表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/66

5 歓迎のスライムステーキ

「ここ、わたしのいえ」


 ミミに連れられて、ゴルドさんちの2軒となりの家に入った。


「すきにつかえ、キムラン」

「あー、あのさ。行くあてもなかったし、オレとしては住まわせてもらえるのは嬉しいけど、勝手に決めちゃっていいの? ミミの親御さんに相談しなくていいのか?」

「おや、せんげつしんだ。わたししか、いない」


 ミミは顔色を変えずにとんでもないことを言う。


「あ……ごめん。………ミミ、一人なのか」


 5才かそこらの幼子が、たった一人で生きる。日本じゃ考えられない。

 なんて言っていいのかわからない気持ちが、胸の中でぐるぐるまわる。元の世界に帰る方法を探したい、という気持ちはあるけれど、それよりもミミをひとりぼっちにしておきたくない、という気持ちのほうが勝った。


「ひとり、ちがう。きょうから、ふたり。キムランいる」

「そうだな。オレがいるから二人暮らしだな」


 不安にさせないよう、ミミの言葉を肯定する。オレはうまく笑えているだろうか。


 ミミは棚をゴソゴソとさぐり、なにかを取り出した。まごうことなきフライパンだ。

 背が低くて調理台に届かないからか、踏み台を持ってきてそれに乗る。そしてフライパンを赤い石の上に置くと、ジュ、と鉄の焼ける音がした。


「これ、まほうぐ。あつい」

「へ~。この世界のコンロってわけか。すっげーーー! オレ、生の魔法を見たのは初めてだ」

「なまのまほう、ちがう。これ、ひのまほう」

「火の魔法な、わかった」


 フライパンがあたたまったところで、ミミが1メートル四方くらいの石の箱を開けた。同時に、中から白い冷気が漂ってくる。

 魔法のコンロがあるなら、こっちは魔法の冷蔵庫か。


「そんちょがくれた、すらいむのにくがある」

「スライムの肉……」

「ぷるぷる、おなかにやさしいヨ」


 溶解液で地面溶けてたけど……食えるのかあいつら。食ったら口の中溶けたりしないよな。


 オレの不安をよそに、ミミは半透明のぷるぷるを1センチほどの厚さに切り分ける。大きな木の葉にスライム肉を置いて、ピンクの顆粒をふりかける。調味料だな。

 調味料を振ったスライム肉をめん棒でペンペン叩く。


 熱々になったフライパンに油(たぶん)をしいて、よく叩いたスライム肉を投入する。 ジュワ! しぶきがあがってスライムの水分が飛ぶ。

 半透明だったスライム肉は、火が通るにつれて白身魚のような、品のある白い色へと変わった。


 香りもバターソテーのよう。やべぇ、よだれが。

 木べらで器用にひっくり返して、きつね色に焼けた面が上に来る。両面よく焼けたら木皿に盛り付けて、完成。


 ミミはオレの反応をじっと見て、ドヤ顔になる。


「たべろ。あつあつが、うまい」

「ありがとうミミ。いただきまーす!」

「キムラン。いただきます、とは?」

「いただきますっていうのはだな、オレの世界でごはんを食べるときのあいさつだ」


 木を粗く削って作られたフォークをさす。ふわりとほぐれる白身。戦ったときのエゲツない弾力がうそのようだ。


「おおおお、口に広がるうすしお味。口当たりなめらか。腹が痛かったから、素朴な甘じょっぱいたべものは口にもやさしいな。口の中が幸せにみちあふれているぜ!!」


 オレの中のユーチューバーの魂が、このスライムの旨さを讃えろと叫んでいる。この世界にビデオカメラがあるなら、高画質録画して永久保存版にする。

 ミミはハルルのみつをコップに注いで、オレの前においてくれる。


「ごっごっごっ。プハー! スライム肉はハルルのみつとの相性も抜群だな!」

「キムラン、うるさい」

「わりーわりー。あまりのうまさに叫んじまった!」

「……そうか、うまいか」


 ミミは自分の分をオレの向かいに用意して、椅子に腰掛ける。それから目を閉じて、両手の平を胸に乗せて交差させる。


「きょうも、アマツカミのめぐみにかんしゃします」

「へー。じゃあオレも郷に入っては郷に従えってことで。今日もアマツカミの恵みに感謝します」


 ミミが作ってくれた歓迎のスライムステーキはとても美味しくて、2回もおかわりしてしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
kdask31u89szfiksdisciqnlcdwa_l9c_lc_sg_asby.jpg
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