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68話 ヒョウゲツの里 観光ツアー

「お主が着ていたあの白マント…一体どこで手に入れた?」

 僕の上着?…ま、まさか…!?

「い、いや、あの上着は…!!お父さんから貰ったやつで…!」

「父親の年はいくつだ?出身は?何をしている?」

「えっと…あの……」

 責められるように質問を投げかけられ、助けを求めるためにウンスイくんに視線を送った。それを見て、小さく頷くと、

「お祖父様落ち着いてください。ロクが困惑しています。……その上着はロクの父方の祖父がフロンの町で買った物らしいです。村を出発する前にロクの父がそう話していました。勇者の話が広まってその衣装を模した物をお土産で買ったのでしょう」

 …あれ?そうだったっけ?

「…今の話、本当か?」

 お祖父さんがこっちを見て詰め寄ってくるので、上体を後ろに反らしながらウンウンと何度も頷いた。

「そうか…すまんかった。お主の飛び回る姿があの旅人とそっくりだったものでな。その白マントもワシがあげたものに似ていたからつい熱くなってしまった」

「…いえ、大丈夫です。…なんかすみません」

「気にしないで良い…ワシの話は終わりじゃ。何もなければ帰ってよいぞ」

 特に聞きたいことも無かったのでウンスイくんの方を見る。ウンスイくんも聞きたいことは無いのか首を横に振る。という訳でそのままそそくさと退出した。部屋を出る前のお祖父さんの顔は俯いているのにどこか遠くを見つめているような表情だった。


 僕が泊まっている部屋に戻ると、ウンスイくんにさっきのことについて聞いてみた。

「ウンスイくんさっきの話…」

「ん?ああ、白マントを買ったという嘘か?」

「あ、嘘ついてたんだ?てっきり僕が勘違いしていると思ってた」

「はあ?」

 呆れた顔でこっちを見つめてきたので、目を逸らして誤魔化し笑いをした。

「やれやれ……。あんな話をわざわざお前に話したんだ。お祖父様が何か考えてるに決まっている。そんな時に『あれは祖父がヒョウガ地方でもらったんです』なんて言ったら自分で勇者の家系だって言ってるようなもんじゃないか」

「そう?でもそれはそれで嬉しいけどなー」

「…はぁ。お前がそういうのに憧れているのは分かるが、今のところあの上着しか共通点がないんだぞ?客観的に見れば違う可能性の方が高いのに」

「いや…そうじゃなくてさ…もし僕のおじいちゃんが勇者だとしたら僕らは出会う前から繋がりがあったって考えるとなんかこう…いいよね!」

 ウンスイくんが一瞬キョトンとしていたが、

「……フッ、そうだな…」

 眼鏡を光らせて小さく笑っていた。



 ヒョウゲツの里に来たのに安静で寝てばかりだったので、せっかくだし色んな場所に行こうと皆を誘った。ウンスイくんは2つ返事でOKしてくれたけど、シュウくんはそんな暇はないってバッサリ切り捨てられた。ハコビさんは検査に忙しくて出られなかった。でも一番意外だったのが、ヒサメさんが行かないと断ったことだった。何なら家にとめられそうになった。理由を聞いても行きたくないからと言われたのでそういう気分だったのかなと諦めて2人で行くことにした。

「うわぁー!!」

 家の外に出ると、里を一望出来るほど高い場所だった。雲が僕より下にもあって山全体がまるで雲の中に浮かんでいるかのように空と大地の境界が曖昧になっている。雲の隙間から見える家は、雪の重みに耐えられるようになのかどの家も高くそびえ立つ白柱が囲うように立っていて、荘厳な出立ちは神殿にも負けずとも劣らない。

 そして太陽の光が雪の上に降り注ぎ、まるで無数の宝石が埋もれているかのようにきらきらと輝いていた。宙を舞う雪は温かな金色の光に包まれ、白い結晶がその光を反射して、幻想的な輝きを放つ。ここは物語でいうところの天界なんじゃないかと感じるほどに未知の景色に溢れていた。きっと勇者はこの景色を見るためにここまで登ってきたのだろう。

