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9 それぞれの食卓事情、ナルシェくんは死にそうです

 村の男で集まり、森を迂回して海に向かう。

 今日は異界から流れ着くオーパーツの収集、日によって食料にするモンスターを狩る。これが村のサイクルだという。

 空のリュックを背負った村長が歩きながら教えてくれる。村長の図体はプロレスラー並みだから、背中のリュックがミニチュアのおもちゃのように見える。


「数日前にキムランが流れ着いたってことハ、オーパーツが見つかる可能性が高い。人だけでなくものも流れてくる。武器とか、なんかしらんアイテムとかナ」

「何か知らんアイテム……」

「使い方は知らなくても、異界研究者には高く売れるのサ。キムランが使い道を知っているものがあるなら言ってくれ。査定額が上がる」

「わかった」


 戦闘面では役に立たない分、知識面でカバーしよう。途中何度か小さいモンスターが出たが、村長が振り下ろしたナタで真っ二つだった。見た目以上にパワフルなお人だ。

 海辺について、二人一組で散開する。


「二時間したらいったんここに集まってメシにするぞ!」


 オレはナルシェと一緒に、そこらに散っているものを見て回る。この世界に流れ着いた初日は景色を楽しむ余裕なんかなかったな。

 水平線はカクテルを思わすオレンジ色。飲んだらお酒みたいな味がするんだろうか。

 一歩後ろを遅れてついてくるナルシェは、なんだか足取りが重い。


「ナルシェ、具合が悪いのか? 顔色がよくない」

「ああ、ええ。今朝の朝食は姉さんが作ったから…………うう、思い出しちゃった」


 顔色は青を通り越して白くなっていて、口をおさえている。


「キムランさんも昨日見たでしょう、姉さんの料理。この村の若い男どもは姉さんに気に入られたくて、あの(・・)料理をもてはやすんです。だから姉さん、“みんな美味しいって言ってくれるから大丈夫”って変な自信持っちゃって……」

「うわぁ…………。お察しするよ」


 毎日あんなの作られたらたまったもんじゃないよな。一回見ただけでもヤバイって思ったもん。


 巨大な生物の角とか、水晶玉ぽいものが落ちている。ゲームみたいなシステムメッセージやテロップが出てこないのが惜しい。

 ないものは作る、それがユーチューバーってものだよな!


「キムランは魔法の水晶(マテリアルジェム)を手に入れた! テレレテテッテッテー!」


 水晶玉を手に取って太陽にかざし、声に出す。うむ、マジで魔法を込めた宝石のようだ。水晶玉の中心が不思議な青い色に光っている。


「キムランさん、どこに向かって喋ってるんです?」


 ナルシェが引き気味だ。水晶玉を布袋に収めてごまかし笑いしとく。


「悪い悪い。つい職業病で」

「職業病? 村に来るまで何をなさっていたんです?」

「うう~ん、商品の面白さや良さを検証してみんなに紹介する仕事? この世界だとなんていうんだろ」

「要は良質なものを見極めて仕入れて販売する仕事ですか」

「あー、うん、そういうことにしとこう。オレはバイヤー」 


 この世界にパソコンもインターネットもない以上、ユーチューバーを説明する手段はない。話術を駆使するのには変わりないから、バイヤーってことで。


 昼はミミが渡してくれた“やさいまきまきお弁当バージョン”を食べて、英気を養う。

 野菜や肉がこぼれ落ちないよう、信州お焼きのように皮で包んで焼いてあるのだ。肉汁が閉じ込められていて実にうまい。

 隣に座るナルシェは、震える手で真っ黒に焦げたパンらしきもの(たぶんパン。きっとパン)を食べていた。


 休憩のあとは、また二時間ほどオーパーツ探しをする。

 なんとかのアトリエだったか、素材を収集して合成錬金するゲームがあったけど、実際落ちものを集めるの楽しいな。

 使い道幅が不明なものがゴロゴロ出てくる。


「キムランさん、そろそろ集合時間ですよ」

「お~。これだけチェックしたら行こうか」


 砂に半分埋まっていたびん詰めを袋に収める。

 よいしょっと、うん、結構たくさん集めたから重いな。


「大丈夫ですか、キムランさん」

「大丈夫大丈夫。ナルシェはあんま具合よくないんだからオレに任せとけ」


 みんなも上々の収穫だったみたいで、笑顔で荷物を担いでいる。

 一人の青年は蕩けそうな表情でガラス玉を磨いている。


「見てみろよこれ。宝石を見つけたんだ! 俺、これをオリビアさんに渡してプロポーズするんだ」

「なんだと! 抜け駆けは許さないぞ! オリビアさんにプロポーズするのは僕が先だ!」


 使い道を知らない拾い物をプロポーズに使うのってどうなんだろうな。心のうちでツッコむ。

 ちらりとナルシェに目をやると、死んだ魚の目をして口元を引きつらせている。


「早死にしたいならいいんじゃないかな。正直、結婚できたとしてあの料理に何日も耐えられると思えないけど」


 がんばれナルシェ。オレは陰ながら応援しているぞ! ウマメシなミミのもとにいるから、交代する気はさらさらないけど。


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