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56話 1対7

 パキパキと周りに冷気が発生する。ヒサメさんが戦闘態勢に入った証拠だ。代表戦ではこの冷気に散々苦しめられたけど、今は違う。迫ってくる冷気を空気の膜を(まと)って防ぐ。大幻狐やレッドの攻撃だけでなく、魔法も防いでくれて汎用性が高い。これはイリネスさんの見えない壁を参考にしてイメージしている。

 ヒサメさんの背後に拳大の氷の塊が無数に生成される。それを僕に対して一斉に発射してくる。

 全方位からの攻撃に避けることができず何発か掠ってしまうが、その程度なら膜を貫通することはないので無傷で回避できた。ヒサメさんにしては随分と威力が低めだな?

「これ避けられるの…凄いね。じゃあもっと強めでもいい…かな?」

「へ?」

 今度は、僕の顔と同じくらいの大きさの氷塊を同じように生成する。やっぱりまだ小手調べだったのか。飛んでくる氷塊はさっきと同じ速度、同じ数で襲いかかってくる……これ、物理的に避けられそうにないな!?両手を前に突き出して逆風を放つ。氷塊は速度を緩めるが完全に止めるまでにはいかなかった。けど、これで充分だ。速度が落ちた氷塊の隙間を掻い潜って包囲網から脱出する。それを見たヒサメさんはこの戦闘で初めて表情を変えた。目を丸くし、驚いているのか感嘆しているのか口を小さく開けていた…が、口角を上げ、楽しそうに笑った。

「すごい…!これも避けるの?こんなに面白そうな人初めて……?あれ?初めてだったっけ…?」

 !ヒサメさんの様子が変わった。どうやら本当に効果あったみたいだ。



「〜ヒサメさんは僕の事を忘れていたんだ。これって記憶喪失ってやつだよね?」

「そうかもな、会話は正常にできたか?」

「え?えーっと…うん、普通にできてたと思う」

「なら、記憶を部分的に失ったか消されただけだろう。肝心の戻す方法だが…頭を打てば治るだろ、アイツなら」

「そ、そんな乱暴な…」

 ウンスイくんちょっとセッキ族に毒されてないか?

「それか、思い出に残っている事を再現するとかどうですか?」

「まあ、それもアリだな。俺はヒサメとはろくな思い出がないがな」

「「あ…あはは……」」



 ヒサメさんとの思い出…やっぱり代表戦ぐらいしか無いよな。この調子で戦い続ければ思い出してくれるはずだけど…それじゃダメだ。

 ヒサメさんの様子を伺っているとこっちが見ていることに気付いたのか話しかけて来た。

「…どうして攻撃…しないの?」

「それを言うならヒサメさんも本気じゃないよね?本気じゃない人に勝ってもつまらないでしょ?」

「君の力はこんなものじゃなかったよ?それとも僕が君より強くなっちゃった…かな?」

「………そう…なら、遠慮しないよ?」

 空気が乾燥する。周りの水分が凍って、パラパラと氷の結晶が空気中に発生する。風の膜が無ければ今頃立っていることも出来なかったかもしれない。ヒサメさんの後ろには鋭い氷の刃が8本生成され、宙を舞っている。代表戦で見たのは2本までだったがこれ以上増やせたのか…これがヒサメさんの本気…!代表戦でも見れなかった全力が今僕の目の前でお披露目されている。

「大口叩いたからには、すぐやられないで…ね?」

「!!」

 4本の剣が一直線に向かってくる!さっきのツブテより速いぞ!?

『縮地』

 僕は反射的に縮地を使い、左に避けた。さっきまで僕がいたところには床に深々と刺さった剣があった。

 少しでも反応が遅れていたらやられていた……。

「…?何で笑っているの?」

「…え?」

 顔に手を触れると確かに口角が上がっていた。どうやら無意識のうちに笑っていたらしい。

「嬉しいから…かな?」

「…嬉しい?」

「ヒサメさんは覚えてないかも知れないけど、僕は君に一回負けているんだ。……その時は本気を出して貰えなかった」

「それが今、こんな形だけどもう一度戦うことになって、今度は本気の君と戦う事が出来ている……。僕は君に少しは追いつくことが出来たんだって実感できた……それが嬉しくて…楽しいんだと思う」

「……そう?……ごめん、よく覚えてない…でも……」

「私も今、楽しい…よ」

 床に刺さった剣がこっちに向き直り飛んで来る。追い風で逃げて距離を空けようとするが向こうのほうが若干速い。あともう少し先に……!ここだ!

『逆風!』

 追いつかれる直前に僕は剣に向かって全力の逆風を放つ。それは剣が反対に向き直って飛んでいくほどの威力だった。その先にいたのは剣を飛ばす張本人だ。

「そんな小細工は…効かない」

 飛んでいった3本の剣はヒサメさんの前でピタッと止まり、何事も無いかのように僕に狙いを定めようとした。

「…あれ?」

 ヒサメさんはキョロキョロと辺りを見渡している。

「消えた……?…待って、剣が」

「ここだよ?」

「!?」

『神隠し+居合』

 僕の攻撃はヒサメさんの鳩尾に綺麗に入った。流石に刃の方で切ると危険なので剣の腹で切った。それでも相当な打撃だけど。

「…っくは…!」

 ヒサメさんは苦しみながら氷の刃を飛ばしてくる。それを全て剣でいなして彼女に追撃をかける。

『疾風』

「うぅ…!!」

『ドン!!!』

 疾風に飛ばされて壁に激突するヒサメさん。自立していた氷の刃は操っていた糸が切れたかのように床に転がった。

「ゴメン、剣一本貰っちゃった」

「……気付くのが遅れた…。君、泥棒だった?」

 失礼な。相手の技を利用するのが得意なだけだし。

「……いいよ、それ…あげる。油断した私が…悪いから……それに」

 落ちていた剣がまたひとりでに浮かび上がる。

「ハンデとしてちょうどいい」

 2本の剣がヒサメさんの元に向かい、それを掴み取る。代表戦で見た二刀流だ。それだけじゃない。

『ガキンッ!!』

 後ろから5本の剣が襲いかかってくる。動きは単調だからいなすのは簡単だが……

「こっちも忘れないで」

「うっ!?」

 反対には僕の魔剣術と同等の速さと正確性のヒサメさんの二刀流。片方に集中するともう片方にやられる…!

「うおおおおおっ!!?」

『ガキキキキンッ!』

「1本対7本…捌ききれる?」

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