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49話 ひとり

「ロクって誰?」

「……えっ?」

 な、何を言っているんだ……?こんな時に冗談?いや、ヒサメさんは冗談を言うような人じゃない。何か作戦が?それとも……。

「ヒサメ、勝手に出てくるな。俺が許可してないだろ。早く戻れ」

「ん……ごめん、なんか、気になる気配がいて……つい」

 すごすごと奥に引き返していくヒサメさん。

「ちょ、ちょっと待って!ヒサメさ…」

「おい、新入り。誰が勝手に入っていいと言った?」

 ヒサメさんを追いかけようと扉の先に入ろうとした瞬間、奥から声がした。さっきも聞こえた声だ。しゃがれたお爺さんのような声。その声の主がこっちに歩いてくる。その姿に僕は驚きを隠せなかった。

「えっ!?」

 レッドが言っていた。僕とお頭は背格好が一緒だって。その言葉は間違っていなかった。僕と同じ身長、白いマント、白い鬼の仮面。あのしゃがれた声を除けば、僕の格好とピッタリ一致していた。

「ん?そのマント……お前が報告にあったヒョウゲツの子供か。何故そんな奴が新入りになっている?」

「俺達がスカウトしたんすわ!コイツは見込みがありますぜ。立派な戦隊の一員に育て上げて見せますよぉ!」

「ハッ!!己が受け継いだそのマントの意味も知らずに着ていたか。…どうやら今の当主様は後世の育成に失敗したらしい!とんだお笑い草だ!」

「どういう事ですか?」

「お前たちの代でヒョウゲツはセッキに敗北するという事だよ」

 どうやらこの人たちの目的はウンスイくんの予想通り、ヒョウゲツへの復讐で間違いないみたいだ。

「……60年前の復讐ですか?」

「なんだ、知っていたのか。……そうだ。まず、手始めにお前ら里長の子供達を見せしめにやるつもりだったが……気が変わったんだ」

「気が変わった?」

「ああ、そうだ。お前に確認したいことがあったが、それももう確認できた」

「一体何……」

 聞き返そうとしたその時、後ろからすごい力で肩を引っ張られた。な、なんだ?肩を見ると、レッドの手があった。痺れを切らして僕を無理やり引き離したのだ。

「もう挨拶は充分だろう?お前にはやるべき事がまだあるからそろそろ行くぞ」

 まだ聞きたい事があるけど下手に刺激するとレッドの蛮族の血が騒ぎ始めそうなので大人しく引き下がることにした。このまま帰ろうとした時、

「……やはり……は現れなかったか」

 お頭が小さな声で何か呟いて部屋の奥へと消えていった。



 レッドに連れて行かれ、アジトの案内が終わった後、お頭がみんなを集めた。セッキ族の人数は50人ほどとそれほど多くはなかった。皆仮面を被っているが体つきから男しかいない事がわかった。普段はこういった集まりはないらしく、僕は嫌な予感を感じていた。

「今日はある事を伝えるためにこうして集まってもらった。話は60年前に遡るが、お前らには難しい話だろうから本題だけ伝える。伝えたい事とは……明日、ヒョウゲツの里長を殺す。人質を使って命と引き換えに取引するつもりだ。もし、応じなかった場合は」

 ……血の気が引き、全身の力が抜けていくのが分かる。

「人質を殺す」

 そこから先はよく覚えていない。セッキ族の歓声が耳に残っているくらいだ。

 夜になり、部屋に案内された。意外にも部屋は個室で毛皮の布団が用意されていた。使っていない部屋が多いらしく、ここもその一つだという。ベッドに入り、目をつむるが眠れるはずが無い。牢屋にも行こうとしたが扉が開かない。セッキ族みたいに扉に声をかけてみたが、うんともすんともしない。実質、僕も牢屋にいるようなものだった。

 どうしようもない無力感に襲われ、部屋に置いてある大きなカバンの前に座り込む。僕のカバンだ。あの時、一応持ってきていた。中を開くと一番上には制服が入っていた。レイント学園。入学して大変な事もあったが、色んな事を体験して、沢山の発見があって、僕にとっては冒険のような日々だった。……もう学園に帰れないのかな?

「……戻りたいな…」

 その言葉を発した時、自分の目から涙が溢れ出した。我慢していた思いが限界を迎えた。

「うっ……ひっく、ひっく、うっ…く…!!」

 必死に泣き声を抑えても喉の奥から悲しみが溢れてきて止まらない。学園のみんなに会いたい。お父さんお母さんに会いたい…。

 明日には戦いが始まる。もう僕には止められる時間も知恵も残っていない。どうしてこんなにも無力なんだ……。頼みの綱だったヒサメさんも何故かお頭に従っていて助けを求めれそうにない。たったひとりの絶望的な状況にただ泣くことしかできなかった。

 涙やら鼻水やらで顔がグシャグシャになったので持っていた制服で顔を拭うと、隙間から一枚の紙が落ちた。

 紙を拾い上げるとそれはひどい文字でたった一言、

『か め ん』



 書かれていたのはたったこれだけだった。誰が書いたかとかなぜ制服の中に入っていたのかとか、気になる事はあったけど今においてはそれは些細な事だった。問題は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()。妙にそれだけが気になった。

 仮面?仮面って……これのことだよな?僕は枕元に置いている白い仮面を手に取る。誰かのイタズラかと思ったけど、制服の中に入れる理由が分からない。見つからなかったらイタズラする意味がないし。もしこれが意図的に隠したものなら……。

 僕は仮面をくまなく観察してみた。触ったり、角や鼻先を押したり、被ったりしたが、特に変わった事はない。

「う~ん…かめんってこれのことじゃないのか?」

 最後の希望も虚しく徒労に終わってしまい、ガッカリしながら仮面をベッドに投げる。

『カッ、カコン』

 投げた仮面がベッドの支柱に当たり、床に落ちる。いちいち取りに行くのも面倒なので風を起こし宙に浮かせようとしたが…仮面に風が当たる瞬間、掻き消えた。

「えっ?」

 不可解な現象に急いで仮面に駆け寄り拾い上げる。もしかして……

 もう一度仮面に風魔法を放つ。今度は至近距離で。すると仮面に当たる直前に風の勢いが消え、霧散していく。

「こ、これは!?」

 どうしてウンスイくんの氷魔法が効かなかったのか。どうして僕の突風が掻き消されたのか。その答えをこの仮面が示してくれた。

「魔法を消す仮面……!」

 絶望的な状況に小さな光が差し込んできた。

竜王と邪神と大魔王倒して世界救っていたら投稿遅くなりました。


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