ったろ?俺たちの無敵のスタイルだって」

「リキくん…?まさか…斬ったの?」

「ああ!自分で動かなくていいから攻撃に集中できたぜ!!」


『斬った…?…いつ?どうやって?……』


「ものすげぇ速さで移動してたろ?ギューン!!って。その時だよ」


『ふざけないで!そんなふざけた状態で攻撃できる訳ないでしょ!!』


「ならもう一回試して見ようぜ?俺たちは逃げも隠れもしねーからよ!!」


『そんなに死にたいみたいね!!これでもその減らず口が聞けるかしら!!』


「…!!」

森の至る所に影が発生し、魂喰いが現れる。10体、20体……もはや正確に数えきれない。その数恐らく100体以上。僕が危惧(きぐ)していた数を容易に超えてきた。でも——、


「ロク、もう一回やるぞ!」

「うん!任せて!!」


『縮地+追い風』


今の僕らにとって、数は些細な問題に過ぎなかった。

この森全体を駆け回るように縦横無尽に動く。木の枝に止まっている魂喰いにも届くよう、木の幹を足場に縮地を使って駆け上がる。通り過ぎた道には何も残らない。まさに無敵だ。


『迅風・無敵斬』




『な…!?』

ありえない…!あの異常な速さで動ける風の子もそうだけど、その動きの中、的確に攻撃できる生意気な子も……!

いつの間にか大量にいた私が残り数体にまで減らされていた。例え不死とはいえ、この空間をずっと維持してられる程の魔力はない。前の精神空間でかなり消耗させられたのがここで響いてくるとは…!

正直舐めていた。速いけど攻撃出来ない子。攻撃出来るけど剣の届く範囲でしか戦えない子。二人が力を合わせたところで圧倒的な数には勝てないだろう…と。


『…っ!』

再び新たな私を召喚し、2人にけしかける。…が、またすぐに切り刻まれ消滅していく。このままでは、魔力が尽きてしまう…!


『負ける?この私が…?』

ありえない。ありえないありえない。ありえない!ありえない!ありえない!ありえない!ありえない!


『こうなったら……』

何としてでも魂を奪うしかない…!


『…!!』

その時、あれだけ激しく動き回っていた2人がピタリと止まる。何故止まったかは分からないけど…


『これはチャンスよ…!』




「うっぷ…!ロク、ちょっとストップ……」

「え?ど、どうしたの?」


リキくんの様子がおかしい事に気づき、敵のいない場所で停止する。顔が青ざめている。何かされたのか!?


「……酔った」

「…へっ?」


酔った?……ああ!そうか…!考えてみれば当たり前だ。僕は普段から慣れている上に自分の意思で動いているから何ともないけど、リキくんは違う。初めての速さに、ルートも予測不能。あちこちに振り回されている状態で敵を捕捉して斬る。こんなことをしていれば当然、目を回す。


「ちょっと休憩しよう。数も多くないから、出来る限りゆっくり……」

「うお!?」


止まった途端、またも取り囲むようにして魂喰いが現れる。休む暇も与えてくれない。

魂喰いは今すぐに何かしてくる訳でもなく、じっとこちらを見つめている。


「な、なんだ…?気味が悪いな。早くやっつけようぜ」

「そ、そうだね…」


再び移動を開始しようとしたその時、一斉に魂喰いの瞳が妖しく光る。

そういうことか!!急いで目線を下に逸らし、目を合わせないようにする。


「リキくん!!目を見ちゃダメだ!!魂を取られる!!」

「まじかよ!?ちょっと見ちゃったけど大丈夫か!?」

「それは分かんない!!」


リキくんが無事なのは霊魔法を使っているからある程度は耐性があるのかも知れない。だから少し見たぐらいじゃ何ともないのかも。でもリキくんが本当に霊魔法を使っているのかも、目を見れば魂を取られるのかも予想でしかないから結局分からないというのが僕の結論だ。


とりあえず、一旦この包囲網から抜け出すために上に逃げ……


やられた。


『貴方たちを取り囲んで目を見せようとしても無駄なのは分かっていたわ』

『でも、囲まれたら絶対見る場所はあるわよね?』


僕らの頭上。そこには、どこかで見たような赤色の目を妖しく光らせ、僕らを見つめる化け物がいた。目を逸らそうとしても顔が全く動かせなかった。


『勝った…!!』


抜けていく。僕の中にあった何かが。それが何だったかも思い出せず、深い霧がかかったように頭の中が真っ白になっていく。あ……これは……ダメだ…………。


意識も次第に薄れ、その白い霧の中に飲み込まれるように消えて行く。


…………

…………ジジッ………

…………………………ジッ…ジジッ………

『なんと、狩人の体から切り裂くような鋭い風が吹いてきたのです。狩人は、その隙をついて風を操り、全てを切り裂きました。草木も、糸も、根城も、蜘蛛も…全てを切り裂きました』


『しかし、バラバラになった蜘蛛の身体からなんと盗賊の親分が出てきたのです』


『狩人が切ったのは蜘蛛そのものではなく、蜘蛛になった親分の”繋がり”を断ったのです』


『その風を目の当たりにした娘は「神が起こした奇跡の風」と呼びました』

…………………………ジッ…ジジッ………

…………ジジッ………

…………




『神風』

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