37話 死んでください
僕の最期はこんなに呆気ないのか……。大幻狐の振りかぶったハンマーが当たる直前、色んな情景が浮かんだ。
村での日々、王都に来た授業の思い出、代表戦。そういえば代表戦でも似たようなことがあった気がする、なんだったっけ?……ああ、そうだ。あの柔術家の子だ。名前は……うん、それより、あの時も昔の夢を見たな……。風の勇者。…………結局僕は誰かを助ける勇者にはなれなかった。
取り留めもない話ばかり出てきたが、ハンマーはまだ僕に届いていない。思考だけが加速している……これが走馬灯ってやつなのかな。
ハンマーの動きを見ると本当にスローモーションに見える。これなら避けられるかもと思ったが、僕の体はすでに限界を迎えているのか指先一つ動かなかった。もうダメか。諦めかけたその時、
『あと少し……』
え?今、何か聞こえた?
『あと少しだけ頑張って……』
気のせいじゃない。誰かが僕に声をかけている。
「……ァ”」
ダメだ。声が出ない。一体誰なんだ?
『この攻撃に耐えたら、助けが来るから……』
何が何だか分からないけど、不思議と僕はこの声が嘘を言っているようには思えなかった。
あと一撃、なんとかこのハンマーを凌げればいい。今の僕になにができる?逆風でも力が足りない。もっと威力が必要だ。なんだ?なにができるんだ?一撃凌げればいい。耐え切るには……
ハンマーが僕の脳天に届く寸前、僕の身体に風がまとわりつく。
『ズドンッ!!』
大きな音が鳴り響き、僕は地面に叩きつけられる……が、ほとんどダメージはなかった。自分でもどうなったかよく分からなかった。気づいたら僕は、あの時の人体模型さんの脇に抱えられ、助けられていた。
燃え盛る火炎の中、大幻狐は小柄だった女子生徒から元の姿へと戻っていた。
「また鬱陶しいガキが一人来た……むっ!!お前、またお前か……人体模型!!!」
大幻狐は人体模型の姿を見るや否や激昂した。よほど因縁があるらしい。人体模型さんは僕をそっと地面に降ろすと大幻狐の元へものすごい勢いで走り出した。
「すごいです……あの狐と互角にやり合うなんて……」
大幻狐の攻撃を躱し、受け止め、反撃する人体模型。そして横から火球を飛ばして援護し隙を作るベニエさん。対する大幻狐は尻尾を巧みに使い、攻撃の手数を増やして攻防譲らない接戦を繰り広げていた。
……ん?尻尾が減ってる?落ち着いて観察すると、7尾だったのが5尾になっていた。いつの間になくなったんだ?
「……なんだか、小さくなった気がします」
「……ぇ”」
まだ声が出ない。けどあまりに気になる発言に声が漏れてしまった。
「あ……ロクくん、動いちゃダメです。大人しくしててください」
そういって痛みに苦しんでいる僕を見て少しだけ口角が上がるイリネスさん。忘れてたけど、この人サディスティックな一面もあるんだった。
サドネスさんの発言通り、少し小さくなっている。最初は子分狐の倍は大きかったのに今は子分狐と同じくらいまでになっていた。減った尻尾、小さくなった身体、もしかして……尻尾が力の源?なのかもしれない。その尻尾が無くなった理由はわからないけど、今アイツは弱っている。このまま攻めれば勝てるかもしれない。
ベニエさん、人体模型さん、頑張ってくれ。
両者一歩も譲らない交戦が続いていたが、そのこう着状態を破ったのは人体模型さんの強烈なアッパーが入った時だった。
「グオオ!!おのれ……ここまで我が追い詰められたのは初めてだ。……クク、仕方ない、これだけは使いたくなかったが、お前らを糧にできるのなら喜んでやってやろう!!」
大幻狐の身体が赤黒い光を放ち始める。なんだ…?嫌な予感がする。
「なんか嫌な感じね…ジンタ、変なことされる前に終わらせるわよ!!」
