7話 初めての休日
初めて王都に来てからの休日がやってきた。他の皆は、王都に実家がある人は帰省したり、サークル活動をしたり、買い物したりしているようだ。
サークルは生徒が自主的に行なっている集まりで、学園としては特に関与はしていないが、かなり盛んに活動している。僕も実はサークルに勧誘されたことがあり、入ろうか迷ったのだけど、属性を聞かれ、
「風です」
と答えたら微妙な顔されたのでやんわり断りを入れといた。
薄々感じていたけれど、風属性は皆の中で不遇だと思われているらしい。火や水、土は目で見えるし、イメージしやすさがあって魔法を使いやすいのだろう。霊は風と同じく目で見えないが、コーラ先生が言っていたようにポテンシャルはあるので期待する人も多い。……じゃあ風は?扱い難しくて使いにくいだけの属性……と言われている。確かに、同じクラスで風を使っている生徒見なかった気がする。
僕の机に置かれている魔法適性の紙を見る。
火 E
霊 E 水 E
土 E 風 S
途端に『風 S』の項目がしょぼく見えてきた。僕もコーラ先生みたいに鍛えるべきかな?
特にやることもない僕は、せっかくだし王都に出てみることにした。
王都には僕の村じゃ見られないものがいっぱいあるだろうな。それこそ、未知の魔道具とか売ってるかもしれない……!
早速、身支度を整え、お店巡りの旅を開始した。王都はたくさんの人で賑わっていて、派手な装いをしている人、旅の支度のため武器を吟味している旅人、自分の店の呼び込みを行なっているメイド服のお姉さん。たくさんの人がいすぎて頭と目が疲れてきた。
「人混みは苦手だなぁ」
早いところお店を見つけて避難しようと考え、辺りに魔道具店はあるか探してみた。
すると、人通りが少ない裏路地を見つけ、その先に、『発掘雑貨屋』という王都では珍しい木製の看板を見つけた。完全に別世界のような異様なオーラに、発掘といういかにも未知の響きに僕の冒険心が抑えられず、そのまま吸い込まれるように入っていった。
中に入ると、店内なのに薄暗く、真ん中のテーブルにゴチャっと物が散乱していた。カウンターには誰もいないし、奥も物音ひとつしない。実は閉店して廃墟になっているのではないだろうか?
怖いという気持ちもあるけど、それよりもこの中に掘り出し物があるのではないかという好奇心の方が勝り、何かないか探り始める。
色々見た感じ、どこかの工芸品だったり、部品の一部があったり、錆びたネックレスなどの装飾品があったりとほとんどガラクタのようだった。
「まあ、あるわけないか」
お宝が眠っているんじゃないかとすこしだけ期待していたけど、現実はこんなものだ。諦めて帰ろうと振り返ると、自分のすぐ目の前には老婆の霊が立っていた。
「うああ!!」
びっくりして反射的に魔法を放つ。
『逆ふ……』
「びっくりさせてごめんねぇ、人が来るなんて思っていなくて出かけてたのよー。」
ピタッと発動を止める。幽霊じゃなくてお店の人?危ない、吹き飛ばすところだった。
「すみません、急に後ろに人がいてびっくりしちゃって……」
「いいのよ、よく言われるもの、『おばあちゃん急に現れないで!』って気をつけてるつもりなんだけどねぇ」
それは、本当にそう思う。僕も影が薄いって言われるけど、この被害を受けた人側からするとこんな感じなのか。隣の席の子に謝罪しよう。本当に怖かった。
「何か探し物?ウチは旦那が拾ってきたものを並べているだけだからよく分からないものしか置いてないんだけど〜」
「そうなんですか、ちょっと魔道具があるか探してただけなので大丈夫です」
ほとんどガラクタみたいなのは、価値が分からないから適当に置いているのだろう。ここには特に無さそうなのでそろそろ他の店に行こう。
「魔道具?それなら確かここに……えー……と、ああ!あったあった!」
外に出ようとした時に、お婆さんは僕を呼び止めてある木箱を取り出してきた。
「これなんですか?」
「これはね?」
と言いながら木箱を開けるお婆さん。中に入っていたのは2つの指輪だった。
「旦那が昔ある旅人さんから買ったものらしくて『奥さんにどうですか?』って言われてプレゼントとして買ってきたんだけどね?指輪をつけてみたら魔力が吸われちゃうのよ〜。つけてみても特に何も起きないし、なんだか気味悪いから外しちゃったの。旦那は旅人が『あなたみたいな人にはぴったりの魔道具ですよ』なんて言って俺を騙した!とか言ってるけど、捨てるのは勿体無いからここに置いてるのよね」
つまり、詐欺師に騙されて呪いのアイテム買っちゃったってことか。う〜ん、確かにこれはいらない。ワンチャン僕の魔法暴走を抑えてくれるかもと思ったけど、常時魔力吸われるならすぐに枯渇しちゃうだろうし……やっぱいらない。
「一応魔道具ではあるから僕ちゃんにあげる!」
「あえ?」
今あげるって言った?この呪いのアイテムを?いや、いらないいらない!
