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人生を終わりにしようとしていた俺が神を助ける。

   今日   俺は決行する


 衣替えも近いというのに 太陽は容赦なく光を降り注ぐ。駅から15分も歩いて来た俺は汗が止まらない。


 左の方からキラキラした歓声が聞こえる。先生が吹いたであろうホイッスルの音も混じっている。俺はその歓声から逃げるように脇道に入った。


 人気のない方へと選んできた道は山のほうに来てしまった。初めて来たところだが、どこか懐かしい感じがする。ふと…

 石畳みの横道がある。草が生い茂り手入れがされていない。

 俺は何かに導かれるように石畳を進む。


 すぐに木々に囲まれ、汗をかいた身体をひんやりと包む。凛とした空気が辺りに広がっている。

 なるほど。

 小さな祠があった。鳥居はかろうじて立っていたが、祠は屋根もいくつか剥がれ 賽銭箱らしきものには枯葉や小枝が積もっている。祠の後ろには枝ぶりの良い木が一本立っていた。


 これも何かの縁か。

 俺はここに決めた。


 賽銭箱の枯葉を軽く払い、財布にあった紙幣数枚と、小銭を全部賽銭箱に入れる。

 手を合わせ


 『無事に逝けますように』


 俺は深々と頭を下げて、祠の後ろに行く。来る途中のホームセンターでロープも買って来た。

 テキパキと準備を整える。


 「人んちの敷地で、首 くくらないでよ〜」


 「!」

 「す、すみませ…」


 振り返りながら謝る俺。しかしそこに声の主はいない。

 「???」

 『幻聴だろうか』

 改めて周りを見回す。そばには民家らしきものはなく人気も感じない。上を仰ぐが、びっしりと木々が覆い、空は見えない。地面は光が入らないからか、雑草はあまり生えていない。薄暗い森の中だ。


 『幻聴だ』


 そう思いながら、祠の前にやってくる。


 「!」


 女子高生がそこにいた。手を腰に当てて、絵に描いたように頬を膨らませ、俺を睨んでいる。


 「すみません。勝手に入ってしまって。あなたのお家の敷地だったんですね。帰ります」

 「聞くよ」

 「え?」

 「逝きたい 理由」

 『バレたか。でもJKにはなしても』

 「助けられるかはわからんけど、お賽銭もらっちゃったし、とりま 話してみ。てか、知ってるけどね。自分の口で話すの大事だから」

 『ん?なんで知ってんの?この子何者?どうみてもギャルなんだけど』

 「だって私、神だもん」

 「!!!!!!!!」


 しばらくの沈黙。俺はとうとう狂ったか。もしかして、もう逝った後なのか。夢か。現実なのか。


 俺の思考がパニクってると…


 「お兄さん、名前は〜?」

 『ナンパ?』

 「いや、ナンパじゃねーし」

 「! 心読めるんですか?」

 「読めるっしょ。神だもん。みんなお願い事は心の中で願うか、ウィスパーじゃん。読めなかったら、神やってらんないっしょ。願い叶えられないじゃんw」

 「確かに」

 納得してる場合じゃない。受け入れちゃうのか。


 「で、名前は?」

 「杉山 隆洋です」

 「たかにゃんか〜うち、弁天でーす。よろ」

 『たかにゃん?俺に猫要素があるのか?

 弁天?この人弁天つった?』 

 「そう、弁天。弁財天。この祠うちの。鳥居がヤバいんだよね。暇なら、ちょっと直してくれると ありがたみ〜」

 「確かに傾いてますよね」

 「でしょ〜。ウケるw。でも、これ倒れるとヤバいんだよね〜」

 『確かに危ないけど…』

 「危ないとかじゃなくて〜結界崩れるから。うち ここに居られなくなっちゃうんだよね、」


 この子の話にちょっと興味が湧いてきた。頭の片隅にそんなことしてる場合じゃないのにという思いもどんどん小さくなっていく。


 「倒れるとどうなるんですか?」

 「結界が崩れて、うちは本家に飛んでいって吸収される。ここは神の住むところじゃなくなるから。」

 「吸収されるって…?」

 「まあ、わかりやすく言えば死ぬに等しいかな〜」

 

