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13 キムラン、いのちのせんたく。焼きパイラプでお目覚め!

 朝起きて早々、家主ミミ様が鼻をつまみました。


「キムランにおう」

「ええ! オレそんなに臭い!?」

「うむ。ゆあみして」

「湯浴み!?」


 異世界に漂着してから早1週間近く。その間風呂に入ってない。ていうか家に風呂なんてものはない。村に大浴場があるわけでもない。

 自分の顔に袖を押し当てたら、汗の臭いが鼻をつく。

 うん、クッセェ。


「せんたくする。ぬげ」

「ギャーーーー!!」


 服を剥がされマッパになったところで手ぬぐいを投げられ、でかいたらいを渡された。


「おゆわかす、ここにいれる、からだふく」

「ほほ~。この世界ではお湯を含ませたタオルで体を拭くわけか。少なくともこの辺りに風呂文化はないんだな」

「フロ?」

「すごくでかくて深いタライにお湯を入れて、そこに全身浸かるんだよ。オレのいた世界では、そうやって湯浴みしてたんだ」

「おゆはこぶの、たいへんそう」

「あははは。そうかもな」


 タライにお湯はって使う生活から考えると、風呂桶いっぱいのお湯を運んでくるのも捨てるのも想像つかないよな。

 少し熱い程度に沸かしたお湯をタライにそそぎ、手ぬぐい。体を拭う。なのか体を洗うとき使うという木の実をもらった。潰すと泡が出る石鹸的なやつだ。


「うお~、手ぬぐいとお湯が垢で真っ黒じゃん。ちょっと痒かったしやっぱ入浴って大事なんだな。ミミが臭いっていうのも仕方ねーや」


 全身くまなく拭ってスッキリした。

 タンスに入っていたミミの親父さんの服に袖を通す。ちょっと丈が短いけど、着る分には支障がない。


「ミミ、湯浴み終わったぞ~。お湯ありがとな」


 家の外では、ミミが洗った服を干していた。

 木と木の間に太いロープを張って、そこに引っ掛ける。やっぱ小さくて背が届かないから、踏み台に乗っている。


「ふぬぬ……!」

「オレも洗濯物干すのやっていい?」

「おお、キムラン。じゃあこれ」

「うぃ!」


 まだ水気を多く含む服を軽く絞りなおして、開く。シワを伸ばしてロープに下げる。

 ミミがかごから洗濯物を渡してきて、オレが開いて干す。何回か繰り返して、洗濯かごは空っぽになった。

 うん。今日は晴れてるし気温もそこそこだし、夕方までには乾くかな。

 外に出てきたついでに畑の水やりも済ませる。


「おお、キムラン、ミミ。朝早いな」

「村長。おはようございます」

「はよ~、そんちょ」


 村長が奥様と連れだってやってきた。


「これは先日のオーパーツを売った報酬だ。受け取ってくれ。東方の国で人気の食材だぞ」

「いいんですか。それじゃ、ありがたく頂戴ちょうだいします!」


 家の中で大判の紙の包を開けると、中身は乾麺と瓶詰めの茶色い顆粒、ゴツゴツした黄色い実、などなどたくさんの食材だった。


「このツブツブ何?」

岩蜜いわみつのツブ。あまい。おかしにつかう」

「オレの世界でいう砂糖の類似品だな。じゃあこの実は? なんか頭くらいある玉」

「パイラプていうくだもの。やくとおいしい」

「や、焼く!?」


 びっくりしてしまうオレに、ミミはいつも通りに言う。


「キムランうるさい」

「ごめんなさい」


 謝るから睨まないで。


「あさごはんは、やきパイラプとハルルのみつ」

「おー!」


 拍手喝采するオレの手に、ミミがさっと包丁を握らせる。


「パイラプは、かわがかたい。キムランきって。はんぶんしたら、これくらいのあつさにきる」

「はいよ!」


 パイラプをまな板に乗せて、体重をかけて刃を下ろす。パイナップルの皮もかくや。ミミが先に言っていた通り皮が固い。ジワジワ力をかけながら半分にする。ミミがこれくらい、と指を開いて言うので、指示された厚さのクシ型に切り分ける。


 鉄皿に並べて、魔法の石窯焼き器に入れる。


「すこしやく。やけたら、これちらす」

「へぇー! 美味そう!」


 ミミが手のひらサイズの器に岩蜜を入れて、綿棒の持ち手で砕く。乾燥させた甘い香りのハーブを指ですりつぶしながら混ぜこむ。

 ハーブシュガーを用意している間にパイラプが焼けた。釜を開けると香ばしくかつ甘い香りが部屋に満ちる。


「ちらす」


 端っこがこんがりきつね色になっているパイラプに、ミミの特製ハーブシュガーをふわりとかけて完成だ。


「わー! 美味そう! アマツカミノめぐみに感謝しま、ぱく!」

「アマツカミのめぐみにかんしゃします」


 椅子に座る時間も惜しくて、キッチンで立ったまんま焼きパイラプを頬張る。


「ちょーーー、ちょーーー、うんま!!」


 溢れ出る果汁で手がベタベタだ。なのに手が止まらない。病みつきになる甘さ。生のパイラプに包丁をいれたときは固かったのに、今はマンゴーのように口当たりなめらかだ。

 試しに焼く前のパイラプをかじる。歯が立たない。しかも酸味が強すぎて、酸っぱいだけだった。

 口のまわりを果汁で真っ黄色にしながら、ミミが言う。


「パイラプは、やくもの。なまのまんま、たべにくい」

「はー。焼くのにはちゃんと意味があるんだな。勉強になったよ」


 この世界では日本の常識が当てはまらないっていうのを、改めて実感した。

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