46話 悲劇の再来
馬車に揺られながらぼんやりと空を眺める。青い空、白い雲…白い…白い肌。
『バシッ!!』
咄嗟に頬をはたく。あ、危ない…。
あの後ウンスイくんから事情を聞いたら、脱衣所で僕が倒れてたらしい。他に誰か居たか聞いたけど誰も居なかったと言われた。ヒサメさんとは今日はまだ口を聞いていない。というか、気まずくて喋りかけれない。そんな状態が続きながら険しい山道を進んでいる。……こんな時はもう寝てしまおう。馬車の心地よい揺れに身を任せながら、僕は目を閉じる。
『ドーーンッ!!』
!?な、なんだ!?何が起こって……。うわ!!
馬車が激しく揺れ、やがて宙に浮かぶ。この感覚は間違いなく落ちている…!状況を見るために何とか窓を覗いたが、真っ白で分からない。
「何が起きてるの!?」
ウンスイくんに状況を確認しようとしたが、
「ば……つ、な…れ、、……」
ダメだ。周りの轟音で聞こえない。その時、
凄まじい衝撃と共に馬車が破壊され、全員外に放り投げ出される。不味い、皆を助けないと!!そう思ったのも束の間、上から大量の雪が降ってくる。というか落ちてくる。これ、雪崩ってやつ…?僕らはそのまま雪崩に巻き込まれた。
『ロク…起きろ……危険だ』
……。
…………。
………………っは!?
辺りを見渡す。僕の他には馬車だったものの残骸があるだけだった。さっき誰かが危険を教えてくれた気がするけど…?あの声……リュウタン?
「おいおい、生きてるじゃねぇか。あの雪崩の中で生き残ったのか?とんだ幸運だな」
「まあ、それならそれで俺たちに殺されるだけだけどな」
ギャハハと下品な笑い声で近づいてくる鬼の仮面を付けた二人組。一人は大柄の男で、もう一人は太っちょの男だ。
雪崩の事とか殺すとか物騒なことを言っているということは、こうなったのは偶然じゃないってことだ。
「こいつでいいのか?」
「ああ、お頭は『白マントの子供は確実にやれ』って言ってたからな。こいつで間違いない」
お頭?どうして僕を殺そうとしているんだ?分からないことが多すぎる。
「お前たち誰なんだ?どうして僕らを襲ったんだ?」
「さあ?そいつは知らんな。そして知る必要もねえ。……何故ならテメェはここで死ぬからな!!」
そう言うと同時に手に持っていた金棒を振りかぶり、襲いかかってくる二人。
こっちは知りたいことも確認したいことも沢山ある。こんなところで時間をかけている場合じゃない。
落ちていた馬車の残骸から手頃なものを拾い、向かってくる二人のあごに鋭い一太刀を浴びせる。
『居合抜刀』
「ゲバッ!?」
「ウゴッ!?」
二人は珍妙な声をあげてその場で倒れる。ふう…仮面で狙いづらかったけど、上手くいった。みんなが無事か気になるが、とりあえずこの状況はなんなのか整理したい。
突然の爆音、落ちる馬車、雪崩……そして、鬼の仮面の男たち。これらを組み合わせて考えてると、鬼の仮面のお頭が僕らを殺すために意図的に雪崩を起こしたということか?…うーん。どうして僕らを狙うのか全く分からない。現状では答えを出すのは難しそうだ。
「うっ……」
微かなうめき声が聞こえる。仮面の男たちとは別の方向から聞こえてきた。
「誰かいるの?いるなら返事して!」
辺りを見渡してもあるのは雪と残骸だけ…何か確かめる方法は…っあ、そうだ!
僕は集中してもう一度辺りを見る。今度は魔力を探知して探す。……あそこだ!感じ取った場所の真下の雪を掘って行くと、人の背中が見えてきた。
「御者さん!大丈夫ですか!?」
埋まっていた御者さんの体を揺らし、意識を取り戻させる。息は?心臓の音は?…大丈夫ある。怪我も奇跡的になさそうだ。
「……っ?ここは?」
少しして御者さんの意識が戻ったので、僕が分かる範囲で今の状況を伝えた。
「…そうですか……この者達のお頭がそんなことを…」
「はい、なぜ僕たちが狙われたのか分かることありますか?」
「うーん。私も詳しいわけではないのですが…この山には元々ヒョウゲツの里に住む方以外にもとある部族がいたそうなんです。確か…『セッキ族』といったような…」
セッキ族…。
「セッキ族の特徴は鬼の仮面と言われているので間違い無いでしょうね。昔、ヒョウゲツの者たちと争い、滅んだと言われていましたが、まさか生き残りがいたなんて」
「つまり、僕らがヒョウゲツの里の者だと思って復讐に来た…ってことですか?」
「多分、そう言う事だと思います」
それなら襲われる理由も理解できる。だけど、
「それなら、どうして僕だけは確実に殺せなんて命令があるんだ…?」
「それは……すみません、私にも分かりません。ただ、ウンスイ様とヒサメ様は里長のご子息なのでロクくんもご子息と間違えられたのでは?」
今、サラッとすごい情報があったけどそれはまた今度聞くとして。
「御者さん、あの石ならウンスイくんの居場所分かりますよね?」
「…!あの魔道具ですね、それなら探し出せそうです。少々お待ちを」
御者さんはポケットから石を取り出すと少し静止する。そして、
「ここから、北に進んだ先にいますね。早く合流しましょう」
「はい!」
「この辺りに反応がありました。探してみましょう」
「正確な位置は分からないんですか?」
「そうですね。位置はぼんやりと感じることができるだけでそこまで正確ではないのです…」
周りは木々しかないこの場所にウンスイくんがいるという。本当に近くなら僕の探知で探すことができる。
「……いた!この下です!」
「え?なぜ分かるのですか?」
「魔力感知で分かるんです。それより、早く掘り出さないと」
御者さんが疑問な顔のまま雪かきに参加する。そんなにおかしいこと言ったか?