「ここが、『ヒョウゲツの里』…!!」

「おい、いつまで固まってるんだ?置いていくぞ?」

 少し下った里の中心に続く道からウンスイくんに声をかけられる。

「今行く!」

 僕は、新たな世界に期待して足を踏み込んでいった。



 道を下ると広大な畑と牧場があった。上から眺める時と違って案外素朴な印象だ。王都とはまた違った発展の仕方だけど僕はこっちの方が落ち着いてて好きだ。

「俺たちの里は土地柄、他の町からの輸入が難しいからこうやって自分たちで自給自足しているんだ。だからここでしか栽培できない貴重な食材だったり家畜がいる。本来なら気性が荒くて特殊な環境下でしか生まれない雪冬馬(せつとうば)もこの里で育成しているんだ」

「へぇー…あの馬車を引いていた馬だよね?僕の村にいた馬より大きくて強そうだと思ってたけどここで育っていたなら納得だなぁ」

 確か寒い環境で育った動物は身体が大きくなるって学園で習ったっけ。ウンスイくんのお祖父さんもそうだったけどここにいる人達は身長が高いし…はっ!!僕もここに暮らせば大きくなれる!?

「やれやれ…またくだらないこと考えてるな?ほら、あそこにある家がこの牧場のオーナーの家だ。ちなみにそのオーナーとはハコビの父親だ」

「ハコビさんの!?…凄いなぁ、ハコビさんってオーナーの息子だったんだ…」

 でも息子がネズミになって帰ってきてショックだろうな…。早く元に戻れるといいけど…。


 牧場の隣にはこれまた広い敷地があり、等間隔に並べられた丸太や巨大な雪玉がまばらに転がっていた。その中で数十人の大人達が剣を振り、雪玉を押したりしている。ここはいわゆる訓練場ってとこだろう。

「あれ?あそこに居るのって…シュウくんじゃない?」

 大人達に混ざって一人だけ小柄な人がいると思ったらシュウくんだった。

「ああ、アイツは既にヒョウゲツの戦士だからな。俺たち兄弟の中で戦闘のセンスが高かったから本人の意志もあってお祖父様が特別に任命したんだ」

「そうなんだ!?確かに、あのレッドを追い詰めてたくらいだったし…やっぱり危険な戦いばかりなのかな?」

 というか戦士って任命制なんだ。やりたくないのにやらされる事あるのかな?だとしたらちょっと可哀そう。

「いや?事件が起こらない限りはこうやって訓練してるか狩りしかしない。調達班みたいなものだな。今回みたいな事件なんてそうそう起きないからあまり機能はしてないな」

「それもそっか…でもシュウくんと戦士さん達がいてくれて助かったよ」

「……そうだな」

 …?何か含みのある言い方だったけどすぐに何事も無かったかのように気を取り直して次の場所に案内してくれた。


 食事処、仕立て屋、雑貨屋に酒場、中には氷を使って絵や置き物を作成する氷像屋なんてものもあった。色んな所に連れてってもらって陽が西に傾いてきた頃、最後に案内されたのは里の外れにあった大きな屋敷だった。ただ、その屋敷は明らかにおかしな点が一つあった。

「ねえ、ここ何で凍っているの?」

 屋敷の端から端、上から下まで全て凍り尽くされていた。氷が陽の光を浴びて神秘的に輝いていてとても綺麗だ。観光名所か何かなのかな?

「ここは…俺たちの家…だった場所だ」

「えっ…?ここが?」

「ああ……」

 ウンスイくんは屋敷をただじっと見つめていた。表情は西陽が眼鏡に反射してよく読み取れない。でも懐かしむ気持ちと悲しい気持ちとが入り混じった返事がここで何かあったんだと察するには十分だった。

「今日はお前をここに連れてきたかったんだ。…俺の両親の元へ」

「………」

「俺が物心ついて間もない頃、大体2年前か…。その時に一つの事件が起きた」



「その日の夜は吹雪が吹き荒れていてとてもひどい天気だった事を覚えている。俺達3人はその音が怖くてお父様とお母様と一緒に寝ることにしたんだ。そして皆が寝静まった深夜に突然…」


