59話 大事なお友達
「うああああっ!!」
『ピキピキピキッ』
研究室がどんどん銀世界に塗り変わっていく。僕も体温と力を奪われていく…。
「ヒサメ、さん、し、しっかり、して…!」
頼みの綱の仮面も通用せず、指輪も見つからない。完全に手詰まりとなった今、僕にできることはヒサメさんを正気に戻すように呼びかける事しかできなかった。
固有魔法……あの大幻狐やイリネスさんのようなその人特有の魔法。他の魔法と似てるようでどこか違う、謎の多い魔法。この氷魔法も当てはまっている気がする。
「…キミ……に、逃げ…ぐっうう!!」
「ヒ、ヒサメ、さん…!」
かける言葉が見つからない。助けに行きたくても手段がない。くそ、あの指輪さえあれば……ん?待てよ?確か……
『いや!それ貰い物だったし、大丈夫!それよりまたあんなことがないように……あの……君が持ってなよ!』
『いいの?でも2つはいらないから1つ返す』
『予備として持ってなよ!無くした時とか』
『……うん』
『だからこそ、ロクが持ってて』
そうだ。持ってる…。僕が持っていたじゃないか!!荷物の中!そこに指輪がある。
「こうしちゃいられない。早くあの部屋に行かないと!!」
研究室の扉を開け、全速力で取りに行く。周りの事なんて考えず1秒でも早く荷物のある部屋に向かった。
『ロクの部屋』
部屋に入るとベッドに横たわる一人の男がいた。深緑の短髪に端正な顔つきで垂れ目のおじさん…仮面を取ったグリーンが僕を見るなりベッドから起き上がって睨みつけてきた。
「ホワイト…!お前…裏切ったんだな」
「……ごめん」
「お前とは仲良くなれそうな気がしたんだがな〜。……こうなったらもう敵同士だ」
「グリーンさん、これを」
そう言ってグリーンにあるものを渡す。
「ポーション?なんでお前がこれを…?ていうかなぜ俺に?」
「不意打ちで攻撃してごめんなさい。お詫びにはならないけどそれで治してください。僕はやっぱり友達が大事だからそっち側には着けません」
「…まあ、そりゃそうだよな〜。友達が死ぬなら助けに行くわな」
グリーンは小さく笑いながら軽口を言う。思えば朝も僕に気楽に話しかけていた。その時僕を気遣ったのもグリーンだ。とてもセッキ族とは思えない。
「ごめん、急いでいるから」
今は指輪を探すのが第一優先だ。グリーンに背を向け指輪を探し始めた。
「俺が逃すとでも?」
「それなら振り切ります」
「無理だね。あまり大人を舐めるなよ」
「僕より強いのは分かってます」
「……はぁ、お前って話通じないな」
「そんなことは……あ」
…あった!見つけた!これで……っ!?