ベニエさんが炎を剣にまとわせて、人体模型さんに手渡す。そんなものどこから持ってきたんだ?ていうかジンタって人体模型さんのこと!?いつの間に怪異と仲良くなったんだベニエさん。
人体模型さんは、剣を構えると一瞬にして大幻狐に接近して斬り掛かった。その動きに何か違和感を覚えたが、その渾身の一撃は大幻狐に直撃した。
「ククッ……もう遅いわ……!」
真っ二つに斬られているのにニマニマと笑う大幻狐。
すると、斬られたところがあっという間に再生して、
2体に分裂してしまった。
「最初からこうしておけばよかったなぁ……クククッ!」
2体の大幻狐はそれぞれ人体模型さんとベニエさんの元へ向かい、襲いかかる。
「なっ!?」
人体模型さんはベニエさんの前に立ち、庇うように2体を相手にする。だが、流石に庇いながら2体を相手にするのには無理があった。剣で片方に斬りかかるが、斬られながら尻尾を腕に絡みつかせて動きを封じられてしまった。そして、もう片方の大幻狐は喉元に食らいつき、ミシミシと牙を食い込ませていく。
「お前など腹の足しにもならん。見逃していたのはいつでも◯せるからだ、このデク人形が…!」
「ジンタ…!!」
『バキッ!!』
大きな音を立て、人体模型さんの首が砕かれ、頭が地面へと落ちる。砕かれた瞬間、握っていた剣を落とし、膝から崩れ落ちる人体模型さん。
「「クカカカッ!!!」」
2体の悍ましい声が共鳴する。ただの笑い声。けどそれは僕らを恐怖のどん底に突き落とすには十分だった。
身体は動かせはするが、激痛が走る。戦うのもままならないだろう。
「……ロクくんは、ここで休んでいてください。私が向かいます」
そう言っているイリネスさんの身体は微かに震えていた。そんなイリネスさんの手首を掴んで僕はさらに前に出る。
「……ここにいても……何も変わらない。……なら、最後くらい……どんなに小さい可能性だろうが一緒に戦うよ」
「ロクくん……」
せめてこの傷でも治せたらまともに戦えただろうに。でもそんなことを考えても仕方ない。
「…………ロクくん、もし、この状況をなんとかできる方法があるとしたらどうしますか…?」
「え…そりゃ、その方法を使うよ」
「何が起きるかわからないとしてもですか?」
「……うん、生きていれば必ず何とかなるよ」
あの大幻狐だって生きるために奥の手を使った。死んだら何もかも終わるのだから、なら、僕らも今ある全てを使って生きていく。
「……やっぱり、私たち気が合いますね。ロクくんならそう言ってくれると思いました。だから…」
「私を信じて死んでください」
「次はお前だ、女。魔法の練度は中々のものだから我の血肉となってもらおうか…」
「いやよっ!アンタ、私のこと舐めすぎ!言っとくけどアンタが攻撃効かない秘密、もう分かったから」
とは言ったけど、その秘密を私だけで攻略するのは難しい。コイツら2匹を引きつけてくれるジンタがいたら何とかなったんだけど……。
「苦し紛れの嘘を……。もういい、死ね」
2匹の狐は私に向かって喰らいつこうと牙を剥ける。もう一か八かでやってみるしかないわね……。
その時、突然、私の後ろから突風が吹いたかと思えば迫っていた2匹の狐が後方に吹き飛ばされた。目の前には、さっきまで瀕死の重体だったはずのロクが立っていた。
「ロク!大丈夫なの!?でもゴメン、正直助かった、後は休んで……?ロク?」
ロクは振り返ることなく、ジンタが落とした剣を拾うと、2匹の狐の元に一瞬にして移動する。そして、あっという間に2匹をバラバラに切り裂いた。
「アンタ……誰?」
目の前に立っていたのはもうロクではなかった。
お盆期間だけ、投稿頻度多めにできるように善処しますね……




