45話 ヒョウガ地方〜幸運を掴み取りし者〜
翌日、ウンスイくんたちの故郷に行くために朝から荷物をまとめていた。1週間は滞在する予定なのでその後、そのまま学園に帰るつもりだ。そのため、この家とはまたしばらくお別れになる。少しだけ寂しくなるな。
ウンスイくんたちが乗ってきた馬車に乗り込む前、お父さんとお母さんが見送りにきた。
「ロク、お友達の家で迷惑かけないようにね。はいこれ、持っていって」
手渡されたのは白茶色の毛皮の上着だった。元々は白かったのだろうが古着なのか色褪せている。しかもなんかマントも付いてる。
「ヒョウガ地方は寒いから上着ないと凍えちゃうわよ?」
「分かったけど…このマント何?」
「それ?さあ?元から付いてたの。お父さんの趣味じゃない?」
「いやいや!それ最初から付いてたんだよ。親父が子供の頃ヒョウガ地方で貰ったとかで…。だから決して俺の趣味じゃない!」
「はいはい、そう言うことにしておきましょ」
「だから違うって!…いや、こんなくだらない事で揉めている場合じゃなかったな。ロク、次会う時は半年後の冬休みだな。お父さんも仕事頑張るからお前も勉強頑張れよ!」
「うん、頑張るよ」
「ロク、勉強もそうだけど、お友達と仲良くね!…あとこれも…!」
そう言ってお母さんは小指を突き立てニンマリ笑う。
「はあ…分かったよ。仲良くする」
やれやれこの人は。呆れながら返事をした。
「そろそろ出発いたします」
御者さんが出発を促してきたので、僕は馬車に乗り込んだ。
馬車が出発して、見送りが見えなくなるまで進んだところでウンスイくんにヒョウゲツの里について聞いてみた。
「ヒョウガ地方の高山にある集落だ。一応、馬車で移動できるように通路はある…が、この前も言ったが過酷な環境のため、寒さに特別強い『雪冬馬』でないと移動することはできん」
「集落とは言ったがヒョウガ地方で1番栄えている。王都程ではないがな。後は…割と排他的だな」
「排他的?」
「簡単に言えば、余所者に厳しいってことだな」
「えっ…」
じゃあ僕行ったらいけないのでは?頭の中で排他的な集落を想像する。
排他的おばさん「ああ、いやだわ…余所者臭い。早く出ていってくれないかしら」
排他的おじさん「…チッ。余所者臭えんだよ。早くどっか行け」
排他的犬「ワワン、ワンワン、ワン(失礼ですが、貴方のその悪辣な匂いに不快感を覚えますので、早急に視界から消えていただきたく存じます。この敷地内に二度と足を踏み入れることのないよう、お願い申し上げます、クソガキ。)」
……考えただけで恐ろしいところだ。
外を眺めると、夏なのになんと雪が降ってきた。一面真っ白で馬車の中も涼しくなってきた。どうやらヒョウガ地方に入ったみたいだ。
「今日はフロンの町で一泊して、明日に向かおう」
「かしこまりました」
ウンスイくんが御者さんに指示してフロンという町に一泊することになった。
「あれ?もう着いた……?」
さっきまでスヤスヤ寝ていたヒサメさんが目を覚ます。
「まだだ。今日はフロンに泊まる。せっかくヒョウガに来たんだ、ロクに観光でもさせようと思ってな」
「そう…わかった」
「そんな…僕に気を遣わなくていいよ」
初めての町も気になるけど、わざわざ僕のために遅らせるのも申し訳ない。
「まあ、気を遣ったのもあるが、ここから俺たちの里への道のりが過酷だから馬を休ませる為でもある。そのついでだから気にするな」
「そ、そう?ならいいけど…」
そういうわけでヒョウガ地方の初観光ができるようになった。
またしばらく雪道を進んだところで、馬車が停車する。窓を眺めると王都の建物にも負けないドッシリと重厚感がある要塞のような岩壁が並んでいた。
「ここがフロンの町だ。俺たちの里の麓にある町だな。温泉街としても有名だ」
「へー温泉!入ってみたいなー!」
入ったことはないが、話ではお風呂よりも癒されるって聞いた事がある。ずっと座りっぱなしで身体も痛いしちょうど良さそうだ!
