86話 無敵のスタイル
『なんで攻撃が当たった…!?いや…それ以前に何故ここに入ってこられたの!?』
両目を斬られた魂喰いが影に溶けるように消えていき、新たな個体が現れる。
「そんなの気付いたらここにいたに決まってんだろ?攻撃は…良く分からん。なんか当たった」
『そんなバカみたいな理屈でどうにかなる訳ないでしょ!?』
命を助けてもらったことと生き返ったことの感動で、魂喰いが言った疑問を完全に忘れていた。
確かにそうだ。ここは完全に隔離された夢の世界。僕の夢の中にリキくんが入れるのはおかしい。
それに普通の攻撃が当たらないことは僕が証明したばかりだ。
……なら、普通の攻撃じゃなかったら?実体のない敵に攻撃できる…それって——、
「霊魔法…?」
『…!!?』
「…?」
「霊魔法?それってあれだろ?クウナが使ってた動き止めるやつと力上げるやつ。俺そんなの使えないぞ?」
リキくんの適性は、火と風がC、それ以外がEと僕に似た極端な適性だ。適性がEの霊魔法が使えるはずないんだけど…。
「そんな話はアトだアト!さっさとコイツを倒してここから出ようぜ!」
2体目の魂喰いに突進して行くリキくん。
『攻撃出来るからって私を倒すことは出来ないわよ。魔力が続く限り、私は何度だって再生できるんだから!!』
「ほお~…!じゃあ、魔力切れになるまで倒せば問題ねぇな!!」
カマに変形した腕と剣が激しくぶつかり、重く響く。跳ね返る衝撃に「痛てぇ~!!」と叫びながらも、身をひねって脇腹に蹴りを入れる。
『カッ……!?』
カマで死角になっていた場所を正確に狙われ、痛みに悶える魂食い。
間髪入れずに蹴りの反動を利用して、逆回転しながら剣で上半身を薙ぎ払った。
深い傷を負った魂食いは身体を維持できずに消滅した。
「次〜!」
2体目、3体目が現れ、同時に襲い掛かってくるも、カマをしゃがんで回避。その状態で一方の足を掴み、自分の方に引き寄せてバランスを崩させる。そのままもう片方の手で握っていた剣で首を切って消滅させた。
『…!!』
残ったもう一方が後ろからカマを振り下ろす。リキくんは気付いていないのか後ろを向いたままだ。まずい、助けないと!
『縮地+追い風』
一瞬で最高速度まで到達し、リキくんの元まで移動する。まだカマは振り下ろされていない。リキくんを掴もうと手を伸ばす。
「——!!」
手を伸ばした先には…
剣。剣だ。さっきまで振り抜いていたのに、もうこちらに向けて剣を振り直している。偶然か、狙ったのか……それは分からないが——、
避けなければ。手を引いて回避しなければ。このままでは僕の手が斬られる。
その時、リキくんと目が合った。こちらを見て目を見開く。振り払っている相手が僕だと分かり、剣の軌道がわずかに逸れる。
この間、1秒にも満たない刹那の間だったが、時が止まってしまったと錯覚するほどゆっくりに感じた。
「「うわああああ!!!」」
お互いに最悪の状況を回避しようと変な姿勢になり、そのまま衝突し、奥の木まで吹っ飛んだ。
そのおかげでカマには当たらなかったのは不幸中の幸いだ。
「痛ててて………ごめん余計な事した」
「いやぁ、びっくりしたぜ。あと少しで斬るところだった~!」
あの反応の速さ、偶然では無かったのか。魔力感知ではない別の感覚。気配とか勘…?その感覚が非常に優れている。だから視認する前に対応できるのかもしれない。
「てか、めちゃくちゃ早えな!?近付いてんの分からなかったぜ。それで攻撃すれば…って出来ないんだっけか。いやぁ、そんだけ早ければ一撃で……」
「…?どうしたの?」
「………」
「リキくん?」
「いい〜こと考えた!ちょっと耳貸せ!」
耳を傾けると、コショコショと吐息が耳にかかってくすぐったい。それを我慢して内容を聞く。
「…そ、それ本当に上手く行く!?」
「やってみなければ分かんないだろ?やってみようぜ!」
「……遅いな」
休憩してから5分程経過した。本来ならどれだけ覚醒するのが下手だとしても、「これは夢だ」と自覚すれば戻るのは容易いはずなのだが……仕方ない、起こしに行くか。ここに長居しても良い事はないしな。
眠っているロクに近付き、起こしに向かう。未だ横になってスヤスヤと寝息をたてて……いなかった。
「…!!冗談だろう!?」
急いで駆け寄る。胸の上下運動が止まっていた。顔色も真っ青になり、指先から冷たくなっている。
「…何だと…!?まだ終わっていなかったのか!?…ロク!!」
再び瞑想してロクの精神に入り込もうと試みる。
——だが、前回と異なり、入れるような隙間がどこにも見当たらない。
「くそっ!!一体、中で何が起きているのだ!!」
『……』
「「……」」
『……ねえ、何それ?…ふざけてる?』
「いいや!!これでお前は俺たちを倒す事はできないぜ〜!!」
「……」
僕の身体には今、2倍の重力がかかっている。背中に乗るその重みは、重圧でもなく、力でもなく、期待感による信頼の証だ。つまりこれは——、
「ロクの速さに俺の力…これが俺たちの無敵のスタイルだ!!」
「いやこれ、ただのおんぶ!!!」
Q .「くそっ!!一体、中で何が起きているのだ!!」
A . おんぶ




