79話 呼び寄せる秘密、霧散する魂
その後、何度か同じように手招きする女の人が現れるも霊戦士・ガンジくんの霊撃拳の前に皆沈んでいった。いや、沈むっていうより霧散してるんだけど。
「なんか…大したことないね。思ったより強くないし」
「こう言っては何だが…少し物足りなぬな。あの記録、盛っていたのではないか?」
「う~ん、でも霊魔法しか通じないのは事実だし、油断は禁物だよ」
魂喰いには僕の魔法が全く通じない。逆風で飛ばそうとしてもその場から一切動かなかった。
だから今の僕の役割は、霊戦士さまが戦いやすい様に魔力感知で魂食いの場所を見つけるのと荷物を持つこと。いわゆる雑用係だ。
「あ、来たよ。右斜め」
「了解した。…ハァ!!」
『パァン!!』
とまあ、こんな感じでサクサク進んでいた。
「結構先まで進んだ気がするが、まだ見つからないか?」
「…うん、これと云って特に…」
少なくとも2人の魔力は感じられなかった。…ふと脳裏に最悪の展開がよぎったが、その心配はすぐに徒労に終わる。
「…!!いた!2人ともいる!」
「本当か!!どこだ!」
「こっち!付いてきて!!」
2人とも大分弱まっているけどまだ生きている!急いで向かわないと…
『おいで』
僕の前に突然、魂喰いが現れる。微笑みを浮かべた優しい顔だったのが、口が裂けるほど吊り上り恐ろしい形相に変わった。
「…っ!!」
ヤバい!!直感的に後ろに飛び退くと、さっきまでいた場所に2本の鋭いカマが振り抜かれる。
「腕がカマに!?こっちに来る!!」
「そのまま下がれ!」
僕とガンジくんが前後交代すると魂喰いに渾身の右ストレートをお見舞いする。しかし、化け物になった魂喰いは霧散せず、また襲いかかって来る。…が、向かう先は、
「…!?標的はロクか!」
一直線にこちらに向かって来ていた。
『ちょうだい』
「剣を!!」
『居合』
言われた通り剣を抜いて横一閃に薙ぎ払うが、カマに防がれ、つば迫り合いの状態で相対する。
意外と力が強い!!お、押し切られる…!!
「オォォォオオオオオーーー!!!」
上から振り下ろしたガンジくんの拳が頭に命中する。その一撃で魂喰いは溶けるように霧散していった。
「ありがとう…霊魔法の付与が無かったらやられてたよ」
「うむ…しかし、間一髪であった…。何故いきなり変化したのか…しかもかなり頑丈だった」
変化した理由…か。
「多分、あれが本来の姿なのかも知れない」
「む?なら、今まで本気を出していなかったと?」
「ううん、出してないんじゃなくて出せないんだと思うよ」
「出せない?」
「うん、実際にここに来てすぐに声がしたでしょ?」
「という事は僕たちの場所は分かっているってこと…でも、襲って来なかった」
「いや、先に進むに連れて何度か襲ってきたではないか?」
「いや、あれは襲って来てないよ」
「??」
「だって、ただ呼んでただけだからね…」
「『おいで』って」
「うん?……そういえば確かにそうだ。向こうから襲って来た事はなかったな」
「そう、襲って来てないんだ。そして、今回だけ襲われた…。今までと違ってね…それはどうしてか?」
「なるほど分かったぞ!奴は『自分に近付いた者のみ』襲うことが出来るということだな?」
「正解!だから僕らを呼び寄せるんだ。綺麗な女の人なのはそれが理由なんじゃないかな?」
物語でも条件が整わないと襲えない敵がいたりする。特に自分の領域がある敵ほどそういうパターンが多い。
「それさえ気を付ければ良い訳だな。よし、気を取り直して2人の救助に行こう!」
「うん。もうすぐそこだよ」
反応があった場所に暗い森の中に人影が見える。見たことのある立ち姿に安堵しながら慎重に駆け寄る。
「司教さん!!良かった!!大丈夫ですか?リキくんはどこに?さっきまで一緒にいましたよね?」
「……」
「…?司教さん?どうしたん…あ、ああ…!?」
司教さんの陰に隠れていたあるものを発見し、言葉を失う。
「そ、そんな……!?リキくん!!!?」
木の幹に寄りかかって倒れているその身体からは魔力が感じられなかった。
「こ、呼吸が止まってる!!…心臓まで!!うあああ!!!」
「…間に合わなかったか…!!む?司教殿?今何と言ったのだ?」
「…に……」
「げ……」
「……て」
『おいで』
『おいで』『おいで』『おいで』
『おいで』『おいで』『おいで』
『おいで』『おいで』『おいで』
無数の魂喰いが手招きをして呼びかけてくる。同時にこれだけ出現することは誤算だったが、でもそんな事は関係ない。
「くそ!囲まれた…!!ワシが道を開く!!お主は2人を連れて…おい!聞いておるのか!?」
「………返せ」
「リキくんの魂を……!!返せぇぇぇ!!!」
抑えることの出来ない怒りに我を忘れ、魂喰いの元に飛び出していった。




