5話 風魔法は最弱?筋肉こそ至高?
『風の勇者』の絵本を読んでから3日が経過した。その間で勇者が使っていた魔法を練習してみたんだけど、そこから僕が導き出した答えは、
全く無理!
この一言に尽きる。
どの技もクセが強すぎて使える気がしなかった。
追い風は勢いが強すぎて体が耐えきれず、体勢が崩れてしまう。そのせいで何回保健室に通ったか。かといって弱すぎてもなんの意味もないそよ風になる。
逆風は使えそうだと思ったが、これも意外な欠点があった。なんと有効範囲が終わっていた。人並みの重さを再現した訓練用サンドバッグ(麻袋くん)を使って実験した。その結果、吹っ飛ばすのに1m以内でなければならないということが分かった。それ以上離れると威力が霧散して吹っ飛ばすよりも後ろにずらす程度になってしまう。そんな至近距離なら魔法撃つ前に直接殴った方が早い。
姿を消すに関してはどうやっているのかすら分からなかった。自分の周りに風を流しても周りからは丸見えだ。
所詮は絵本に書かれていることだ。そう思うこともあったが、あの絵本はなんだか引っかかることがある。
うまく言い表せられないけど、子供向けなんだけど子供向けじゃないような感じがした。
そんなことを考え込んでいたら、
「ロク、授業中だぞ。つまらないからってぼーっとするんじゃないぞ」
「っ!すみません」
先生に怒られてしまった。みんなからの視線が痛い。
「……というわけで、今回の授業は終わりだ。次の実習はいつもとは少し違うからな。武道館に集合だぞ?」
武道館?いつもは外の訓練場だったのに何故だろう?
武道館に集合した僕たちにコーラ先生は、
「皆、いい感じに魔法に慣れてきたみたいだから今日は実戦形式で練習するぞ!お前たちの相手は先生だ!」
相手が先生だと聞いて僕たちは、すごく動揺した。不満を言う子や怖くて怯えている子もいた。
「といっても先生は攻撃しないから安心してくれ。あくまでもお前たちの魔法の精度と判断力を確かめるためにすることだからな」
「な〜んだ、びっくりした〜」
「よかった……」
皆の安堵した声が口々に発せられるとある生徒から、
「誰からやるんですか?出席番号順?」
と質問が投げかけられた。その質問に先生は首を傾げながらこう答えた。
「いや、言ったろ?お前たちの相手は先生だって。お前たち全員で来るんだ」
「時間は、そうだな……20分目安にしよう!それまでに先生に攻撃できたら次の授業自習にしてやろう!魔法じゃなくてもいいぞ!」
皆のテンションが爆増した。相変わらず生徒を乗せるのが上手い。
「行くぞ。よーい、スタート!」
一部の生徒が合図と同時に先生に突っ込んでいった。先生はその生徒たちに捕まるか捕まらないかスレスレの距離を保って逃げ続けていた。あれは完全に遊んでいるやつだ。そんな中、他の生徒たちは先生に向かって魔法を放とうと狙いを定めていたが、動き続ける先生にその近くをうろちょろする生徒がいて狙いが定まらず苦戦していた。
「これじゃあ、一生当たんないぞ〜?もっと皆で力合わせないと」
確かにこれじゃあ魔法すら撃てない。今の所、実戦というよりただの鬼ごっこになってる。
すると、メガネを掛けた青髪七三分けの男の子が皆に指示する。
「皆、闇雲に近づいてはダメだ!誤射する!皆で協力して追い詰めよう!」
おお!流石だ!皆をまとめて陣形を作った。これからは軍師さんと呼ばせてもらおう(心の中で)。
軍師さんは先生に向けて魔法を放つタイミングを皆に指示していた。
「まずは、何人かで囮になって、霊魔法で先生の動きを止めたその瞬間に集中砲火で行こう。クウナさんよろしく」
「うん!分かった」
クーちゃんことクウナさんは霊魔法の足止め要因だ。霊属性は適正ある子自体が珍しく、他の属性と違ってイメージが難しいため使える子が少ない。あの時盗み見た適正は実は結構優秀だったのだ。
「さあ、作戦開始だ!」
3人の生徒が先生に向かっていく。3人で3方向を防ぎ、所定の位置にまで先生を誘導していく。
すごく息ぴったりだ。一人が攻撃役で後方の2人は魔法で支援して逃げ道を塞いでいく。これだけでも先生に一本取れそうな勢いだ。
「今だ!」
軍師さんの合図で囮の3人が散開し、クウナさんは先生に霊魔法を使う。先生の体が止まり、その瞬間、皆で一斉に魔法を放っていく。
「キャッ!」
先生が魔法を浴びる直前、クウナさんは小さな悲鳴をあげた。どうしたのだろうか?