突如背後からとんでもない殺気が飛んでくる。
『追い風』
「ほーよく気付いたな!会いたかったぞ、元ホワイト」
「レッド…!?」
「グリーン大丈夫か?お前アイツに寝込みを襲われたんだな?」
「あ〜…まあそんなところだ!助かったぜ!…んならまあ、やりますか!」
くそっ…最悪のタイミングだ。
「さっきもの凄い速さで飛んでいるお前を見つけてなぁ。この辺に来たのは見えたから片っ端から全部屋探してたんだぜ?」
見つかる覚悟で飛んでいたけど一番見つかって欲しくない相手に見つかってしまった。レッドとグリーン…2人を相手に逃げられるかどうか…正直、無理だ。でも諦める訳にはいかない。
「レッド、俺が捕まえる。そしたらお前がとどめを刺してくれ」
「いいのか?お前も恨み溜まってるだろ」
「ああ、溜まってるねえ…恨み。だから」
グリーンが消え…
「気の済むまでボコボコにしてやる」
『追い風』
「遅えよ」
「うがっ!!」
追い風で逃げた先にすでにグリーンがいた。先回りされた上に膝蹴りをモロに顔面にくらってしまう。
「だから言ったろ?『あまり大人を舐めるな』って」
「……」
「もう伸びちまったのか?なら消化不良だがとどめ差しちまうか。グリーン」
「…ああ」
「よし、そのまま持っておけよ。俺のダイナミックスマッシュで華麗にとどめを…」
『逆風』
「な、なにぃ!!?またこれか!!いでっ!」
僕を掴んでいたグリーンに逆風を浴びせ、レッドに激突させた。……逃げるなら今しかない。
「何やってんだ!?グリーン!早く退けろ!逃げちまったじゃねーか!」
「痛って〜、悪い悪い!油断したわ。……うっ!?今ので腰打っちまって動けね〜!悪いレッド!そこのベッドまで手を貸してくれ!」
「腰だと!?それは大変だ!人間『首と腰と膝だけは絶対大事にしろ』ってお頭が言ってたからな。早く運ばないとな!」
「……これで恨みっこなしだぜ」
「あん?なんか言ったか?」
「いーや、腰が痛えってなー」
グリーンさん…ありがとう。少しトラブルがあったが何とか研究室まで戻って来れた。扉を開けて中に入ると、
「な!?」
目の前に氷塊が迫ってきた。いきなりの障害物に一瞬反応が遅れるもすぐに追い風で避けて超特急でヒサメさんの元へ飛んでいく…が、寒過ぎる。前の王都の比にならないくらい寒い。風の膜は張ったそばから凍りつく。モタモタしている時間はない。は、早く、ゆ、びわ、を……………っは!
意識が一瞬ブラックアウトする。身体はすでにこの状況に死を悟り始めている……。飛ぶこともできなくなり、歩くたびに痛みが走る。手先の感覚はとっくに消えた。よく見ると指の先が凍り出している。肌が出ているところは全て凍傷になっていた。ヒサメさんとの距離はあと10mもないのに、そこに辿り着くまで果てしなく遠いと感じてしまう。それでも歩みは止めない。道中何度も意識が消えかけた。目の前が真っ暗になっても、足だけは動かし続けた。だって…あんな辛そうで今にも泣き出しそうなヒサメさんを放っておけないよ…!
「ヒサメ、さん!これ!これ、つけ…」
つまんでいた指輪をヒサメさんに差し出す。つまむというより凍った指の間に固定させている。これならはめ込むのも簡単にできる。
「うっ!うおお!!」
動かなくなった腕の筋肉を反対の腕で押し上げる。何とか気合いでヒサメさんの指にはめ込む事に成功する。荒れ狂っていた魔力が消え、ヒサメさんの表情も和らいでいく。次第に氷も消え始め、研究室は元の姿へと戻っていく。
「ロ…ク…。ロク…!」
「えっ!?ヒサメさん記憶戻ったの…って!?」
ヒサメさんがいきなり僕に抱きつく。え…ちょっ!?ヒサメさんの身体はひんやりと冷たかった…が凍りかけた僕の身体はそれよりも冷たく、僅かな温かさを感じていた。
「ありがとう……!ロク。私の大事なお友達…!」
そう言ったヒサメさんは今までで初めて見せる満面の笑みだった。
「……うん、おかえり、ヒサメさん…!」
ヒサメさんは僕に身体を預けたまま眠ってしまった。あれほどの魔力放出だ、相当大変だったのだろう。僕はヒサメさんをベッドの上に寝かせてあげた。そのまま僕もベッドで寝たい。疲労で倒れそうになる…がそういう訳にもいかない。…まだやらなきゃいけないことがある。
「漢だねえ、元ホワイト……いやロク?だったか?好きな女のために頑張ってたって訳か」
「……レッド」
「構えろよ。それくらいの時間は待ってやる。その漢気に免じてな」
「……決着をつけよう」
「ああ、これで最後だ」




