61話 君の名は
早さの極意。早さには自信があったんだけどレッドには追いつけない…何か動き方にコツがあるのか?
「おいおい、悩んでる暇があるなんてずいぶん余裕だな!!」
「うわっ!?」
突然目の前にレッドが現れる。くそっ考える余裕もない!!追い風を使う前に攻撃されるが、寸前のところで身体をひねって躱す。限界を超えた反射神経で
奇跡的に回避することが出来た。危なかった!もう一回は無理!!
追い風で距離を…いや、もうすでにこっちは疲労で限界に近い。このまま逃げてばかりじゃダメだ!ここで反撃に出る!!
「吹っ飛べ!」
逆風でレッドを吹き飛ばす。厄介な仮面はもう無くなったので僕の魔法も通るようになった。
勢いよく後退していくレッドだったが、
「ふんっ!!」
空中で態勢を整えると床に足を突き刺し壁に激突するのを防いだ。嘘だろ!?ここの床、鉄板だよね!?
「もう3度目だ。同じ手は食わん!」
人間離れした頑丈さで脳の処理が止まったがすぐに我に返る。よし、足を突き刺している今がチャンスだ。僕はすかさず部屋にあった2段積みの木箱の元へ移動する。その中には拳大程の石や鉱石がたくさん入っていた。
「食らえ!!」
上にあった木箱を押し倒し、中に入っていた石たちをまき散らすと、螺旋状の回転をかけながらレッドに向かって石を吹き飛ばした。
『玉石混交弾』
「ぬおお!?あいてっ!、いてててっ!!やめっ…ぶっ!!」
間の抜けた声が聞こえてくる。効いているのか…?
『玉石混交弾』
二段目の木箱を蹴飛ばし、二射目を発射する。相変わらずレッドは間抜けな声を上げているが効いていると思いたい。残りの弾数は同じように2段積みの木箱が2つ置かれている…つまりあと二射までだ。それまでに倒しきれるだろうか?
「いや、やるしかない!」
『玉石混交弾』
三射目。いつの間にか声も聞こえなくなっていた。…倒したのか?前にウンスイ君が教えてくれたけど、竜巻っていうのは時速100km以上の速度が出るらしい。多分だけど、この技もそのぐらいの威力はあるだろう。そんな速度で鉱石の塊が衝突しているんだ。普通なら一個当たるだけで大ダメージのはず…それでもレッドの…セッキ族のタフさは常人を超えている。油断はできない。
念には念を入れて第四射目を…
「はあ、はあ……テメエ…!!」
「うわっ!!な、なんで……!?」
四射目を放とうとした時、後ろから手を掴まれる。そこには身体中痣だらけのレッドがいた。放つ前までは確かに挟まっていたはずなのに……!?魔力反応も直前まであの場所から動いてなかった!!今までの動き方と何かが違う。
「はあ、はあ、危ねえ…まさかこんな隠し玉があったなんてな…久々に本気使っちまったぜ」
「本…気?」
「な、何を言ってるんだ……?本気?じゃあ…今まで本気じゃなかったのか……?」
「………」
何も言わない。やっぱり嘘だったんだ。そうだよ……だって今まで手加減していたなら僕を殺せるタイミングなんて何回も………!?
ああ……本当なんだ……冗談なんかじゃない……。
その時、僕はレッドが本当のことを言っている事を悟った。
空気が変わった。アジトで殺すと言われた時に感じたずっしりのしかかる重い空気。さっきまでの軽快な雰囲気が消え去っていた。
「お前に最後のチャンスをくれてやる…」
「…は?」
「今から俺はお前を殺す。一撃でだ。その攻撃を避けてみろ。死ななきゃお前の勝ちだ。そしたらお前を殺しはしない。簡単だろ」
「…はっ…はっ…よ、避ける…?」
「ああ、だが……」
空気がさらに重くなる。ここまでの重圧は感じたことがない。息が苦しくなって正常に呼吸ができているのか分からなくなる。
「死んだことにも気付かないかもしれんがな」
視界が霞んだ。ぐにゃりと。平衡感覚が消えた。苦しかったはずなのに何も感じない。なのに心臓の鼓動だけはハッキリと聞こえる。な…なんだ……今、僕はどうなっているんだ?
『……つけ』
『お…つけ』
『落ち着け!』
「リュウタン…!!」
『正気に戻ったか…心配させるな…』
「ここは?」
『お主の精神世界だ。…まあ、夢みたいなものだ』
「夢?」
『いや、そんなことより時間が無い。手短に言う。ロク、お主は既に…』
『早さの極意を身につけておる』
「な、なんだって!?」
『思い出せ!!あの時……で使った……!!』
「…はっ!…はっ!…はっ!…はあっ!はあっ!はあっ!」
身体の感覚が元に戻る。どうやら極度の緊張で気を失っていたらしい。時間にしてはほんの一瞬ではあったが。それでもこの絶望的な状況は変わらない。避けられなかったら……死ぬ……。
魔力感知で気配を探る。
「ぐっ…速すぎる」
捉えたと思ったら別の場所に移っている。余りにも速すぎてこの部屋全体がレッドであるかのようだ。クラクラする頭を必死に回転させ、意識を保つ。死への恐怖からなのか冷静に考えることが出来ない……またボンヤリとして来た。
『体の重心が大切なんだ』
ふと、コーラ先生の言葉を思い出す。体の重心……あ、もしかして……。
分かった。……分かったんだけど、もう遅かった。
僕の首に突然現れたレッドの手刀が振り抜かれようとしていた。
「お前の負けだ…ロク」
迫り来る死神の鎌に何も反応できない。このまま死……!
『凍結牢獄』
空気が変わった。いや、空気が凍った。首元に迫っていた死神の鎌は突如現れた氷の鎖に阻まれ動きを止める。一体誰が……?
「誰かと思えば風使いじゃねーか。ハコビが言ってたロクって奴はお前のことだったのか」
「あ…!!」
研究室の前には一人の少年が立っていた。横を刈り上げた短い白髪、肉食獣のような鋭い眼光に粗暴な立ち振舞い。
代表戦でウンスイくんと戦っていた不良くんだ!
「あれ…君の名前……なんだっけ?」
「おいっ!!シュウだ!!ぶっ殺すぞ!!」
まさかの助っ人キャラがやって来ました。