僕が埋まるほどの穴になるまで掘り進めた時、雪がモゾっと少しだけ動いた。ああ!生きてる!!急いで掘り進めるととウンスイくんが雪の中から飛び出した。
「ぷはっ!!はあ…はあ……ふーー…」
「ウンスイくん!!良かった無事で!」
「ロクとハコビか…助かった。もう少しで窒息するところだった」
「ウンスイ様、よくご無事で。しかし、我々が到着するまでの時間、どのように呼吸を確保していたのですか?30分も息を止めていられるはずはないですが…?」
「ああ、それはコイツのおかげだ」
ウンスイくんの下に何かが埋まっていた。これは…僕の荷物だ!
「このバッグをタンク替わりにして中にある空気で生きながらえたのだ。それでもギリギリだったが」
「流石の機転力ですね。感服いたします」
「まあ、それはいい。今の状況を説明してくれ」
御者さんはウンスイくんに今の状況を説明した。
「なるほどな、大体は理解した。セッキ族に襲われるのも俺たちへの復讐でほぼ間違い無いだろう。だが、お頭の言っていたという白マント…つまりロクが狙われる理由は分からん。…お前また何かしたのか?」
「いや、知らないよ!?鬼の仮面の人なんて初めて見たし」
……というか『また』って何だよ!ウンスイくんの中で僕はトラブルメーカーなのか!?
「まあ、半分冗談だ。ともかく、相手がセッキ族となるとヒサメはある意味危険かもな。急いで探した方がいいだろう」
「えっ?どうして?あのヒサメさんが危険になるとは思えないけど」
「セッキ族が滅びた理由知らんのか?ハコビ、教えなかったのか?」
「いえ…お恥ずかしいですが私が生まれる前の事ですので詳細は把握しておらず…。申し訳ございません」
「……それもそうか。なら今教えてやる。セッキ族が滅びた理由、それは……」
…それは?
「女不足だ」
「あーあ、せっかくの女だって言うのにあんなガキじゃな〜」
「まあ、仕方ないだろ。顔は良かったしそれも今後に期待って事で」
「けどよ?そのガキ、お頭の部屋に連れて行かれたのを俺の同僚が見たって言ってたぞ?」
「は?まじか?お頭が部屋に連れ込むってことは『アレ』か、終わったな」
「ほんともったいねーよな…。お頭に気に入られた奴は絶対手を出せなくなるしな」
「今頃楽しくやってんのかな?俺は理解できないけど」
『お頭の部屋』
「ロク…ウンスイ…誰か……早く来て…」
起きたら、服を脱がされて、ベッドに寝かされていた。……そして今、
「早く逃げないとアイツの『玩具』にされる……」
〜ウンスイを掘り出す間〜
「ロクくん、先ほどの『魔力感知』とは私が持つ魔道具より高性能なものをお持ちなんですか?」
「??いえ、普通に魔力を感知するんです。こう、気配を探るような感じで」
「???…魔法ですか?」
「いや、違います。僕風魔法しか使えないので」
「えっ?」
(魔力を感知するなんて技術…聞いた事ないですね。今の学園の教育ではそんな事も習うのでしょうか?今やそんなに高度な内容になっているとは…)
「そうでしたか。それは、大変だと思いますが頑張ってくださいね」
「えっ?」
(風魔法ってやっぱり他の人から見れば弱いのか?そんな憐れむような顔されるなんて……ちょっとショックだ…)
「あ、ありがとうございます……うう」
「!?」
(やはり、学園の教育が泣くほど大変なのだろう…。可哀想に…)
「大丈夫ですよ、たとえついて行けなくても恥じる事ではありません。皆理解してくれます」
「うう〜…!!」
意図せず傷に塩を塗り込まれるロクであった。




