傷
わらわは、弁天様。
この地に来て400年ほどたったか。
この地にわらわを招いた人間が、世話役として管理をしている。祠は小さいが、近くの人間は朝、手を合わせて仕事に行き、夕方手を合わせて自宅へと帰ってゆく。
世話役は代々わらわの事を見えたり、声が聞こえたり、感じられる子孫で繋いで行ってるようだった。そこにわらわが干渉した事はない。
皆よく尽くしてくれた。
ある日、1人の人間と仲良くなった。
その子はまだ五つになったばかりだと言った。わらわの姿を見て、おしゃべりをして帰っていった。
その子は毎日来た。わらわもその子に合わせようと童に姿を変えた。その子はすごく喜び、わらわに抱きついて来た。初めての感覚だった。
わらわは神である。人間に見えるように姿を現すことも出来るが、ほぼ幽体の様な形である。
よよと名乗ったその子は、わらわに触れられた。
手を繋いで野山をかけ歩いた。
いつも一緒だった。よよに合わせ、わらわも成長した様に外見を変えていった。
よよも大人になり、社会人となっていた。
ある日、よよが泣き腫らした顔で祠に来た。
嫁に行くことになったと。
わらわは頭が真っ白になった。もちろん決まっていたわけではないが、わらわに触れられるほど『観る力』を持つよよが世話役の後を継ぐと思っていたからだ。
よよが泣きながら話した。
海外に留学していたよよの兄が帰って来て、後継になったと。
自分は他の土地に嫁に行くことになったと。
よよの兄には子どもの頃に会ったきりだった。
わらわの事は感じることもないらしく、父の横につまらなそうに立っていた。
しかし、世話役の後継に干渉する事はなかった。
しばらくして、よよは嫁いで行った。
わらわは寂しいと言う感情を初めて知った。
兄は世話役になったものの、祠に来る事はなかった。
数年が経ち、初めて兄が祠に来た。
「神だと?くだらん。こんなものはガラクタに過ぎん。」
そしてそれが、最後だった。




