28話 優勝決定戦終
「大将、前へ!」
呼ばれて前に出る僕とヒサメさん。対面して緊張すると思っていたがそうでもなかった。
「……ロク、やっぱりここまで来たね…」
「…うん、皆のおかげでね」
「……」
「……」
お互い顔見知りであっても、話す言葉はとても短かった。それだけで十分だった。
「試合開始!」
僕は『疾風』をヒサメさんに当てる。吹き飛ばされたヒサメさんだったが、壁に当たる直前、凍てつく風が威力を相殺した。僕は追い風を使って接近する。再び、疾風を使おうと近づいた時、周りの温度が極端に下がっていることに気づき、嫌な予感がして進路を変えた。すると、ヒサメさんの周辺から氷が侵食してきた。侵食してくる冷気を逆風で弾く。…うん、大丈夫だ。僕の逆風なら氷の侵食を押し留められる。後は、いかに氷に触れずに倒すのかが問題だ。
大きな氷柱を僕に飛ばしてくる。僕が避けると、数をどんどん増やしてくる。このままでは避けきれない……!逆風を放って飛ばそうとしたが、氷柱は風をものともせず、僕の元に突き刺さろうと迫ってくる。
「くっ……しまった」
咄嗟に追い風で回避しようとしたが、氷柱が掠ってしまい、左脇腹が氷に侵食された。
冷たい、というより痛みの方が勝る。これは、早く決着を付けないと不味い……。
冷気が段々周りを覆ってきている。ヒサメさんに攻撃するには疾風ではなく、魔剣術で直接攻撃を当てるしかない。それにはまず、この侵食する冷気を吹き飛ばす必要がある。ぶっつけ本番だけど、やってみるしかない。
冷気を放出している張本人の元へ追い風で急接近し、目の前で止まる。そして、僕の体を侵食してくる冷気を、僕を中心に全方向の『逆風』を繰り出す。
「……っ!」
全身包帯くんが霊魔法の束縛を放出で抜け出したように、僕の風で再現して冷気を吹き飛ばす。逆風の風圧に怯んだヒサメさんに『魔剣術』で追撃をかける。その時、
『ピシッ!』
と鋭い音がした。ヒサメさんの手にはいつの間にか剣が握られていた。僕の魔剣術はヒサメさんの氷の刃に止められたのだ。
「ここまでで…まだ倒れてないのはロクが初めて……!」
こっちは常にギリギリなのに、向こうはまだ本気じゃなかったってことか。それでも、このチャンスを逃す訳にはいかない!冷気がまた放出されてきているため、早く魔剣術で倒さなければこっちの負けだ。
「おおおおおお!!!」
倒し切ろうと速度を上げ、攻撃を続ける。ヒサメさんの剣筋も他の子と比べるととても速いが、魔法で底上げしている僕の方が速く、ヒサメさんの手元に攻撃し、氷の刃を手放させた。今だっ!
渾身の一撃をヒサメさんに叩き込んだ……が、
「やっぱり凄かった……!私の剣『1本』…見切られた…。だから……ここから『2本』で行く……!」
もう片方の手に持っている別の氷の刃で止められた。
まだ本気じゃなかったのか!?これは不味い…一旦、距離をとって様子を……
「逃がさないよ」
「!?」
思考を読まれ、動揺した僕の元に2本の剣が向かってくる。必死に魔剣術で対抗し、なんとか食らいつくが、さっきと同じ速度、威力が2倍の手数で襲ってくる。魔剣術でも追いつけないなんて強すぎる…!
「ぐうぅぅ…うわ!?」
「隙あり…」
僕の剣が上に弾かれ、ヒサメさんの剣が腹部に当たる。刃が潰れているため、深く切れはしなかったが傷口が凍る。
「いっ!!」
血液と混ざって赤い氷が、僕に激痛と体温を奪ってくる。冷気もまた覆ってきて絶望的な状況だ。
「ロク…楽しかったよ。またね……」
「……」
ヒサメさんが剣を振り下ろした。しかし、僕の身体にその剣が当たることなく、地面に当たる。
『蜃気楼』
きっとこれが僕の最後のチャンスだ。ここで決める。
『牛頭落とし』だ。魔剣術が効かなかったならもうこれしかない。ヒサメさんの華奢な首に腕を絡ませ、絞めあげる。体に触れた時、人間とは思えない冷たさを感じた。もう構うもんか、全身凍りついたって絞めあげる!
「あ……ロ……ク……」
痛い…あの時の地獄をまた味わうなんて。感覚が無くなってきて、力が入っているのかどうかすら分からなくなった。僕の意識が遠くなっていく。早く……早く、倒れてくれ……!そう願いながら、僕の記憶はここで途切れてしまった。
「…………きろ」
「………起きろ」
「ロク、起きろ!」
「うわっ!!」
目の前にウンスイくんの顔があって、びっくりして飛び起きる。その際、ウンスイくんと頭をぶつけ合い、その痛みに悶絶する。
「〜〜っ!!やっと起きたか……」
「いてててっ……あ、あれ試合は!?」
「……負けたよ」
そんな……!?皆が頑張ってくれたのに……僕のせいで……。心配そうに僕の顔を覗き込むリキくんとベニエさん。それに見かねたのかウンスイくんが僕の頬をつねる。
「お前がそんな顔するな。一人で責任を負う必要はない。俺たちはチームで負けたのだから」
「そうだぜ!俺が勝ってたら優勝できてたんだからな!ロクだけが悪い訳じゃない!」
「……私も皆の足を引っ張ってばっかりでごめん……だから私に、私たちに責任を感じないで。……きっとクーちゃんもそう思うはずだから」
皆の優しさに我慢できず、涙が溢れてきてしまった。泣かないように必死に我慢していた分、溢れた時の反動は大きかった。こんなに泣いたのは小さい頃、お父さんに怒られた時以来だ。
「ご……ごめ…ん、ほん…と……う…に!ううっ、うあぁ……!」
こうして、僕にとって長かった代表戦が終了した。




