70話 王都に帰ろう!
ヒョウゲツの里に遊びに来てから1週間が経過した。雪合戦したり、乗馬体験して遊んだり、時にはシュウくんやヒサメさんから勝負を挑まれて訓練の相手にさせられたり……楽しい時間はあっという間に過ぎ、王都に帰る予定となった。
「よし、荷物もOK!お土産も買ったし準備万端だ!」
せっかくヒョウゲツの里まで来たのでお土産に手のひらサイズの氷像を作ってもらった。精巧な造りで顔の造形だけでなく服のシワまで事細かく再現されている。王都に持っていくと溶けてしまうので全面ガラス張りの冷凍保存用魔道具をおまけで付けてもらった。ウンスイくんはこの里の人たちは排他的だと言っていたがそんなことは無く、皆親切な人たちだった。
「ロク…もう帰っちゃうの?」
荷造りを見ていたヒサメさんが寂しそうに問いかける。現在は夏中期(8月)上旬。ヒサメさん達は夏中期下旬までここに残るが僕は一足先に下山する事にした。
「うん、夏休みだし色んなところに行きたいと思って…。先に王都に戻るよ」
「そうなんだ……私も行きたいけど…暑いの苦手…」
「ここに暮らしてたら暑い日なんて無いもんね。体質が合わないんじゃないかな?」
ウンスイくんとシュウくんも暑いのは苦手みたいだし。
「今度は夏休み明けにまた会おうね。またすぐに会えるよ!」
「ーー!…うん」
荷物を馬車に積み込んで出発の時が来た。見送りにはヒサメさんとウンスイくんが来てくれた。
「本当はハコビとお祖父様も来るはずだったんだが、別件で来れなくなってな。代わりにお祖父様からお前にこれを渡してくれと頼まれた」
そう言って手渡されたのは魔力を吸う指輪だった。
「え…これ?別にいらな」
「ヒサメからこれはロクの所有物だと教えてもらった。だから当然所有権はお前にある」
「もしもの時のために……また…ロクが持ってて…?」
「…………うん…分かった」
どうやら僕はこの装備に呪われているらしい。
「じゃあねー!!また王都でー!!」
馬車に乗って別れの挨拶をする。馬車はかなりの速度で山を降っていき、あっという間にヒョウゲツの里は雲に隠れて見えなくなっていった。
山を降り、フロンの町で休憩を取った後、王都に向けて再出発する。この辺りは景色が変わり映えしなかったのと長い間馬車に揺られていたせいか眠気に襲われたので、その欲望に抗わず昼寝する事にした。
次に目を覚したのは蒸し暑くて寝苦しさを感じた時だった。寒さ対策で着ていた上着を脱いで外を見る。
時間は夕暮れ時。オレンジ色に染まった草原に風が優しくサラサラと爽やかな音色を奏でる。その音に重ねるようにしてヒョウガ地方では聞こえなかった虫さんたちの合唱があちこちから聞こえてくる。
「うわぁー…!戻って来たんだなぁー…」
ただいま、夏。
王都に到着した時には日も沈み薄暗くなっていた。学園前まで送ってくれた御者さんにお礼を言うと笑顔で一礼してまた来た道を戻って行った。
学園の正門を越え、少し進むと右手側に大きな建物が見える。その入り口には『レスト寮』と書かれた看板がライトに照らされていた。
離れてから1ヶ月程しか経っていないのに実家に帰った時のような妙な懐かしさを感じる。中へ入ると見慣れた廊下、見慣れた管理人さんが出迎えてくれていた。
「おや…!随分とお早いお帰りだね…?おかえり、この1ヶ月は楽しかったかい?」
僕は今までの出来事を思い返し、元気よく答える。
「うん!!楽しかった!!」
ただいま、レイント学園。
ロクの荷物ですがアジトにあったものをヒョウゲツの戦士の誰かが回収したということになっています。