 さっきまで、自分は死のうとしていた。でも、他の人が死ぬのは嫌だな と思った。


 「正確には人じゃないけどw」

 「どういう仕組みなんですか?」


 少し、興味が湧いてきた。

 彼女…弁天様は悪戯っぽく微笑み 話し始めた。


 「まず、400年くらい前だったかな〜本家から魂分けてもらって、ここに祠 建ててもらって住み着くことになって。みんないい人たちだったな〜すごく大切にしてくれたし。でも、5年くらい前からかな〜あんまり人が来なくなっちゃって。お兄さんなんか、4年ぶりの参拝者よ!マジ、神」


 いや、神はあんただろう。


 「うちはさ〜人から必要とされるから神でいられんのよ。結局、人が作ったものだしね。でも、うちも、覚悟してるから。本家に戻る日も近いな〜て」


 さすが、神様。悟りを開いておられる。


 「もちろん、色んな神がいるよ。金儲けに走る奴、ホントはいけないお願い叶えちゃう奴、神の鏡のような奴」

 「人間みたいっスね。」

 「それな。礼儀作法にうるさい奴とか。裏切るやつも結構いるし。本家から魂分けられると、その神なりの人格みたいなのできるからね。本家に吸収されると、人格消えるから…死ぬに等しいわけよ。」

 「そりゃあ、ここにいたいですよね。」

 「そうでもないかな〜

  苦しい時に、人ってお参りするじゃん。お参りしないってことは、みんな幸せってことよ。それは、神が1番望んでることだから!happyじゃん!」


 メチャメチャ楽しそうに微笑んでから、


 「でも、あと少しここにいたいんだぁ〜」


 と、悲しげに呟く。


 「心残りが、あるんですね。」


 俯いていた弁天様が顔を上げ、俺を見上げて


 「たかにゃん〜助けて〜」


 !!。神に助けを求められた。こんな俺に。全てを捨てようとした俺に。


 「何がしたいんですか?俺に手伝えますか?」

 「マジ!助かる〜鳥居をなんとか来年の3月まで倒れないようにして欲しい〜」


 なんか、ノリ軽いんだよな〜


 「とりあえず、今 工具とかないんで、応急処置しときます。」


 目的があると身体は自然に動く。

 片側の柱が腐れかかって傾いている。辺りを見渡し、太めの枝を数本と、自分の首を括ろうとしたロープで、骨折の固定のように柱を縛っていく。


 「俺、本職じゃないんでこんなことしかできないですけど…本格的に直さないと3月までは持たないかもっスね。」

 「あ〜、だよね〜。これも運命。しゃーないね。」

 「建てなおすとかは…?」

 「マジ無理。いくらすると思ってるの?」

 「ですよね…。

  あの…なんで3月なんですか?」


 彼女はちょっと恥ずかしそうに


 「卒業できるから。」

 「え?誰が?」

 「うちが。」


 ん?どゆこと???


 彼女は頬を染めながら、喋り出した。


 「誰も参拝に来なくなって寂しくなってさ〜。ちょっとお散歩したわけ。そしたらさ〜近くに女子校あって。面白そうだな〜って毎日通ってて。無遅刻無欠席、皆勤なんよw卒業したいな〜って」


 なんとなく、わかってきた。弁財天様なのに、なんでギャルっぽいのか。なんで制服着てるのか。


 「そーそー。その学校でギャル見て、可愛い〜っておもて。やっぱ、ギャルしか勝たんw」




 「俺、鳥居の直し方、調べてみますよ。明日また来ますから。」

 「まじ!!!!超アゲ!!!

  …たかにゃん、いいの?」

 「ご存じのように、俺は会社をクビになり、婚約者にも振られて、やることないんですよ。ここに来たのも何かの縁…すよね。


  俺、神様って信じますよ。弁天様が俺を止めてくれたんです。まだ、この先どうするかとか考えられないけど、今は弁天様 助けることに集中します。参拝者も増やしましょう!卒業しましょう!」


 「ありがとう!!!本当にありがとう!

  うちのマネージャーだねwよろ!!」


 俺は何故か、この(ギャルの)弁財天様のマネージメントをすることになった。



 

 


 

 

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