60話 速さの極意
「……決着をつけよう」
「ああ、これで最後だ」
そう言い終えるとレッドの姿が消える。この動き、魔法を使っているのか分からない…だけど、レッドは決して瞬間移動している訳ではない。魔力感知で位置を探るとすごい速さで動いていることが分かった。瞬間移動に限りなく近い高速移動だ。
『追い風』
僕がいた場所にレッドの拳が空を切った。その後すぐにこっちに向かって蹴りが飛んでくる。風の膜がそれを受け止め破裂する。一瞬の硬直。その隙を狙い、レッドに飛びかかり、顔に手を伸ばす。だけど手が触れる前にレッドが消えた。
「お前の狙いは仮面か。もう気付いてるみたいだな……俺の秘密に」
「その仮面が魔法を打ち消していたんでしょ?そんなのとっくに知ってるよ」
「えっ」
レッドが顔を前に突き出し動きが止まる。知っていたのがそんなに意外だったのか?
「……」
顎に手を置いて何か考え込んでいる…?
「確かに…この仮面を被っている時、魔法が当たらないことが多かった……。俺はてっきり俺の気迫で掻き消していたのだと思っていたんだが…」
えぇ……。
「…まさか被っておいてその効果を知らなかったの?…じゃあさっきの『秘密』ってなに?」
「これを被っていると俺の魅力が8割り増しになる」
疲れるぞこの戦い。……主に精神的に。
「…!」
『追い風』
耳の先にレッドの拳が掠る。続くラッシュに何とか紙一重で避け続ける。
「相変わらずちょこまかとすばしっこい奴だな!」
「それが僕の取り柄だからね」
「なっ…おい!?」
拳を振り下ろしたとき、間をすり抜けレッドの仮面を奪った。
「て、てめぇ〜!返せ!!」
片手で顔を隠し、もう片方の手を伸ばして仮面を取り返そうとするレッド。僕はその手をひょいひょいと避け続けていく。それに痺れを切らしたレッドが目の前から消える。例の高速移動だ。
「ここだ!」
『バキッ!!!』
「あー!!おおお、俺の仮面が〜!!」
レッドは背後に移動し、回し蹴りを繰り出す。僕はその攻撃を利用し仮面を当てることに成功した。レッドの蹴りを喰らった仮面は当然、粉々に粉砕する。その衝撃は相当なもので僕も壁まで吹っ飛ばされるが風の膜でダメージは軽減できた。
「痛てて…でもこれでやっと戦える」
レッドの素顔が顕になった。無精髭で腫れぼったい目をした…なんというかこんな人僕の村の酒場に1人は居るおじさんみたいな。レッドは怒っているのか肩をワナワナと震わせていた。
「〜〜ッグ!!」
「グハハハッ!!グワーハッハッハ!!」
「え…なんで笑ってるんだ…!?」
「イーヒッヒッヒ……フゥ。いやー想像以上だな!俺が見込んだだけはある。お前…さっきの動き、俺がどこに移動するか分かっていたな?」
「…どうかな?たまたまの可能性も」
「いや、それはねえな。俺の動きを目で追えてなかった。それなのに背後に回った俺の攻撃に合わせて仮面を破壊させやがった。てことは別の方法で位置が分かるってことだ」
急に鋭いな。僕が魔力感知で動きを読んでいることに気づき始めた。
「うん、そうだよ。レッドが瞬間移動じゃなくて高速で移動してるっていうのもね」
「ほぉ。ならもう少し速く動いても良さそうだな」
そう言い終わるとレッドの姿が消える。何か嫌な予感がする。今度は…左。
『追いか…
「遅えよ!!」
「ぐぁ!!」
追い風で回避するよりも早くレッドの拳が顔面に飛んでくる。すんでのところで風の膜を張ったが、層が薄かったため衝撃を防ぎきれず、頬に鈍い痛みが走る。
まずい、早く距離を…あれ?
体勢が崩れた隙を狙って追撃が来ると思ったが何もしてこない。追い風で距離を取るとレッドが余裕そうに言った。
「何で攻撃してこないのかって顔してんな、知りたいか?」
「え?いや、気にはなったけど別にそこまでじゃ…」
「俺は昔、王都の護衛団に所属したことがあってだな…まあ王様に粗相したせいでクビになったんだけど俺の活躍はそれはもう王都中に響き渡っていて初めて戦果を挙げた日にゃ『ブラッドレッド』なんて呼ばれて敵から恐れられてたってもんよ。そこから俺はレッドって呼ばれるようになったんだけど辞めてからもその名に愛着が湧いてそこから俺はレッドを名乗るようになったんだがなそれよりもブラッドレッドって異名かっこよくねえか?血塗られた赤だぜ?やっぱ俺の燃えるような意志を例えて~」
自分の身の上話を突然始め出した。…いや、意味が分からない!?なぜ!?
「団長もよく言ってたぜ速さの極意がわかってないってな。そんなの知らなくても俺は強いって言ってよく勝負をしかけてたっけな、いやぁ懐かしい~」
「!?」
レッドの身の上話の中にとても気になる発言があった。
『速さの極意』
僕はこの言葉を聞いたことがある。
代表戦の自主練習中、たまたま通りかかったコーラ先生が話しかけてきた。
「お!自主練か、いいね!」
「あ、先生…こんにちは」
「はい、こんにちは。それで、何してたんだ?」
「走る時に後ろに風を出して速く走れないか試してたんです。でも加減がわからなくてバランス崩したり、浮いちゃって転んだりしてて…」
「あーなるほどな。それ辞めたほうがいいぞ?」
「え、何でですか?」
「速く動くのには体の重心が大切なんだ。初動が違えばすべての動きが速くなる。これぞ速さの極意ってな。耳にタコができるまで言われたもんだよ」
「速さの極意…ですか?」
「お!なんなら直接教えてやろうか?」
「え?…う~ん代表戦の前なので無理はやめとこうと思います」
コーラ先生の動きに付いていったら脚千切れそうだし。
「そうか?まあ、そう簡単にできるもんでもないしな。地面の蹴り方だったり、緩急つけたり…いずれにしろその動きは良くないぞ?やるんだったらいっそ俺と模擬戦したときみたいに飛べばいいじゃないか!」
「そ、そうですか?分かりました。先生がそう言うなら辞めときます」
やっぱり…どこか似ていると思ったらコーラ先生の動きに似ていたんだ。
「~というわけだ、わかったか?」
ちょうど長かったレッドの話が終わる。何を伝えたかったのかほとんど聞いてなかったので知らないが今僕がやらなきゃいけないのは…わかった。
「速さの極意でしょ?」
レッドが口角を上げ、ニヤリと笑う。
「ああ…!死にたくなかったら死ぬ気で覚えろよ?」
投稿遅くなりすみませんでした。最近また忙しくなり書くタイミングが中々取れませんでした…。
落ち着くまでは投稿遅くなることが多いと思いますが失踪はしたくないので自分のペースで書いていきたいと思います。




