63話 お前がそうしたいなら
レッドを倒した後、僕たち2人は休憩を取るためベッドに向かった。そのベットに寝ているヒサメさんを見たシュウくんは驚いた後、頬をつねって引っ張っていた。呑気に寝ていたことが不服だったみたいだ。既に立っているのも限界だったため、僕は倒れ込むようにして寝転んだ。戦闘の緊張から解放されたことで意識が遠のいていったが、シュウくんに気を抜くなと頬をつねられ起こされる。ちなみにずっとヒサメさんを起こそうと頬をつねっていたが全く起きる様子はない。
黙っていると眠くなるので休憩中にシュウくんから状況を教えてもらった。ヒョウゲツの戦士達が救援に来た事、シュウくんは混戦の中無理矢理護衛を引き剥がしてここまで進んで来た事、外にいたセッキ族はあらかた鎮圧した事、残るはこのアジト内のセッキ族とお頭のみという事。中でも一番驚いたのは、
「えっ……!!ハコビさんが死んだ…!?」
「『肉体』はな。来る途中に青と黄の仮面の奴に襲われたらしい。そん時に近くにいた動物の体に憑依して残った身体持って救援を呼びに来たって言ってたぜ?」
「そんな…!!」
残った身体は胴と右脚、頭だけだという。現在は里で厳重に保管されているため腐ることはないが…
「人間の身体に戻るのは絶望的だって…。アイツ無茶し過ぎなんだよ」
そう言ったシュウくんはどこか物悲しげだった。
「…それより、お前は何でこんなとこにいんだよ?」
「それは…」
僕の村に遊びに来た所から大まかに説明した。
「…ふーん、ヒサメがねー…。お前相当気に入られてるみたいだな」
「そ、そうなんだ。そう言われるとちょっと嬉しいかな…」
「…あのなぁ、コイツが今まで誰かに興味を持つ事なんて……いや、何でもない」
…?何を話そうとしていたんだろう?
その後は特に会話もなく、沈黙の時間がただ過ぎて行った。気まずさはあったものの、それ以上に疲労で喋る気力もなかったため、眠りはしなかったが最大限体力の回復に努めた。
時間にして30分程だろうか、再び眠気も襲い始めてきた時、
『カツン、カツン』
何かがぶつかる音がした。規則的に聞こえてくるこの音は…
「誰かがこっちに来てる…」
『カツン、カツン』
歩く音がしてからすぐに魔力感知で音の主を探る。
1人…いや、2人?足音が1人に対して反応は2人分ある。考えられるとすれば、誰かを担いで来ているか違う魔力を帯びた何かを持っているか…そんな所だろう。
もう一つの反応は…似ている…まさか…!
扉が開く。入ってきたのは若そうな白銀の髪の男の人だった。入ってきてすぐにこちらに気付き、氷剣を構えて警戒態勢に入ったが、少しの間があってから剣を下ろしこちらに近づいてきた。
「シュウ様、それにヒサメ様!ご無事でしたか!」
どうやら応援に来てくれたヒョウゲツの人みたいだ。こっちも一瞬身構えたが、味方で安心した。
「ああ…!無事で良かったです!ヒサメ様、シュウ様、ロク君!」
初対面の人だけど僕まで心配してくれるとは、なんて優しい人なんだろうか。
「あ、あの、心配してくれてありがとうございます」
そう言って男の人を見ると困ったような顔を浮かべて視線を落とした。…いや、視線を胸ポケットに向けた。
「あの…ロク君、私です。ハコビです…」
「……」
「あの、すみません…。こんなところにいると思わないですよね。ちょっと事情がありまして、私ネズミになってます」
「ええ~!?」
「…という状況でして…。戦士たちも仮面を外すことに苦労しましたが、徐々に外すことに成功し今はこちら側が優勢です。…残るは、お頭の討伐とウンスイ様の保護が最重要となります。…さあ、皆様も早くここを脱出しましょう。後は我々に任せてください」
ハコビさんから今の状況を聞かされ、幾度の連戦で既に極限状態だったからか身体に力が抜けていく。良かった…!これで安心だ。まだ眠り続けているヒサメさんを戦士のお兄さんが背負って、皆で実験室を出ようとする。………。なんだろう…この胸騒ぎは……?何か嫌な予感がする。このまま脱出していいのか?
