40話 降霊の副作用
「そ…そんな、我が……負けるなん…て、有り得ぬ…!お、お前らに…て……手を出すべきでは…なかった…………」
しばらく攻撃を続けていると、大幻狐たちが煙となって消えていった。
終わった……のか?
『ああ、終わった…ついに……奴との因縁が……。ありがとうロク、お主がいてくれて良かった……!』
や、やった……!勝った…!誰も死ななかったのは奇跡だ。こっちこそ、ありがとう人体模型さん…。あっ、そう言えば気になっていたんだけど、人体模型さんってもしかしてあの時大幻狐が化けた内の男の子だったりする?僕より少し大きくて、髪を後ろに結んでる…。
『ふむ……それだけでは断定することはできんが身体的特徴は一致しておる。他に何かないのか?』
一番引っ掛かったのは相手に一瞬で接近する動きと、太刀筋が似ていたって事なんだよね。こう……剣を薙ぎ払うような……。
『縮地と居合か…。確かにそれならばワシかもしれんな…。そうか……ワシと相見えたか……。どうだった?ワシは強かったか?』
え?それは……どうだろう?確かに強かったけど、本物の方がずっと速かったし、何倍も強かったと思う。
『……ハハハッ、そりゃそうだろう!アレらは一朝一夕で身につくものでもない。何度も努力を重ねてやっと身につくものだ』
魂での会話だから顔は見えないけど嬉しそうな雰囲気は伝わってきた。
『………ロク。お主の身体のことだが……』
……そうだ、すっかり忘れていたけど、この降霊魔法にはデメリットがあった。魂の融合。
『ヒビ割れた魂の隙間にもうワシの魂が一部融合してしまっている。早く取り除いてもらわなければ、手遅れになるぞ』
……それは、不味い。早くイリネスさんの元へ行かなければ!
身体の主導権はいつの間にか僕に戻っており、すっかり明るくなった辺りを見渡す。こちらに向かってくるイリネスさんたちを見つけ、身体を動かすが、
「いっ!!つつ……!」
瀕死の時よりはマシだったけどそれでも全身に痛みが走る。降霊した時、完全に治った訳ではなかったんだ…。この状態で動き回っていた人体模型さんは鋼の精神力だ。
「ロク?でいいのよね?アンタ大丈夫?」
「うむ、何とかな…。でも、身体中痛いや…」
「…?アンタそんな喋り方だっけ?」
「!!ロクくん、急いで降霊を解除しないと…!どんどん影響を受けています…危険です!」
「……!う、うむ、すまん、頼む!」
「ちょっ!?これもう大分イカれてない!?元に戻るの!!?」
3人でアワアワしながら除霊の準備を始めた。
「…………」
イリネスさんが僕の肩に触れ、僕とワシを切り離そうと集中している。……あれ?今はどっちが話している?僕か?ワシか?それとも……誰でもないのか?…そもそも、ワシはロクではないはず……だ。じゃあ僕は?……誰だったっけ?え〜っと……リュウタン?う〜む、なんかしっくりこない。……一体僕は誰なんだ?
「……っ、そんな……間に合わなかった……?」
「は?どういうこと?私まだよくわかってないんだけど?」
「生身の降霊には副作用があるんです。それは…魂が混ざり合って別の魂となってしまうというもの……つまり、人格が変わってしまうということです…」
「嘘でしょ??じゃあ、ロクは?」
「ロクくんはもう…元には戻れない……」
う〜む、何かおかしい。何かがおかしいのだが、それがわからない。僕の他にもう1人いたような気がしたんだが……。
その時、頭の中に誰かの記憶が入り込んでくる。
藁人形に向かって剣を振る姿。友達が行方不明になり、夜の学校に忍び込む姿。……最期に友に殺される姿…。
ああ…、これは……僕の記憶か。僕は友に化けた狐に喰われたのだ。その未練からか、僕は現世にしがみつこうと依代を探し、あの人体模型に取り憑いた。皆、仇は討ったぞ…。
『違うよ…』
…え?
『これは……君の記憶じゃない』
……誰だ?お主?いや、お主たち。
『ありがとう、これでやっと解放されたよ……』
!まさか、あの時の謎の声の主か!?『助けが来る』と言っていた…
『そうだよ…思い出してくれて嬉しいよ…ロク』
ロク?なんだか妙に懐かしい。誰の名だったか…?
『思い出して…君の名前はロク、私たちを…リュウタンを救ってくれた勇敢な人』
………そうだ、僕はロクだ。そして、
『ワシはリュウタン…思い出したぞ』
『リュウタン、私たちのような犠牲者を出さない為、それと仇を討つ為に今までずっと1人で頑張ってくれてありがとう…』
『お主ら…そうか……。なに、礼には及ばん。それに、ロクたちがおらんかったらワシは負けていた。ありがとう、ロク』
倒したのは、ベニエさんとイリネスさんだけどね。…でも、良かったよ。これで、七不思議の呪縛は終わるんだね。
『ああ、これでお別れだ…最後にあの気の強い女子に言っておいてくれ。ジンタという名をくれてありがとうとな。少しだけ気に入ったぞ』
そ、そうなんだ…。うん、わかった伝えとくよ!
『…そろそろ、行きましょう』
『うむ、そうだな。あ!そうだ!ロクよ、最後にワシから少しだけ土産を置いておく。存分に役立ててくれ!では、さらば!』
姿は見えないけれど、僕は天に向かって手を振った。
身体から何かが抜けていくような感覚がする。
今までの疲労、脱力感が一気に襲いかかる。身体が重い。けれど、人体模型さんの…リュウタンとの思い出と記憶だけはハッキリと刻まれたままだった。…ありがとう、リュウタン。
2人が落胆しているので戻ったことを伝えようと声をかける。
「2人とも、ただいま。僕、無事に戻れたみたい」
2人は目を丸くして僕を見つめると、すぐに泣いてしまった。
「心配させないでよ!!うう〜っ…バカ〜!」
「ヒクッ、ごめんなさいぃ!……本当にごめ、ごめんなさいぃ〜!」
僕も今になって緊張の糸が切れたのか皆が生きていることに嬉しくて涙が出てきた。本当に良かった…皆死なないで…!
こうして長かった肝試しの一夜が終わった。
〜学園に帰る途中〜
「あ、そうだった!ベニエさん。リュウ…じゃなくてジンタから伝言を預かっていたんだ」
「ジンタから?なんて?」
「『新しい名前をくれてありがとう』だって。気に入ったみたいだったよ?」
「ふーん、やっぱアイツ本当に似てるわね」
「似てるって…誰にですか?」
「家で飼ってる犬。『ジンタ』っていって私にすっごく付きまとってくるの。アイツも私に付きまとってきて、なんだかウチの犬と重なっちゃったのよねー」
「えっ…?じ、じゃあ、ジンタって……」
「そ、犬の名前からとったの。人体模型でダブルミーニングにもなるし、いいかなって」
「あ…そ、そうなんだ……」
リュウタン。君、犬の名前付けられてたよ。
この場に居なくて良かったと思うロクであった。




