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75話 修行(体験)開始

 霊瀑(れいばく)の森。朝なのに薄暗く、上を見上げると鬱蒼(うっそう)と生い茂った木々の葉が空からの光を吸収していた。そよ風が吹くとチラチラと極細の光線が目に突き刺さり、反射的に顔を下に向ける。


「まずは着替えましょうか。どうぞ中へお入り下さい」

 司教さんが扉を開けて僕たちを中に通してくれる。お堂の中は意外にも手入れされているようで埃一つ見当たらなかった。


「着替えたら、向かう場所がありますので外で待っていますね」

 そう言って司教さんはお堂の扉を閉めて出ていった。修行着に着替え終わり、外で待っている司教さんと集合すると、


「それでは行きましょうか」

 と一言だけ言い、歩き始めた。


 お堂からさらに森の奥に進むと、かすかに水が流れる音が聞こえてきた。歩みを進めて行くにつれ、水の音はどんどん大きくなり、目的地に着いてその正体を目の当たりにする。


「でっかい滝だ…!」

「すげ〜!!初めて見たぜ!」

「この滝の名前はありませんが、水位が浅めなのに対して落ちてくる水勢が非常に強いため修行するのにもってこいなのです。修行用の滝ということで、私たちの間では『霊瀑』と呼んでいます」


「へー確かにすごい勢いだなぁ。滝の中で溺れるんじゃないかってくらいだ」

「溺れますよ?」

「お、溺れるのか!?」

「はい、初めて訪れた修道士は大体10秒くらいでしょうか?」

「???中に入ってられるのが?」

「いいえ、気絶するまでの時間が、です」

「「え…?」」


「…では入りましょうか」

「入るの!?」

 あんな話聞かせた後に平然と入らせようとしてくる司教さん。


「?…ああ〜すみません、勘違いさせてしまいましたね。この滝ではなく『川に入りましょう』と言いたかったのです。滝には無理矢理入らせないので安心して下さい」

「それは、入りたけば別に構わない…と言う事か?」

「ええ…ですが、十分気をつけてくださいね?無論、溺れたら助けますけども…」


 ガンジくんとリキくんは目を輝かせて滝に勢いよく入っていった。

「おぼぼぼぼ…!!」

「こ、これは中々…!!」


 夏とはいえ、この辺りは日当たりが悪いから水温も冷たい。さらに落差50m以上はありそうなくらい高く、衝撃はとんでもないだろう。それでもリキくんは30秒、ガンジくんは1分近くも中に留まっていた。


「これやべぇぞ!ロクもやってみろって!」

 やりたくはなかったけど、戒めとして意を決して中に入る。


『ドドドドドド!!!!』

 入ってまず最初にその冷たさに身体が強張り、心臓がキュッと絞めつけられる。とめどなく落ちてくる水に圧し潰されて前屈みになると、背中に冷たい水が降り注ぎ、『パアンッ!』と甲高い音が響いた。冷たい、痛い、そして苦しいの三重苦に耐え切れず、すぐに外へ飛び出した。


「はあ、はあ…死ぬかと思った…」

 息が荒くなり、心臓がバクバクと音を立てる。

 心を洗い流すとかそんなこと言ってる場合じゃない。よくこの中に30~60秒もいられたな。


「どうだった?ヤバかっただろ?クウナのパンチ並みに痛かったぜ」

「確かに…打たれたところ赤くなってるよ…」

「クウナ…ワシの対戦相手の娘か。それは流石にだろう?あの娘の方が3倍、いや10倍は痛かったぞ?」

 嘘でしょ?僕らとの練習試合の時には全然本気でやってなかったっていうのか…?


「まさか3人とも入るとは思いませんでしたよ。予定とは少し違いましたが、修行にはなったので早めに切り上げましょう」

「ええ~!ちょっと待ってくれよ!だったらせめてあと一回入らせてくれ!!」

「ワシも!!」


 肉体派の2人はまた滝の中へ飛び込んでいった。結局あの後『あと一回!』を三回繰り返し、お堂に戻る頃にはお昼を大きく過ぎていた。


 お堂に戻ると受付のお姉さんが昼食を作って待っていてくれた。

 ここに着いた時いなかったからてっきりついてきていないと思っていたので理由を聞くと、この近くに村があるらしく昼食を買っていたとのことだ。


「夜はその村で泊まるから宿も取っておいたの。この辺り、結構物騒だからね」

「物騒?何かいるんですか?」

「うーんとね……確か記憶を…」

「こらこら、そんな話を子供達に聞かせてはいけませんよ」

「あ…すみません。…話はこれくらいにしていっぱい食べてね!」


「記憶……?」

 もしかしたら……。

「……」



 昼食を食べ終わると次の修業が始まる。


「次は瞑想を行います。この修業は自分の精神をコントロールするのにとても良い効果があります。とりあえずやってみましょうか。足を組んで目を瞑り、自分の心の声に耳を傾けてください」


 司教さんに言われた通りにその場で足を組んで座り、目を瞑る。心の声って今みたいに考えていることでいいのかな?


「心の声に耳を傾ける…傾ける…」

「ロク君、声に出てますよ。……深く考えなくても大丈夫です。目を瞑れば自然と浮かび上がってきますからそれまでリラックスして待てばよいのです」


 そういうものなのか。アドバイスに従って目を閉じてリラックスする。暗闇の外側から光が中心に向かって集まっていく。僕の意識はその光に吸い込まれて液体のように溶けていった。

 ……。

 ………。

 ………zzz。


 ガタンと大きな揺れで驚き、目を開ける。気付いたら馬車の中にいた。状況が理解できず10秒程静止する。…確か瞑想の途中で…。ここでやっと自分が居眠りをしてしまったことに気付く。そんな僕に操縦席側の奥の席に座っていたお姉さんが小さな声で話しかける。


「おはよう…でいいのかな?ロクくんとリキくん、瞑想中に寝ちゃったから『今日はこれでお終いにしよう』って司教様が…今、お泊りする村に向かっているからもう少し待ってて?」


 集中していたと思っていたけど寝てしまったのか…。瞑想って思ったより難しいな。

 辺りを見渡すと、ガンジくんは壁にもたれ掛かり、リキくんは僕の隣で眠っていた。司教さんは操縦席かな?…だとしたら丁度いい。


「ねえ、お姉さん。お昼の時の話なんだけど…」

「お昼?…ああ~もしかして夜の森の話?」

 その問いに頷くとお姉さんは操縦席の方をチラッと確認してから僕に近づき、口元に手を当ててさらに小さな声で話し始めた。


「魂喰いって知ってる?」

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