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11 ナルシェの特製、ピヨ豆と海ヒツジのミルクスープ

 

 ぼく、ナルシェの朝は早い。

 日が昇ると同時に起きて朝食の支度をするんだ。

 従姉のオリビア姉さんとふたり暮らしだから、分担して交互に作るのがいいのだろうけど、姉さんの料理の腕は残念すぎる。

 姉さんが厨キッチンに立つのを阻止するためにも、ぼくのほうが早く起きるんだ。

 井戸の水を汲んできて顔を洗って、調理に取り掛かる。


 昨日の夕食がキムランさんのところからもらったキバ魚だったから、今朝は豆のスープにしよう。

 姉さんの熱心なファンから、コケトリスの骨肉をもらったんだよね。「おれはこのコケトリスのように骨の髄までオリビアさんのトリコ!」とかなんとか意味のわからないポエムをつけて。

 姉さんには真意がひとかけらも伝わってなかったけど。


 コケトリスとは、村付近の森に棲息する鳥のモンスターだ。白いからだに赤いトサカをもつ。目を見た相手を石化させる厄介な能力を持っている。裏を返せば、目さえ見なければおそるるに足らない。空を飛べないからそう遠くまで逃げられないんだよね、コケトリスって。


 香草とコケトリスの骨をじっくりと煮込む。

 ここで昨夜のうちから水に浸して柔らかくしておいた、乾燥ピヨ豆を用意する。コケトリスのひな鳥であるピヨコそっくりの黄色の豆は、じゅうぶん水を吸ってぷっくりとふくらんでいる。

 だし汁から骨を取り出して、煮汁に出てきたアクと細かな骨をお玉ですくって捨てる。ここでピヨ豆を投入して火力弱で煮る。

 


 ピヨ豆が十分に柔らかくなったら、海ヒツジのミルクを注ぐ。

 煮立つ前に火魔法コンロから離して鍋敷きの上に移動させる。カラの実と塩で味を整えたら完成だ。

 小皿にとって味を確かめる。うん、我ながらカンペキ。


「ふああ。ナルシェくん、おはよ~」


 ねぼけ眼の姉さんが、目をこすりながら椅子に座る。髪の毛はねぐせだらけだし、ぼんやりしていて、目が完全には開いていない。

 

「おはよう、姉さん。ピヨ豆スープができているよ」

「わーい。ありがとう。わたしピヨ豆大好き」

「知ってる」


 姉さんは食前のお祈りをそこそこに、大きめのスプーンで豆とスープをすくう。


「はあ~! おいしい。やっぱり朝はナルシェくんが作ったスープが一番ね」


 ぼくも自分の食べる分だけスープを器に盛って、食卓につく。


 素朴な味わいの豆スープは、姉さんだけでなくぼくも好物だ。ピヨ豆本来の自然な甘みが口の中に広がる。ミルクベースだけどあっさりしているから、起き抜けでも食べやすい。

 食べているうちに、姉さんの脳も起きてきたみたいだ。背筋がシャキッとしている。

 皿を空っぽにして立ち上がる。


「ようし! 今日もお仕事がんばるわよ~! もうすぐ行商の来る日だし、それまでに染め物用の糸を紡がないとね!」

「うん。がんばってね、姉さん」


 姉さんは水おけに皿を入れると、足早に部屋に戻っていく。髪を整え仕事着に着替えた状態で戻ってくる。村の女性陣は半数が、村の工房で生糸を紡ぐ仕事をしている。

 この生糸を草花で染めて、織物を産業とする町に出荷する。昨日ぼくがキムランさんたちと収集してきたオーパーツは学術都市の研究室に売る。

 男女それぞれに得意とするものでお金を得ているのだ。


「それじゃ行ってきまーす」

「行ってらっしゃい、姉さん」


 姉さんがさっそうと仕事場に向かう。

 うん。仕事モードのときは、マトモなのになぁ……。


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