57話 固有魔法『絶対零度』
「1本対7本…捌ききれる?」
さっきまでと違って確実に僕の隙をついてくる2本の剣。意思を持った攻撃があるだけでここまで厳しいなんて思わなかった。正面、右、左、後ろ、上、また正面………!魔力感知で何とか剣の位置を把握してしばらくギリギリの打ち合いが続いたが、僕の方が圧倒的に動かなくちゃいけないので体力が尽きかけていた。
「うっ…く、おわっ!?」
「隙あり」
態勢が崩れて身体の中心に剣が突き立てられようとしていた。よ、避けられない!?というか、そこ心臓…!?
「うあ!!」
「な…!?」
咄嗟に風を起こして剣の軌道を逸らした。逸れた剣は僕の右腕に刺さる…とまではいかず、横を掠め、何とか一命を取り留めた。
『追い風』
「はあ、はあ、はあ…!!」
堪らず距離を取って呼吸を整える。し……死ぬ死ぬ!!肝も冷えたし、背筋も凍った。……この汗は冷や汗か?とにかく、彼女の攻撃は容赦無く、冷たい。確実に急所を狙ってくる。代表戦の時はここまで残虐じゃなかったぞ?
「逃がさない… よ!」
細く伸ばした氷を触手のように広範囲に広げ僕を捕まえようと追いかける。逃げても逃げてもしつこく追いかけてくるので魔剣術で破壊するしかない…!方向転換し、伸びて来る氷に向かって魔剣術を…
「こっち…だよ?」
「えっ!?」
氷の影にヒサメさんが隠れていた。まさか壊しに来ることを読まれていたのか!?
「今度は君が…引っかかったね」
くそ!せめて氷だけでも!
『魔剣術』
僕の魔剣術で追いかけてきた氷は破壊することが出来たが、ヒサメさんの攻撃までは防ぐことが出来なかった。その斬撃は風の膜を貫通し、僕の脇腹を抉った。
「うわあああ!!」
氷魔法特有の侵食する痛みが襲いかかって来る。傷口が凍り、内部をヤスリで削られたような痛みだ。
「これで終わり……」
もう片方の剣ですかさず僕の首を狙う。その顔にはもう油断も温情もない冷め切った表情だった。その刃は僕の首に食い込み…刎ねとばした。
「と思ったでしょ?」
「ひゃぃ…!?」
胴体と首が離れた僕が喋ったことで今まで見たことのないほど驚いた顔と声を出したヒサメさん。
『蜃気楼』
「これ前も引っかかってたよ…!」
『縮地+居合』
「くっ!?」
今回一番の隙を晒した彼女に居合で二刀を狙い、切り崩す。その一撃で左の剣を落とした。二刀から一刀になり手数が減った今なら対抗できる。
『魔剣術』
怒涛の剣戟でヒサメさんを追い詰める。
「うっ…!うぐぐ…は、早く剣を…!」
剣を魔法で操り、落とした剣一つ、僕の左右に二つ、計三つをこの場に集めようとしていた。さっきより数が少ない!それはヒサメさんが7本も操っている余裕がない証拠に他ならなかった。決めるなら今しかない!!
僕の猛攻に耐えながら落とした剣を手元に収める。
「これで…!」
たった一瞬、たった一瞬だが、手元に収めたその一瞬の隙を僕は見逃さない。
「今だ!!」
強烈な一撃を脇腹に打ち込んだ。
『ガキン!』
僕の薙ぎ払いは腹部にだけ生成された氷の鎧で止められた。
「嘘!?いつの間にそんな防御まで!?」
「君の技…真似た」
あの状況から立て直してくるなんて…!そうしてる間に僕の左右に剣が迫って来た。このまま終わる…?いや…!
