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34話 7つ目

ベニエさん…?

 心臓めがけて突き刺さろうとしている爪は寸前のところで動きが止まった。

「ロクくん、大丈夫です。私の力で守っているので」

「……あ〜あ、バレちゃったか。せっかく久々の獲物だったのになぁ〜〜!!」

 ベニエさんの姿がどんどん別の存在へと変わっていく。あの時の幻狐と同じ……ではなかった。毛色はより暗い灰色、体格は水路の入り口が塞がるほど大きく、尾は1、2、3……7本ある。幻狐の尾は最高でも5本しか確認されていないってお父さんが言っていた。ではこの場にいる幻狐は本当に幻狐なのだろうか?

 僕は、不意にイリネスさんの言葉を思い出す。

『本来の7つ目が存在しないと成立しません。だって()()()を知ったら死んでしまうのですから……』

 7つ目を知ったら死んでしまう……。7つ目の七不思議……それはこの大幻狐の事だったのではないだろうか?

「騙されやすそうで弱そうなガキだと思っていたのに、なんだ?その力は?ここに来るまで喰われなかった奴はお前が初めてだ」

「そ、そうですか、私は身を守るのだけが取り柄…ですから」

「そうか、お前も使えるのだな?どうりで……クククッ…………………クカカカカカッッ!!!」

 大地が揺れるような不気味な笑い声が響く。大幻狐の顔がニタニタと邪悪な笑顔になる。まるで新しいおもちゃを見つけたと言わんばかりの……。

「気が変わった。その女は我が喰ってやろう。そこのガキはお前らが喰っていいぞ?」

 そう言った後、周りの茂みから4体の幻狐がガサガサと姿を現す。撒いたと思っていたが実際は襲うチャンスを伺って隠れていたのか…。

「イリネスさん、逃げよう。水路から学校に戻って助けを……」

「させると思うか?」

 すると、突然背後から1体の幻狐が僕に噛み付いた。肩を噛みちぎられ、血飛沫が舞い、激痛が僕を襲う。

「うわあ”あ”ッー!!」

 だけど、次の瞬間、僕の体は何事もなかったかのように無傷だった。あの痛みはまだ鮮明に残っているのに。

「な、なんで……?」

「クククッ、さあ?どうしてだろうな?」

 僕とイリネスさんの間から声がする。そこには小さな大幻狐が僕らのすぐそこに立っていた。

「うわあ(キャア)!!」

 お互い反射的に逆方向に逃げる僕とイリネスさん。その隙を狙い、僕の方に大きな前脚が迫る。

「ほう……!今のを避けるか。だが……」

 当たる直前に追い風で同じ方向に飛んで衝撃を最小限に抑えたけど、イリネスさんと分断されてしまった。最初からこれが狙いだったのか。急いでイリネスさんと合流しようと飛ぼうとするが、横から子分の幻狐が道を塞いできた。今は子分狐を相手にしている場合じゃない。速攻で倒さなくてはイリネスさんが危ない…そんな予感がした。

「ギュア”ア”ア”ア”」

 前にいた1体の子分狐が口を大きく開き、噛み付いてくる。それが合図かのように他の子分狐たちも共鳴し、四方から前脚で叩き潰したり、爪を突き立て切り裂いてきた。

 追い風で避けると近くにあった木に子分狐たちの攻撃が当たる。僕の体4人分程ある木の幹は簡単にバキバキと音を立てて折られた。僕は道を塞ぐ邪魔な子分狐を逆風で吹き飛ばそうとした。くらえ!

 逆風を放つが、びくともしない。この技は体重が重い相手には効き目がなかった。自分よりも3倍は大きい狐たちには意味がないんだ。クソッ、剣があれば魔剣術で戦えるのに……。こうしてる間にもイリネスさんがあの大幻狐にやられてしまう。

 4体の子分狐はお構いなしに僕を捕食しようと攻撃を続けてくる。1体目の噛み付きを避け、2体目の尻尾打ちを避け、3体目の突進を避け、4体目の攻撃が……こない?いや!4体目がいない!?その時、腹部から温かいものを感じ、視線を落とした。……腹部に僕の血で真っ赤に染まった爪が突き刺さっていた。



 刺されたのを知覚した事で今さら痛みがやってくる。ぐらりと意識が遠のき、視界が暗くなる。

「……ぐあああ!!」

 何とか、その状態で意識だけは保ち、前足から爪を剥がした。徐々に視界も戻っていく。

「ギャン!!」

 爪を剥がされ、鳴き声を上げる子分狐。その声を上げる先には、僕がいた。

「コイツ……!」

 コイツがイリネスさんを騙した幻狐か!姿を変えて見つかりにくくしたのか。コイツを倒すなら今だ、逆風で吹き飛ばして…!?

「ワ”ンワ”ン!」

 他の子分狐が噛み付いてくる。傷に注意しながら3体の猛攻を何とか躱したがその間に4体目が元の姿に戻ってしまう。唯一のチャンスを逃してしまった。もう人の心配をしている場合じゃない、このままだと僕が食べられてしまう。

「……流石にこれはヤバいかも」

 寒い……。恐怖からなのか、血が足りなくなったのか、はたまたその両方なのか分からないが僕の余裕が無くなっているのは確かだ。早めに決着をつけなければ。

 足元に風を巻き起こし、目眩しさせる。だが、子分狐達は尻尾を回転させて砂埃を払い飛ばして行く。目眩しが晴れた時、僕は子分狐の1体の体の下に潜り込んでいた。そして自分の腹部に突き刺さった爪を引き抜き、心臓の位置に狙いを定める。

『突風爪弾』

 回転させて貫通力を高めた爪は、いとも簡単に子分狐の体を貫いた。貫かれた子分狐はビクッと痙攣した後、力無く倒れた。

「まずは1体……」



 仲間が殺された事で子分狐達の様子が変わる。僕を見る目が鋭くなったような気がする。獲物ではなく敵として認識したんだ。

 子分狐がグルグルと僕の周りを回り出した。見逃さないように目で追うけど、ずっと見てると気持ち悪くなりそうだ…ここは早く抜け出さないと!

 追い風で抜け出そうと上に飛ぶと、1体が飛び掛かってきた。来ることは予測できてたので股下を通るように軌道を変え、包囲網から抜け出そうとしたら、

『ギャア”オオ!!』

 左右から2体が挟み撃ちの形で突っ込んでくる。うっ!?傷が痛むから速度は出したくなかったけど仕方がない。追い風の速度を上げ、ギリギリで潜り抜ける。木の枝に着地すると同時に飛び掛かった幻狐に向かって照準を合わせる。胴体のどこでもいい!当たれ!

『突風爪弾』

 予め、倒した幻狐から拝借していた爪を発射する。胴体に向けて撃った爪弾は幻狐の肛門をこじ開け、そのまま脳天を貫いた。『ギャイン!!』と悲痛な叫びが響き、倒れていった。

 ………………なんか、ごめん。

 肛門から血を垂れ流す幻狐を見た残りの2体はブルブル震え出し、僕の方を見ると、

『ギュ!?ギャア”ア”ア”!!!』

 完全に悲鳴にしか聞こえない鳴き声で森の奥に逃げていった。

 な、なんだ……急に?少し呆気に取られたが、すぐにイリネスさんの元に向かった。

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