多くの魔法が衝突した白煙で中の様子が分からない。……やっと煙が晴れてきた。けれど先生はそこにはいなかった。
皆も先生がいなくなって動揺している。
するとある生徒が、
「あ!あそこ!」
と上を指差した。先生は天井の梁にぶら下がっていた。一体どうやってあそこまで登ったんだろうか?
どのくらいの高さがあるか分からないけど、僕らの中で魔法が届く者はいなかった。
そろそろタイムアップだ。結局誰も先生に攻撃できなかった。僕は攻撃すらできなかった。風魔法は攻撃に向かない。威力が霧散してしまうから。
なんとか僕ができることを探す。…一応あそこまで届く方法はあるにはあるが、僕が大怪我する未来しか見えない。それに、先生ならあそこからでも避けられるだろう。先生が避けられなくて、僕が無事に助かる方法……。
あ…!あった!
「スー……ハアー……」
大きく深呼吸をして先生に一泡吹かせる準備をする。よし!行こう!
先生の元へ『追い風』を使って飛んでいく。途中で推進力が無くなったらさらに『追い風』を使い、高度をどんどん上げていった。先生は目を丸くしてニヤリと笑う。
「なるほど、考えたな!けどそれだけじゃ、先生には当たらないぞ!」
そう言って梁から手を離し、下へと降りていく。予想通りだ。『追い風』で先生の後を追う。
空中で先生との距離が1m以内まで縮まった。今だ!
『逆風』
魔法が発動する直前、先生は身を翻して逆風の射程外に逸れた。やっぱり先生の身体能力は常軌を逸している。
「空中なら逃げられないと考えたようだが、先生は空中でも皆の魔法を避けられる自信があるぞ」
「ですよね、そう思って伏兵を用意しました」
「!?」
先生の動きが止まる。どうやら上手くいったみたいだ。クウナさんの霊魔法が発動した。
その効果は一瞬、だけどその一瞬が必要だったんだ。
『逆風』
先生に魔法が直撃し、ものすごい勢いで床に叩きつけられた。ヤバい、やりすぎたかも!
クウナさんに霊魔法で着地を助けてもらった後、先生の安否を確認しに行く。すでに生徒たちが駆け寄り、心配していたが、何事も無いようにスクッと立ち上がり、朗らかに言った。
「いや〜、やられた〜。ロク、先生に一撃入れられるなんてすごいぞ!完全にしてやられたよ」
「あ、いや、クウナさんに手伝ってもらわないと無理でした」
この人の体は鋼でできているのだろうか?ピンピンしている。
「そうだな、クウナもナイスアシストだったぞ」
「ありがとうございます。……えへへ」
クウナさんは、少しだけ耳を赤くしてはにかんでいた。なんだか癒されるな。
僕とクウナさんの周りに皆が押し寄せ、
「「すごかった!」」
「「かっこよかった!」」
「俺より目立ってんじゃねーかよ!流石は俺のマブダチ」
などなど、賛辞の声が飛び交った。……いや最後の声だれ?
「皆、お疲れ!先生の予想よりも皆が成長していてびっくりしたよ。特にウンスイは皆をまとめてよくあそこまで追い込んだな!すごいぞ!」
軍師さんことウンスイくんは褒められても目を閉じウンウンと頷くだけだった。かっこいいな。
「約束通り、次の授業は自習にするが、あまり騒ぐなよ?先生が怒られるからな?」
皆笑いながら「「「ハーイ!!」」」と元気よく返事した。
霊魔法は、体に変化を起こさせるスピリット系な属性です。
クウナさんが使った魔法のイメージとしてはサイコキネシスで先生の体を縛るような感じかもしれないです。
そのほかにも、呪術のように相手の体調を悪くさせたり、逆に強化させたりと、割となんでもありです。