「どうかしましたか?」
「あ、…いや、何でもないです」
前にも嫌な予感はあったが、結局何もなかった。今回もきっと気のせいだ。………。
「おい、顔色悪いな。体調悪いならコイツに背負ってもらえ」
「……」
「…おい、そんなに体調悪いのか?ブルブル震えて…寒いならベッドの毛布持って来てやる。ちょっと待ってろ」
「……ウンスイくんが」
「は?ウンスイ?あのクソ野郎がどうしたんだよ?」
「ウンスイくんが……危ない……?」
「おい…何言ってんだよ、急に。ウンスイが危ない?テメー、ウンスイとは逸れたって言ってただろうが。適当なこと言ってんじゃねえよ」
「…なんかそんな気がしたんだ。今、向かわないとウンスイくんに会えなくなるような…そんな気が…」
「気のせいだろ……」
「気のせいならそれでいい。…でも、そうじゃなかったとしたら?」
「……」
前で歩いていた護衛の人が僕らが動かないことに気づきこちらに駆け寄る。
「お二人共どうされました?早くここから…」
「ごめん、やっぱり僕ここに残るよ。皆先に行ってて、後で脱出するから」
この場にいた全員が驚きの表情を見せ、必死に引き留める。
「は?なんでだよ?今のお前が行っても足手まといだろ!」
「そうですよ!それに君は巻き込まれただけだ。これ以上危険に身を投げる必要はありません」
「ここからは我々ヒョウゲツの戦士に任せて君も早く避難するんだ」
「………」
「ウンスイくんは…」
「ウンスイくんは言ったんだ、こんな僕でも代表選手になれる…って」
「…?なんの話を」
「でも僕は代表になんてなれないって言った時、ウンスイくんは僕にこう言ったんだ。お前がそうしたいなら仕方がないって」
「だから!なんの話だよ!」
「……僕はウンスイくんを助けに行きたい、それが僕のやりたい事だ。例えそれが間違っていたとしても後悔はしない。…だって僕がそうしたいから!!」
「……だったら、俺も残るぜ。テメーにばっかいいカッコさせてたまるかよ!」
「シュウ様!?流石にちょっと…」
戦士のお兄さんが困ったような声を上げてシュウくんを引き留めている。それでも付いていくというシュウくんの強情さに戦士のお兄さんが折れかけていたところでハコビさんが制止する。
「…いいえ、シュウ様。あなたにはヒサメ様を無事に送り届けるという大事な役目があります。貴方の妹君なのですから、貴方が守って差し上げなくては」
「それは!!……そうだけどよ…」
「例え、ヒョウゲツの戦士であっても一人でヒサメ様を守りながら脱出するのは至難の業。シュウ様にはそのお力でお二人を守ってほしいのです」
「………」
「シュウ様……」
「………っああ〜!…分かったよ!!今回はこれで引き上げてやる!…だが、この先の戦いに風使い一人で行かせるのは無茶だぜ?コイツはコイツでもう絶対自分の意見譲る気ねぇしよ」
「はい…私もただ行かせるつもりはありません。ロク君には条件をつけさせてもらいます」
「条件?」
実験室を出て長い廊下を突き進む。廊下にはガレキと刃物による傷、へこみが至る所についている。これだけでも相当激しい戦闘があったことが窺えるが、その周辺には飛び散った血と倒れている戦士たちがいた。この凄惨な光景に胸が締め付けられるような気持ち悪さを堪えながら先へと進んでいく。
「ロク君。分かっていると思いますが、ウンスイ様と合流することが目的ですからね。私が言った『条件』…忘れないで下さいね」
僕の上着の懐からひょっこり顔を出して喋るネズミ…じゃなくてハコビさん。
「…はい、わがまま言ってごめんなさい……」
ハコビさんが言う条件とは、
・ウンスイくんと合流したらすぐに脱出すること
・道中の戦闘は極力避けること
・ハコビさんが同行すること
・危険だと判断したら絶対に引き返すこと
この4つだ。僕としてはウンスイくんを助けたいだけなので特に構わないが、仮に死にそうな味方がいても手助けしないで進んで下さいといわれた。僕の体力的に助ける余裕が無いこととウンスイくんの命が最優先だと言われ、渋々承諾した。
「……私は、君がウンスイ様の身に危険があると言ったのは何か意味がある…そんな気がしたのです。なのでこれは私の我儘でもあります…どうか謝らないで下さい」
そう言ってチュチュ…と微笑むかのように鳴くハコビさん。
「…ありがとうございます…!でも、嫌な予感といっても……唐突にウンスイくんが頭に思い浮かんだような気がしただけというか……」
「そういった感覚は失敗した時の経験から感じるものや防衛本能がそうさせていると言われていますが、基本的には当たりません。…ですが、私はこうなんじゃないかとも思うのです」
「『ダレカからの危険信号』なのではないか…と」
「誰か…?それってウンスイくんが危険信号を僕に送ったということですか?」
「そうかもしれないですし、他の方かもしれない…そんな正体不明のダレカが教えてくれているのが嫌な予感や勘というものではないかと…私は動物の感情や伝えたいことがわかるので声にならない思いを私達人間に伝えようとした時、そうなるのではないかと思っただけですので…あくまで一つの考えとして聞いてくださいね」
「誰かの思い……」
「…!ロク君、この先にある2つ目の部屋、倉庫にウンスイ様を見たとネズミが教えてくれました。ですが…その先には……」
「分かってます。居るんでしょ?お頭が…それと……」
「ええ、居ます。気をつけて下さい…!」




