38話 降霊魔法
「どうなっているの……?」
ロク?が剣技だけで2匹を抑えつけている。いや、あれはロクじゃない。あの動き……
「ジンタ?」
「そうです、ベニエちゃん。ロクくんの身体の中には今、人体模型にいた…ある生徒の魂が宿っています」
後ろからイリネスが声をかける。ジンタがロクの中に……?
「どういうこと?なんでロクの中に入っているの?」
「……」
「…?何よ、知ってるんでしょ?何で黙っているの?」
「……ベニエちゃん。今はそれより、『本体』を探す方が優先……ですよね?」
「!!なんだ…イリネスも気づいたのね。なら話は早いわ。色々気になることはあるけど……終わった後、聞かせてもらうわ」
「……はい」
時は少し遡り………
「私を信じて死んでください」
「……え?」
「実は私……『降霊魔法』という生まれつきの特殊な魔法を使えるのです」
「降霊?霊魔法じゃなくて?」
「霊魔法というのはあくまで自身の霊的エネルギーを操ることができる者のことを言います。降霊魔法は自分だけでなく、降霊したモノの霊的エネルギーも操ることができる者…らしいです」
「単純に霊魔法の上位互換のようなもの…でいいの?」
「その認識で大丈夫です。降霊した者の能力も操ることもできるのが、降霊魔法です」
「うん……それで、さっきの言葉の意味は……?どういうことなの?」
「あの……ロクくんには降霊魔法の器になって欲しいのです」
「器?」
「はい……本来、器にするのは空の入れ物…つまり、人形や……し、死体…とかを器とするのですが……」
イリネスさんが言い淀む。言いづらいのだろう、要は僕に死体となってくれって言っているのだから。
「……ごくまれに、生きている者を器に降霊することがあります……私もその一人です」
「そ、そうだったんだ……今も?」
「はい……私の姉です。私の守る力は姉の力を使っていました」
あの見えない壁か……大分強力な能力だったけどそういうことだったのか。ん?姉?
「お姉さん亡くなってるの?」
「……はい。でも、その話は後でお話します……続けますね。生きている者に降霊魔法を使うことはできません。その肉体の持ち主である魂が拒んでしまうからです」
「ですが、死にとても近い状態、瀕死状態の身体であれば、すり減った魂の隙間に別の魂を込めることができます」
「今の僕の状態がその条件に当てはまっている……ってことか」
「そうです……。ですが、問題点があって…」
「問題点?」
「一つの身体に2つの魂が融合して別の魂になってしまうことがあります」
別の魂に……?
「それってなにか不味いの?」
「ロクくんの人格がなくなる可能性があります……降霊した相手でもなく、全くの別人になることもあります」
「……今なら、止めてもいいですよ。私はロクくんが居なくなるのは嫌…ですから」
「いや…やろう。イリネスさん、お願い!」
「!分かりました。今この場にいる魂は……あの人体模型に憑いてた人ですね、もう一度力を貸して貰いましょう」
「……最後に一つ言わせてください。……私が必ず、降霊した魂を引き剥がしてみせます。信じてください」
僕は頷き、イリネスさんの降霊魔法を受け入れる。スウッと僕の中に入り込んだ感覚があり、そこからなにか満たされるような気持ちになる。……!痛みが引いていく。これなら戦えそうだ!一歩踏み出そうとすると、身体がついていかない。意識だけが一人歩きしている。走馬灯とはまた違った感覚だった。
『すまぬ、この身体少し借りるぞ』
え?
そう考える前に、すでに自分の身体はベニエさんの元に一瞬で移動していた。
「本体はたぶん、姿が見えないだけでこの近くにいると思うの!あの2匹を動かすのなら少なくとも私たちを観察できるところじゃないといけないし」
「それは同感です。アイツは相手に幻を見せることができます。なので、その応用で自分の姿を消しているのではないでしょうか?」
私たちはロクたちの戦闘から距離を取りながら、情報を整理していた。姿が見えないのはイリネスの情報で間違いないと思う。なら、
「試してみたいことがあるの!イリネス、あんたの見えない壁、どんな形でも作れる?」
「え?流石に複雑なものは……」
「ドーム状みたいには?かまくらみたいに」
「それならできます!でもどうして……?」
「それは……~って訳」
「なるほど!いいですね、それでいきましょう!」
覚悟しなさい……!あの性悪狐!目にもの見せてやるわ……!
……凄いな。僕がこの戦闘で抱いた感想はそんな月並みなものだった。左から喰らいつこうとする大幻狐を剣で受け流しつつ、背後から来る引っ掻きを見もせずに避ける。その動き一つ一つに洗練されたものを感じる。人体模型さん、こんなに強かったのか。
『いや、この身体の相性が良いのだろうな、人体模型にいたときは身体が動かしにくくて仕方がなかった』
あれ?もしかして、人体模型さん!?
『うむ、そうだ。戦いの最中故にあまり長くは話せないため手短に申す。お主にも加勢して欲しい』
でも、どうすればいいの?身体は人体模型さんが動かしているでしょ?なにもできないよ?
『お主の風魔法、遠巻きで見ておったが、制御、威力どれも逸脱していた。ワシも試しに撃ってみたが、扱うのはとてもじゃないが不可能と判断した。故に……』
『ワシが剣技で、お主が魔法で、共に奴を討ち果たそうではないか』
「まだそんな力を隠していたとはな……!だが、所詮はただの悪あがきよ!死ねぃ!」
『逆風』
「ぐぬおっ……!!」
片方の大幻狐が後方まで吹き飛び、木に激突する。魔法の威力が上がっている……!これも降霊魔法のお陰かもしれない。
「本番はここからだ。お主ら、死に物狂いでかかってこい!」
2対2の最後の戦いが始まる。
イリネスが精神不安定なのは降霊魔法の影響だったりします。その話はまた機会があったら書いていきたいと思います。




