4話 風の勇者
午後から授業に参加するためにクラスに戻ってきた。隣の席の子に授業の内容を聞こうと勇気を持って話かけたら、隙間から出てきた虫を発見したような顔で、
「うぇ!?いつの間にいたの!?」
と驚かれた。そんなことある?普通にいたけど。
午後の授業の授業が始まる時に、コーラ先生から
「大丈夫か?あの時のことについて聞きたいことがあるから放課後残れるか?」
と言われたので、
「大丈夫です」
と体調と了承の2つの意味を込めて返しておいた。
「皆、今日は初めての授業で疲れたと思うから、早めに休めよ〜。以上、さようなら」
「「「さようなら!!」」」
帰りのHRが終わって、コーラ先生が僕に近づいてきた。
「ごめんな、一番疲れてると思うけど、先生あの時ちゃんと見ていなくてな。状況把握のために教えてくれないか?」
あの時というと、魔法実習の時だろう。でも僕も気づいたらベッドの上だったので説明できることなんて特に無いんだけど。
「えっ……と、あの時は、絵本に出てきた魔法をイメージしたら、急に背中から飛ばされて……」
「絵本?なんていう本だ?」
「あの…、『風の勇者』って名前です」
「ああ!あれか!先生も見たことあるな〜。確か盗賊に攫われた姫を救う話だったよな?」
知ってた!よかった〜。絵本の内容あんまり覚えてなかったから助かった。
「はい!『追い風』っていう勇者が使ってた技をイメージしたらああなっちゃって」
「なるほどなぁ、風魔法を暴発させたのが原因か。でも、初めてでそれほどの魔法を使うのはすごいな!初めてなら手元に発生させるのでも苦労するんだけどな」
すごいと言われて顔がニヤけてしまう。人に賞賛されるのなんて両親以外だと初めてだからむず痒かった。
「まあ、今度からは魔法を加減することを覚えないとな。使う度に吹っ飛んでたらトラウマで使えなくなる可能性もあるからな」
「うっ……」
よく考えたらそうだ。途端に魔法を使うのが怖くなってきた。逆に言わないで欲しかった……。どうしよう。あの絵本も詳しく覚えてないし……だったら、
「ありがとな、今日はゆっくり休んで明日も頑張ろうな」
「あ、はい。……えーっと、先生聞きたいことがあるんですけど、この学園に絵本がある場所はありますか?」
「図書室か?絵本が置いてあるかは分からんが……とりあえず行ってみるか」
「え?一緒にですか?」
「ああ!まだ学園内は慣れてないだろう?それに、ロクは午前中の施設案内も参加できなかったからな」
午前は施設案内していたのか。結局隣の子には聞けなかったからな。
「ありがとうございます!」
「うん、それじゃ行こうか」
先生すごく良い人だ。なんだかお兄ちゃんができたみたいだな。
図書室に向かうと、コーラ先生が職員会議があるため、他の教師さんに引っ張られていった。しばらく探していると絵本コーナーと書かれた場所を見つけた。そこには、五十音順に整頓された絵本があった。綺麗に並べられていることから誰一人として借りている様子は無い。まあ、当然っちゃ当然か。
風の勇者は簡単に見つけられることができた。幼い頃に読み聞かせされたこの本をまた読み始めた。
『風の勇者
森の奥深くの小さな小屋に狩人が暮らしていました。狩人は風の力を使って狩りをしていました。
ある日、狩人はいつものように狩りをするために森を歩いていると、お爺さんが倒れていたのです。
狩人はお爺さんを助け、何があったのか話を聞きました。
「わしの娘が攫われてしまったのじゃ。どうか、どうかわしの娘を助けてくれ!」
最近住み始めた盗賊団に攫われたのだろうと狩人は考え、娘を助けに出発しました。
狩人は風を操り、ある時は追い風を起こして目にも止まらぬ速さで盗賊を倒し、
またある時は逆風を起こして吹き飛ばしてしまいました。
そうして盗賊団の根城に辿り着くことができた狩人は、風の力で姿を消し、
無事に娘の元に辿り着くことができました。
ですが、娘がいなくなったことを知った盗賊の親分が怒り狂い、
なんと巨大な蜘蛛へと変身してしまいました。
狩人は森を守るために蜘蛛に立ち向かって行きますが、追い風を使っても素早く追いつかれ、
逆風を使っても蜘蛛の糸で吹き飛ばすことはできなかったのです。
とうとう追い詰められてしまった狩人は蜘蛛に捕まってしまいました。もうダメだ。そう思った時、
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蜘蛛を倒した狩人は娘をお爺さんのところに送り届けました。
「助けてくれてありがとうございます。貴方は私の勇者様です。どうかこの私と結婚してください」
「なんと!娘が結婚するとはめでたいのう。結婚式はわしの国で行おう!」
狩人が助けたのはある国の王と姫だったのです。
狩人はその功績から皆に風の勇者と呼ばれ幸せに暮らしましたとさ』
ん?何かおかしいぞ?勇者が蜘蛛を倒した所が無い?絵本をよく見るとページが破られている跡があった。そんな、一番良いとこだったのに。誰がこんな酷いことを。思い出そうにも、読み聞かせの時の記憶は朧げで、どうやって倒したかどうしても思い出せない。
しばらく考え込んでいたら、チャイムの音が聞こえてきた。時計を見ると、18時を指していた。
そろそろ帰らないと、僕は絵本を元の位置に戻して、足早に寮へと戻っていった。