「まだだ!」
『逆風』
「くっ…またこの技…!もう効かない…!」
飛ばされはしたが冷気で勢いを相殺されてしまう。やっぱり対応されるよな…だから、
「ダメ押しにもう一回だ!」
左右の剣が僕に追いつき、斬られた。いや、正確には僕の残像が斬られた。
『縮地+疾風』
持てる力の中でも最速の組み合わせでヒサメさんの元に移動する。その速度はその場に残像を残すほどであり、もはや瞬間移動やワープに近いものだった。ヒサメさんは突然目の前に現れた僕に反応する暇もなく壁に激突した。
「お、終わっ…た?」
剣と脇腹の氷が消え、空気も穏やかになっていた。
「はああああ〜…つ、疲れた…」
100%のヒサメさんはこんなにも危険なのか……何回死ぬかと思ったか分からない。代表戦や森で手合わせしたときも手を抜いてくれていたのか?
とりあえず、脇腹の応急処置を…
「……うっ」
『パキパキパキッ!!』
「うあああっ!!」
空気が乾燥する…いや、空気すらも凍えていく。さっきまでの過酷で冷たいながらも静かで美しささえも感じた雰囲気と違い、この世全てを塗り替える地獄の様な荒々しい魔力を帯びている。この雰囲気には憶えがある。王都であった魔力の暴走だ…!
「な、なんで…?指輪で魔力を抑えてあったはずなのに!」
苦しみ悶えるヒサメさんが顔を手で覆っている。その指にはいつも付けていた指輪が無くなっていた。
そんな……。いつから無かったんだ?
「ヒサメさん!!しっかりして!指輪!指輪はどこにやったの!?」
「くっ!うあぁ……!!ぐぐっ…!!」
ダメだ。暴走を抑えるので精一杯だ…。そうだ!
「打ち消しの仮面!!研究室なら1個ぐらいあるはず!!」
辺りを見渡して仮面を探す。……あ、あった!机の上に置いてある!急いで取りに行って彼女の元まで駆け抜ける。…寒い。風の膜を展開しているのに寒い。この寒さ…風の膜が機能していない。外気を通さないはずなのに…。
「あ……」
……気付いてしまった。今の絶望的な状況に。
「氷魔法が……打ち消されていない……」
ヒサメさんに向かって仮面を投げる。仮面はヒサメさんの身体に命中し、その足元に落ちる…が、魔力が打ち消される様子はない。
そんな、バカな……。確かにウンスイくんの氷魔法は仮面で打ち消されていたのに…そして僕の風の膜も貫通している……。ここから導き出される最悪の結論。
「この氷魔法はどんなものでも関係なく凍らせてしまうんだ…!」
あらゆる事象。世界の法則。その全てがこの魔法には通用しない。この魔法は、目の前のモノをただ凍らせるというシンプルなもの。それ故に世界の型にハマらない特異なもの。その名は、
「固有魔法…!」
忘れている人向け
ロクの魔法一覧
『追い風』:風に乗って素早く移動する魔法 基本的に飛んでいる時は追い風を使っている
『逆風』:相手に向けて放つ吹き飛ばしの魔法 主に壁に激突させて攻撃する
『疾風』:追い風で接近しながら逆風で相手を吹き飛ばす速攻魔法 単純に追い風+逆風という考えでOK
『蜃気楼』:自分の幻を見せる魔法 空気を留め光の屈折を利用して位置をずらしている
『突風爪弾』:逆風で幻狐の爪を発射する魔法 使うには『幻狐の鋭い爪』が必要
『風の膜』:空気を留め攻撃を防ぐ防御魔法 大幻狐の攻撃を防ぐ時に無意識に編み出した
『神隠し』:背景と同化し自分の姿を隠す魔法 元々は蜃気楼が姿を隠す魔法として考案されたが完全に隠す事ができなかった つまり蜃気楼は神隠しの失敗作
体技・剣技
『魔剣術』:剣術に風魔法を組み込んだ上級剣術 ロクの中で一番攻撃性能が高い
『牛頭落とし』:強固な締め方で首を締め上げる柔術 とある女子生徒から見て学んだ 決まると強い
『縮地』:特殊な歩法で予備動作なく移動する ある人体模型…男子生徒の置き土産 よく使っている
『居合』:帯刀状態から一瞬で切る最速の剣 練度は低い ある男子生徒のように使うにはまだ修練が必要
『基礎剣術』:風魔法なしの素の剣術 ある男子生徒の置き土産のおかげで練度は大幅に向上しているが元が弱すぎたため常人より上手いレベル