「着きましたよ、足元滑りますのでお気をつけてお降りください」
御者さんが扉を開けると肌に刺さるような冷気が馬車内に入り込む。もう夏とは思えないほどの寒さだ。上着をもらっておいて本当に良かった。
「うわぁ……!すごい!」
周りには至る所に温泉の看板がかかっており、その近くに『フロンまんじゅう』と書かれたこの町名産であろうお菓子が売られている。観光客も賑わっていてちょっとしたお祭りだ。
「私は宿をとって参りますので皆さんは観光を楽しんでいてください。集合はこれで……」
「ああ、悪いな。頼む」
そう言って御者さんはウンスイくんに何かを渡して去っていった。ただの鉄塊のような物だけど……なんだろ?
「それ何?」
「これは、魔道具だ。2つで対になっていて、相手が持っているもう一つの位置を知らせてくれるものだ」
「す、すご……」
「こういった集合用や再会を約束した相手なんかに送る物ではあるな。ただ……」
「ただ?」
「ものすごく高い」
「へ?」
「そもそも滅多に手に入らないから定価というものがない。言い値で取引されることがほとんどだが最低でも王都で10年は余裕で遊んで暮らせるらしい」
「ヒエ……」
こんなその辺に捨てられてそうな鉄の塊にとんでもない額がかかっているなんて……。ちょっと欲しかったけど一生手に入らなそうだ。……ワンチャンどっかに落ちてないかな?
「それより……ロク……観光しよ?」
ヒサメさんに急かされてハッと我にかえる。そうだ今は観光を楽しもう。
「うん、そうだね。フロンまんじゅうっていうのも気になるし、行こう行こう!」
そこから土産屋に行ってたくさん欲しいものを見て回った。『封印された名刀・鷺丸』とか、『飲むと誰でも身長2m!デッカデッカロン』とか興味がそそられるものがあったんだけど、全部ウンスイくんに止められた。
「フロンまんじゅうって中にシャーベットミルクが入ってるから、外があったかくて中がひんやりしてて面白いね。しかも美味しいし」
「もっと美味しい食べ方ある…よ」
「へー流石現地の人は違うな〜。どんな食べ方?」
「ちょっと貸して」
ヒサメさんは僕のまんじゅうを手に取ると、冷気を発生させ、まんじゅうを凍らせた。
「はい…これ」
「………うん、ありがとう」
本当に美味しいのかな?手触りはカッチカチなんだけど。意を決して口に放り込むと、
「お、美味しい…!」
食感がカリカリとして冷凍されたまんじゅうの黒糖成分が口内の熱で溶けてさらに甘みを感じる。本当に美味しい。
「ヒサメさんこれ、すごく美味しい!ありがとう、教えてくれて」
「……うん」
相変わらず表情は変わらなかったけど少しだけ嬉しそうな気がした。
「皆さん、宿の方無事に取れましたが…いかが致しましょう?」
「ふむ…そうだな……いい時間だし、行こうか。ヒサメ、ロクそろそろ宿に行くぞ」
ウンスイくんに呼ばれ、僕たちは宿屋に向かった。見た目は一般的な宿屋だったが、秘湯と呼ばれる特別な温泉があるらしく、本来は予約殺到して入れないんだけど、今日は突然キャンセルが入って、その時間にちょうど御者さんがきて予約できたらしい。秘湯!なんでも入った者は幸運が訪れるらしい…!一体どんな効果があるんだろう……!早く入りたい!
夕食を食べた後、秘湯の予約時間になり、早速入ろうとウンスイくんを誘う。
「ねえ、ウンスイくん秘湯行かない?」
「ああ、わかった。ちょっと先に行っててくれ。すぐ行く」
「うん、わかった!」
鼻唄を歌い、スキップしながら秘湯ののれんが掛かっている場所に向かった。脱衣所で服を脱ぎ、入口を開けると温泉の湯気で全く前が見えない。この雰囲気も秘湯感がして期待が膨らむな…!だけど、
「さ、寒すぎ……」
露天風呂だからヒョウガ地方の冷え切った外気が僕に襲いかかる。早く温泉に入ろう……!
湯気で見えない温泉を震えながら探す。………あ、あった……!
急いで温泉に浸かると体の芯まで温かさが染み渡る。
「ぅあ〜生き返る〜!」
「えっ…」
「え?」
声がした方を振り返るとそこにはヒサメさんが温泉に浸かっていた。
「うぉあ!!ごめん!!」
反射的に目を逸らし、温泉を出ようと縁に足をかけた時、足を滑らせて温泉にダイブしてしまった。
「ぷはぁっ!……ぁ」
透き通るような白い肌、柔らかな曲線がタオルの隙間から覗かせる。最後に見た彼女の顔は温泉でのぼせたのかほんのり紅色に染まっていた……………………………………。
そこから先の記憶は覚えていない。気がついたら布団で朝を迎えていた。
このラッキーすけべめ!




