1話 王都に到着
心地よい揺れが止まり、薄暗かった荷台に差し込んでくる光で僕は目が覚めた。どうやら、いつの間にか眠っていたみたいだ。寝ぼけ眼のまま顔を上げると、馬車の御者さんが僕の方を見つめていた。
「おう、起きたか。5時間もの移動だったからな。ほら、着いたぜ」
御者さんが右手の親指でクイっと自分の後ろを指差した。
顔を外の方に向けると、そこには重厚な石壁で囲まれたお城がそびえ立っていた。城の頂上になびいている青い旗には鎖がクロスしてその中央に剣が描かれていた。
というか、え?お城?学校行こうとしてたんだよね?伝え間違えたかな?
僕が首を傾げていると、御者さんは言った。
「坊主、目的地はここで合ってるぜ。ここはレイント学園、正真正銘学校だ」
「え!?」
思わず声が漏れた。どう見てもお城なんだけど!?僕が想像で思い描いた学園はせいぜい村の集会所に机を足したくらいだ。
「ハハッ、入寮手続きは正面から入ってそのまま真っ直ぐ行けば受付があるから自分の名前と出身地言えば対応してくれるよ」
僕の反応を見て軽く笑った御者さんはスムーズに僕がやらなきゃいけない事を説明してくれた。この感じは何度も同じ反応を見ているのだろう。
「あ、ありがとうございます…!」
軽く会釈しながら馬車から荷物を下ろして、僕は冒険の始まりであるレイント学園に記念すべき第一歩を踏み出した。
「こんにちは、明日の入学予定者だよね?名前と分かる範囲での出身地を教えてね」
僕が話しかけるよりも早く、受付のお姉さんは話しかけてきた。
「あ、……っと、ロク……です。ペリネ村です」
緊張してカタコトになってしまった。お姉さんは僕の名前をブツブツ呟きながらペラペラと紙をめくっている。不安になってきた。これで無かったらどうしよう……。
「……あ!エバーグリーン地方のロクくんね!確認取れましたので、はい、どうぞ!」
お姉さんは、そういうとカギを手渡してきた。手持ちの部分には101と彫られている。
「寮は学園を出て東…じゃなくて左側に『レスト寮』って書いてある建物があるからそこに向かってね」
「…!はい」
少し安堵してお姉さんの言葉通りに学園内から出るときに、右手に違和感を感じた。……少し冷んやりしている?今は春前期(4月)のはずだ。違和感を感じた先に目を向けるとそこには何もなかった。
なんだったのだろうか?受付のお姉さんを見てみると他の子を相手しているようだった。白銀の髪を背中まで下ろした女の子だ。この子も入学するんだろうな。そんな事を考えつつ、僕は寮へと向かった。
この寮はすごい。僕が最終的にレスト寮に対する結論はそうであった。部屋には僕が3人は並んで入れそうなベッドが右手側に設置されている。ベッドの上には制服が折り畳まれていた。
向かい側には勉強用であろう机が置いてある。ただそのサイズは僕が上で寝ても収まるほどのラージサイズだ。その真上には卓上ライトであるランプ型の魔道具が壁にかかっている。
これだけでもすごいのに、トイレとお風呂洗面台付き、そしてなぜか調理台まで付いている。村の宿屋でもベッドしか無かったぞ。これ自炊しろって訳じゃないよね?確か食事は「食堂があるから大丈夫」ってお父さん言ってたはず…。
これから何をすればいいか分からないのと、本当にお父さんの情報が合っているかという不安から荷物の中に入っていた入学案内書を手に取った。
どうやら大体の流れはこんな感じらしい。
朝食 7:00〜8:00
授業 8:30〜12:00
昼食 12:00〜13:30
授業 13:30〜16:30
夕食 18:00〜19:00
それ以外は基本的に自由だ。壁時計に目をやると16時を回ったあたりだ。夕食までまだ時間はある。せっかくだし色んな所を回ってみよう!
恥ずかしい……。学園内を回ろうと思ったら受付にいたお姉さんに止められた。学園内は広すぎてこの時期毎回迷子になる子が多いらしい。「学園内の案内は入学後に行われるから我慢して待ってて」と言われてしまった。
学園内を出て右側に一本の木のを囲うように円形のベンチがあったので、赤くなった顔を冷ますために僕はそこに座った。目の前には何人かの生徒が走ったり、ボールを投げ合っていたり、木剣をぶつけ合ったりしていた。その中でも僕の興味は的に魔法を放っている生徒たちだった。
おお!!魔法だ!火の魔法、水、土、あらゆる属性の魔法を見て僕は目をキラキラ輝かさせていた。
その光景をずっと眺めていたが、気づいたらもうあたりは暗くなっていたため、急いで寮へと戻った。
夕食と入浴を済ませ、ベッドの上に横たわる。明日からいよいよ入学だ。不安もあるけど、それ以上に楽しみで眠れなかった。ふと、今日の魔法のことを思い出す。そういえば、僕はどんな属性なんだろう?
この世界には基本となる5大属性がある。火、水、風、土、霊の5つだ。僕のお父さんは火と風、お母さんは水と風だから僕も風と何かかな。だったら火がいいな、なんかかっこいいし。そんな事を考えながら、目を閉じた。