「さっき驚かせたお詫びよ〜」
「いや、あの?」
「もしかしたら、すごい魔道具かもしれないし、私の店に埋もれているよりずっと有意義に使ってくれそうだもの」
「う〜ん……いらな」
「はい、どうぞ〜」
「…………ありがとう、ございます」
僕は引き攣った笑顔で呪いのアイテムを受け取った。僕は押しに弱かったみたいだ。
僕が帰ろうとした時、奥が何やら騒がしい。この先は中央広場のはずだ。帰り道でもあるし、何が起こっているのか気になって覗いてみることにした。
中央広場に着くと人だかりができていて何やらそわそわしていた。人が多すぎて何が起こっているのか全く見えなかった。誰かが倒れたのかな?と予想して少しだけ野次馬の会話を聞こうと耳を傾けていると、
「早く騎士団を呼べ!」
「もう呼んでる!」
「このままだとまずいぞ」
「どんどん氷が侵食している……」
「大丈夫なのか?、あの子」
「分からんが下手に近づくな、凍っちまう!」
どうやら誰かが氷に侵食されてる?ような感じなのか?そういえばこの辺は人が多いにも関わらず、やけに肌寒い。こんな感覚は入学前の……まさか……!
「す、すみません」
大人たちの足の合間を強引にすり抜けて進む。やっと広場の景色が見えてきたと思ったら、そこは一面の銀世界に変わっていた。
さ、寒い……!ここだけ雪国だ。その中心に立っている女の子には見覚えがあった。入学前にすれ違った白銀の髪の子だ。その表情はとても苦しそうに何か堪えているように見えた。もしかして、魔法の暴走?僕もよく『追い風』を使うときに出力を誤って保健室送りになることがある。でもこんな所で魔法なんて……?状況はよく分からないけど、原因が暴走だというのなら、ちょうどここに良い物がある。最高の魔道具さんがね!
僕は、飛び出してその子に駆け寄っていく。体が寒いから冷たい、冷たいから痛いと徐々に危険信号に変わっていく。早く渡さないとやばい、僕は震える口で声をかけた。
「こ、これ…つけてみ…て」
「…っ?誰?離れて……!」
もう喋るのもままならない。筋肉が硬直して指が動かない。このままでは僕の命が危うい。なんとか気合いで手を開いて2つの指輪を差し出す。予想以上の過酷な環境に僕の意識が耐えられなくなってきた。熱、熱が欲しい。
「早…く、つ……つ…けて…」
「ダメ、これ以上は……動けない……」
女の子は動けないようだ。僕の体ももう限界だ。寒すぎて筋肉が動かない。僕の風でなんとかできないか?熱を生み出して……無理だ!これほど火属性が良かったなんて思うときがあるなんて!熱があれば……熱……!!
僕は、ほとんど反射で風魔法を放った。僕を中心に回転させながら。あまりの極寒に一瞬気を失いかけたが、奇跡がやってきた。暖かい風が僕らを包み込む。周りにいた野次馬たちの体温で温まった熱を僕らに飛んでくように渦を作った。生暖かい風だがさっきまでの地獄と比べると天国にいるかのようだ。本当に逝きかけたけど。
体が動くようになり、指輪を女の子の指にはめる。するとみるみるうちに冷気は抑えられていき、女の子の表情も楽になっていった。
良かった……。僕の心と体は疲労困憊だった。今すぐ帰ってお風呂に入りたい。ぼーっとした足取りで帰ろうとしたら、
「…ねえ、同じ学園だよね?名前は?」
「……うん、ロク、じゃあね」
もう考えるのしんどい。最低限の問答だけ交わして僕は学園に帰っていった。