第一話
「世界的に見て平和な国に送られる称号、WPTを日本が5年連続で受称し…」
ニュースキャスターがそう読み上げる。
世界一平和な国、日本。
表向きにはそう呼ばれていた。
けど本当に平和なら、俺は──。
「また考え事?酷い顔してるよ…」
横槍を入れるように俺の考えを遮る。
「そんなに顔に出てますかね…」
無自覚だった。常々思うが、俺は考え事が顔に出やすいらしい。
「またあの事考えてたんでしょ。あれは翔は悪くないんだから…そろそろ休憩しなよ…」
彼女──鈴木美咲──は俺に釣り合っていないほど才色兼備だ。
いや、付き合ってはいないのだが…
「俺が寝たら…誰が仇打つんですか。たまに休憩取ってるし、大丈夫ですよ」
休憩をしないと体調を崩す。
それは世の常識であるし、美咲の言っていることも一理あるかもしれないが、それでも俺は成さなければならないことがある。
「うーん…。あ、ご飯にしよう」
そう言い、彼女はキッチンへと向かう。
キッチンの方から軽快な音が聞こえてくる。
お互いが両親を亡くしてから、当たり前のように始まった共同生活。
共同生活と言っても…家事は基本美咲に任せっきりなのだが。
しかし、このまま美咲に家事を任せっきりでも良いのだろうか?
いつか愛想をつかれて出ていってしまうのではないか──
そう物思いに耽っている時、おまたせと言ってかなり多めのご飯が卓に並んだ。
「昨日の残りだけど…。ごめんね」
そうはにかむ彼女を見て、一気に食欲がそそられる。
「いえ、美味しそうです。いただきます」
そう言って、ご飯を口に運び始める。
美咲のご飯はめちゃくちゃ美味しい。つい食べすぎてしまう程に。
「あっ、ほーだ。えいのえんなんだけどねー?」
「……口の中が無くなってから喋ってください」
俺がそう言うと、口の中に入っているものを急ぎめに噛み、飲み込む。
「例の件なんだけどね、バックドア、仕込めたよ」
世界的大企業のシステムにバックドア。
正直俺は無理だと思っていたが…さすがは美咲と言うべきか、簡単にやってのけた。
「ま…マジですか?今回の依頼無茶苦茶だったのに」
「超天才ハッカー様に掛かればこれぐらい朝飯前だよ」
彼女は本当に天才だ。
さて、これでようやく今回の依頼は美咲のおかげで一歩前進。
俺はケータイを手に取り、組織に電話をかける。
「橘です。本部長お願いします」
「少々お待ちください」
流暢な日本語だが、これが生身の人間ではなく機械音らしいから驚きだ。
噂によると美咲が一から組み立てたらしいが、本当の所はどうなのかは知らない。
色々考えていると、保留音が止む。
「橘か。どうした?」
「美咲が先日の件の企業のシステムにバックドアを仕込む事に成功しました」
「そうか。引き続き頼む」
それだけ言い、電話が切れる。
無駄は省く──
それが本部長である彼の口癖だが、まさかここまでとは。
途端、美咲が声を出す。
「え、それだけ?」
「これだけでした。俺たちに深入りしてこない点ではいい人なんじゃないですか?」
「そうなんだけどさ〜、もっとこう…頑張ったんだから色々言うことあるでしょ!って…そう思わない?」
そう彼女が指をモジモジさせながら僕に問いかける。
「俺はめっちゃ助かってます。ありがとうございます」
僕がそう言うと、彼女は頬を赤らめて足早にお皿をキッチンに片付けに行ってしまった。
大変お待たせ致しました!
第一話です!
次回からは週に一投稿〜二週間に一投稿出来るように頑張ります!
これからもよろしくお願いします!