74話 聖女様のお悩み相談?
「リキくん!?…に」
「…?ああ…!自己紹介がまだだったな。ワシはガンジという。よろしく頼む!!」
そう言って握手を求めてくるガンジくん。会話するのは今日が初めてだけど、親しみやすくて気の良さそうな人だ。
「よ、よろしく!僕の名前、どうして知ってたの?」
「ん?変なことを聞くな?うちの大将と互角の戦いをした男の名を知らない訳があるまい!」
「凄かったよな!あれ!アレ見て俺ももっと強くならなきゃって思ったぜ!」
あの戦いは負けちゃったけど、僕にとっても意味のある戦いだった。だからそう言われると恥ずかしいけどなんか嬉しかった。
「あら。皆、知り合いだったの?すごい偶然!それならこの体験会も楽しくなりそうね!それじゃ、時間になるまでもう少し待っててね」
受付のお姉さんはにっこり笑いながら自分の持ち場に戻って行った。
「ロク殿は何故この体験会に?修行に興味があったのか?」
「え?…えーっと…自分を変えようと思って…かな?」
「ほう!立派な考えではないか!」
「2人はどうして参加しようと思ったの?」
「俺は修行だよ!夏休み前にコーラ先生がここおすすめしてくれてさ!そんで今日王都に帰って来たんだ!」
「ワシも似たようなものだな。この夏休み、無駄にする訳にはいくまいと修行と名の付くものを片っ端から受けて来たのだ。体力、武道、武者、茶道、絵画、料理、花嫁…ここもその一つだ」
「へーそうなんだー………ん?今何かおかしいの混ざってなかった?」
僕たちが話に夢中になっていると、聖堂の奥の扉が開いて初老の眼鏡をかけたおじさんが聖堂の講壇の前に立つ。そして僕らを見ると朗らかに笑い、挨拶をし始めた。
「おはようございます、皆さん。本日はお集まりいただいてありがとうございます」
「今日から皆さんには私たちの修行の一部を体験してもらいます。といっても、そこまで厳しいことはさせませんから安心してください」
「えー!?大丈夫だよ!俺、めっちゃ厳しくても行けるぜ!」
「ワシも辛ければ辛いほど良いぞ!!」
「え…!?」
それはちょっと勘弁して欲しい…。
「いやはや…逞しい子達ですね。この体験会では自分の心の在り方を少しでも感じてもらえれば十分です。勿論、感じ取れなくても大丈夫。人の感じ方は千差万別ですからね」
「…?せんさばんべつ…?おっさん何の話してるんだ?」
「…っと、難しいことを言ってしまいましたかね…?簡単に言うと、自然に触れて沢山のことを感じて欲しいということです。『楽しい』、『落ち着く』、『暑い』、『冷たい』…こういった様々な感情を意識的に感じ取って自分の心を知ることが今回の修行の目的になります」
「…もう、相変わらず堅いですよ!要は、『山で遊んで楽しみましょう』ってことですよね?」
横で話を聞いていたお姉さんが司教さんの話に割り込んできた。
「…ハハハッ、そう言うことですね!」
「なーんだ!そういうことか!じゃあ、楽しむのが修行なのか!すげー面白そうじゃん!」
「…うむ、なるほど…。己の心を知って精神的な成長を…ワシのような霊魔法の使い手には良い修行となるな!」
タイプは違うけど2人とも意欲が凄いな。僕も見習わないと…!
「さてそれでは、これから修行を始める前に、皆さんにはレストレイント教会の聖女『メディリス・オブ・ファエラ様』によるお悩み相談を行って頂きましょう」
「お悩み相談??なんでそんな事するんだ?俺、特に無いぞ?」
「聖女様は神のお告げが聞こえる特別な力をお持ちなのです。ですので、話すだけでも君たちに必要なことを教えてくれるでしょう」
「おお!!それはありがたいな!」
僕もこのお悩み相談で懺悔することが目的の一つだった。少しでも罪の意識から楽になりたかったから。
「まず最初は…うん…ロクくんでしたね?お入りなさい」
「あ…はい」
何故最初に僕を選んだのだろう?司教さんに促され奥の部屋に通される。
部屋の中は椅子一つと仕切り壁が設置されていて、向こう側に女の人のシルエットだけが見えていた。
「よく来ましたね、ここでは貴方は1匹の迷える仔羊です。遠慮することなく、思いの丈をぶつけて下さい…」
「はい…」
聖女さんの声はとても穏やかでとても優しい口調だった。声を聞くだけで安心してしまって、僕はつい全てを話してしまった。
「僕は……無断で王城に侵入してしまいました。入るつもりは無かったんです…。秘密の通路があって…その先に伝説の魔導書があるって噂を聞いて進んだらお城に通じていたんです」
『ガタンッ』
「……貴方が件の侵入者でしたのね…オホン。…ですが、貴方はその行いを反省している。懺悔するという気持ちがあれば、神はきっとお赦しになるでしょう」
「でも、それでもやっぱり不安で…どうすればいいか教えて欲しいです」
少しの間、沈黙が流れる。聖女さんのシルエットは頭を抱えているように見えた。
「……分かりました。特別ですからね、少しの間目を瞑っていてください」
「はい…?…瞑りました。これで良いですか?」
「はい。私がいいと言うまで開けないでくださいね?」
椅子が揺れる音。コツコツと足音が聞こえる。扉が開き、その足音は僕の前で止まる。
「あの…?何を…!」
額に何かが触れる。触れられたところからじわりと暖かくなって広がっていき、心が安らかになって行くのを感じた。
まるで、日向ぼっこしているみたいだ。
「はい、もういいですよ」
目を開けると既に聖女さんは仕切り壁の向こう側に戻っていた。
「それは神からの免罪符です。今貴方は神に赦されました。…そしてもう一つ。私は顔が利きますので間違えて王城に入ってしまったことを許すように言っておきます。…これで、少しは不安は取り除けたでしょう?」
「罪は過去。罰は未来。ほんの一時の過ちでこの先ずっと背負い続けることになります。…ですので、その重荷を軽くすることのが大切なのです。そんな時は私や周りの方に助けを求めてください。貴方は一人ではありません。貴方を想う人々がいることを忘れないでくださいね?」
「は、はい…。分かり…ました」
…なんだか…眠くなって…きた……。
「おーい!ロク、ローク!着いたぞ!!起きろって!!」
リキくんに乱暴に肩を揺すられ目を覚ますと、馬車の中にいた。ボーっとした頭で荷台の後ろから外を見ると、木漏れ日が照らす竹林の中にひっそりと佇むお堂があった。
「さあ、ここが皆さんが過ごす修行の地、『霊瀑の森』になります。3日間、よろしくお願いします」
眠った少年は様子を見に来た司教によって部屋の外へ運ばれていく。回復魔法の応用で精神に安らぎを与えた副作用かもしれない。
「それにしてもあの子…随分守られているのね」
少年に触れた自分の人差し指をさする。裂けた肉がみるみると再生されていった。
ちょっと中を覗こうとしたら3回も攻撃されちゃった。
武士に鬼に鳥に…ああ、あと狐かしら?
「面白い子…もしかしたらあの子が世界を…」
「こんちはーー!!俺リキ!どうすれば強くなれますかーー??」
『ガタンッ』
痛ったー…また脛打っちゃった…。




