33話 七不思議の正体
『屋上』
イリネスさんが柵を越え、飛び降りる。
「イリネスさん!!」
咄嗟に僕は駆け出し、追い風で後を追い、イリネスさんの手を掴む。
『ガシッ』
……!?イリネスさんが急に僕に抱きついてきた。
「え!?いや!あの……!?」
「……」
無言で僕の胸に顔を埋めるイリネスさん。よっぽど怖かったのかもしれない。……?でも何で飛び降りなんて……
「………ね」
「え?何?」
「「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」」
「うわあああ!!」
イリネスさんが顔を上げる。すると、その顔は人とは思えない醜悪なものに変わっていた。ギョロっとした大きな目に異常に前に突き出た長い鼻に口いっぱいにびっしりと牙が生え揃っている。
僕は追い風のコントロールを完全に失って落下していく。早く追い風を使わないと!!…間に合わない!!!落ちる!?
「「イヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!」」
その時、一階の窓から影が飛び出し、イリネスさん(偽)を僕から引き剥がした。さらに、僕を抱き抱えて着地する。
「グエェ!!」
着地の際に下敷きとなったイリネスさん(偽)の姿が変わる。その正体は僕と同じくらいの大きさで3つの尾を持った灰色のキツネだった。このキツネは『幻狐』だ。僕の村の近くにも生息していて、夜に出歩くと知り合いに化けて襲ってくると言われているけど、まさか学園に出てくるなんて。七不思議のドッペルさんと屋上の飛び降り男はこのキツネが発端だろう。
「あ、ありがとうございます!」
僕は命の恩人にお礼を言った。雲に隠れていた月が顔を出し、命の恩人の姿が露わになる。
月明かりに照らされたその正体は…肌色と赤色の内臓が丸見えの人体模型だった。
「………」
人体模型は僕をゆっくり降ろした後、幻狐を掴んで、窓から学園内に戻って行った。
何が何やら混乱していると、
「ロク?大丈夫!?」
ベニエさんが屋上から声を掛けてきた。とりあえず、屋上に戻って状況を整理することにした。
「………なるほどね、つまり、さっきのは幻狐の化けた姿だったわけね」
「うん、後はなぜか人体模型が助けてくれたんだ。前は僕らを襲ってきたのに、どうして助けてくれたんだろ?」
「……さあ?そんなことより一旦情報整理しましょうよ」
僕も賛成し色々話した結果、
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不明
『実験室の人体模型』=味方?
『トイレのハナコさん』=???
『職員室の海鳴り』=???
解明
『音楽室の死の呪文』=壊れた魔道具
『屋上の飛び降り男』=幻狐
『ドッペルさん』=幻狐
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とこんな感じでまとめた。
「でも、これからどうしようか?イリネスさんが行きそうな所はもうあらかた探したし、次どこに行けばいいんだろ……?」
「それなんだけど………ちょっと気になるところあるんだけど、いい?」
「え?どこ?」
「トイレ」
……何でトイレ?
『トイレ』
再びトイレにやってきたが、中は静かだった。奥の個室も何も変わった様子はない。ここに何かあるとは思えないんだけど……。
ベニエさんは無言で奥の個室の扉に手をかける。すると、扉がギイイと音を立てて開いた。
よく見たら、打ち付けられていた板が外れていた。
個室の中には便座があるべき場所に僕らが入れるくらいの大きな穴がぽっかり開いていた。
「この穴は一体?」
「……多分、この先にあの子がいる」
そう言うとベニエさんは穴の中に飛び込んでいった。
「え!?ちょっと!?」
僕も後を追うように飛び込んだ。
『穴の先』
グネグネと続いていた穴の先は地下水路に繋がっていた。こんなところに繋がっていたのか。
幅は10m程の大きな水路で壁に埋め込まれているライトで周辺はなんとか見えるが、少し先は薄暗くてよく見えない。
それでもベニエさんはスタスタと先に歩いて行く。僕もその後を追っていく。
「これ、どこに向かってるの?」
「七不思議の正体がいる場所よ」
「どういうこと?」
「行けば分かるから」
なぜか教えてくれないベニエさんに着いて行き、しばらく歩き続けると前から光が見えてきた。光の先はどこなのか分からないが木が生い茂った林?だった。月の光で明るくなっているため外の方が視界は良好だ。
「ここらへんに多分いると思う」
そう言い終わるのと同時に、
「あぎゃあああ!!」
近くから悲鳴が聞こえた。急いで声がした方に向かうと大小様々な幻狐がイリネスさんを取り囲んでいた。
ここは幻狐の巣だったのか!急いで助けようとしたが、イリネスさんは幻狐の攻撃は全て見えない壁で防いでいる。余り心配なさそうだ。攻撃が終わるタイミングを見計らってイリネスさんのところへ飛ぼうとしたが、
「こ、来ないでいださい!」
僕も謎の壁に弾かれてしまう。もしかして幻狐だと思っているのか?
「僕は幻狐じゃないよ!」
「信用できません!!」
どうすれば信用してくれるんだ?何か僕の証拠になるものあるか?…………!そうだ!この方法なら行けるかもしれない。
「七不思議って面白いな〜七不思議サイコ〜!!七不思議は……」
僕はできる限り七不思議を褒めまくった。
「そ、その純粋なる七不思議への探究心は……!本物のロクくんですね!」
イリネスさんの信用を勝ち取った僕は彼女を脇に抱え、包囲網を抜け出した。
「こ、このまま帰ろう!ベニエさんも水路まで来て!」
僕らは何とか幻狐の巣から逃げることができた。
水路に着くと、幻狐はもう追ってきてはいなかった。ほっと一息つき、イリネスさんに事情を聞いてみた。
「どうやってここまで来たの?」
イリネスさんは逸れた後の経緯を話してくれた。要約するとあの後、僕の偽物と合流してここまで連れてこられたらしい。
「あの時のロクくんは積極的でした……私と大事な話がしたい、二人きりになれるところへ行こうと……///」
それ僕じゃないし!というか僕の偽物クオリティ低くない?絶対そんなこと言わないから。自分が言った訳じゃないのにとても恥ずかしい思いをした。
「そしてこんなことも言ってました。『七不思議の正体を掴んだ』と」
「え?今、なんて……」
「!ロクくん!危ない!」
その時、背中から嫌な気配を感じた。振り返ると、ベニエさんが立っていた。……人間のモノではない鋭い爪を僕の心臓に向け突き刺そうとしながら。