『うあああ!!!』

『ヒサメ!!』


「ヒサメが苦しみ出して周りが凍り始めたんだ。両親がヒサメを落ち着かせようとするが、ますます酷くなる一方で俺とシュウはパニックになり泣く事しかできなかった」

「それって…まさか暴走?」

「ああ、ヒサメには特別な力があった。ただそれは本人も制御できないほどの驚異的な力で災害そのものだった」


『なんだこの魔力…ただの氷魔法じゃない!』

『まさか…!初代様の力か!?なんてことだ、なぜよりにもよってこんな小さな子供に!!ヒサメ!!』

『そんな……!?それじゃコレは……?』

『ああ、ヒサメが…死ぬまで止まらない』

『……あなた、ここは私が』

『いや、一人では無理だ。……くっ!』

『……あなた、私は大丈夫です。覚悟はとうにできています。我が子を守る為なら命は惜しくありません』

『…すまないユキメ、やるぞ…!』

『ヒサメ……ごめんね(な)』


「救助が来たのは吹雪が止んで陽が昇り始めた朝方だった。その時には両親はヒサメの魔力を代わりに引き受け亡くなった後だった」

「この氷はその日からずっと残っている。太陽光でも溶けないし、火で炙っても水滴一つこぼれない。この異質な魔力はかつての初代様が使っていた固有魔法と酷似しているらしい。それを知った奴らはヒサメを初代の生まれ変わりだと神格化してもてはやすようになった。アイツはそれが嫌で自分から人と関わることは無くなった」

「そんな…いくらなんでも酷過ぎるよ!その力でヒサメさんは苦しんでいるのに…」

「…フッ、そうだな。でもある時、アイツは変わった。学園に来てからだ。普段俺に話かけもしないクセにその時は昔の時のようにはしゃぎながら俺に話してきた」


『ウンスイ…!ウンスイ…!聞いて…今日、面白い人がいた…!』

『!そうか、そいつは余程面白い奴なんだろうな。どんな奴だ?』

『浅緑色の髪と目をした男の子!名前が……』


「ロク、お前だったよ。王都でヒサメの魔力暴走を止めたんだってな」

「あー…うん、そうだね。たまたま通りがかって、たまたま魔力を吸い取ってくれる魔道具を持っていたからそれで…」

「俺はその話を聞いて信じられなかった。俺の両親が命を賭けて止めた暴走を止めた奴がいた…?しかも俺たちと同じ生徒が…?見た目と名前に聞き覚えがあったからすぐにお前だと思ったよ。だからあの時、お前が何者なのか調べようと勉強に誘ったんだ」

 …!あの勉強会か!なんであの時僕を誘ってくれたのか疑問だったけどそういう事だったのか。

「お前はヒサメが言っていた通り…いや、それ以上の奴だった。弱腰だと思えば次の日には自分の気持ちに正直になって踏み出す勇気を持っていて、試験では印象に残るだけでよかったのに本当に魔剣術を習得するし、いつも想像を超えてきていつの間にか俺もお前に興味を抱いていた」

「え〜そんな褒めないでよ〜」

 ウンスイくんからそんなこと言われるなんて恥ずかしいけど嬉しいな。…ん?魔剣術習得しなくてよかったの?今頃明かされた衝撃の真実に素直に喜べない複雑な気持ちになったんだけど…。

「そして今では俺たちの命の恩人だ。そんな俺たちを救ってくれた勇者を両親に会わせてやりたくてな…」

 そう言って屋敷の前で手を合わせ、目をつぶる。

「お父様、お母様。俺達は今日も元気です。ここにいる友達が俺とヒサメを助けてくれました。ロクといってとても面白くて頼りになる友達です。だから心配しないで大丈夫です。今後も俺達を見守っていてください…」

 淡白な挨拶だったけどその想いに偽りはなく、心からの言葉だと感じた。

「ロク、改めて礼を言わせてくれ。本当に」

「「ありがとう…!」」

 ウンスイくんの声に混じって別の声が聞こえた気がした。

「……うん!!こちらこそこんな僕の友達になってくれてありがとう…!」

 こうして長いようで短かった今日の冒険の幕が閉じる。

「…そろそろ帰ろう。陽が沈むと夏でも寒いからな」

「うん、そうだね」

「…なあ、ロク」

「ん?なに?」

「これからもヒサメをよろしくな…色々と大変だと思うが」

「え?そりゃもちろん良いけど…ウンスイくんとかシュウくんの方が大変じゃない?」

「いや、お前の方が大変だと思うぞ…色々と」

「さっきからその『色々』って何なの!?怖いんだけど!?」

「とりあえず、お祖父様はヒサメを溺愛してるから気をつけた方がいいぞ?…『色々』とな」

「もう『色々』やめてよー!!」

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