チュートリアル
朋美に案内され、家電量販店のフルダイブ筐体に深く腰を下ろす。
結構ふかふかで、ホントにマッサージ機みたいだ。
「手荷物はロッカーに、入れたわね? トイレは済ませた?」
「お前はオカンか! 準備万端だよ、年甲斐もなくウキウキしてるわ」
「うん、わかってるから水を差してる。プレイ時間は20分位、時間になったらヘッドセットに呼び出しのコールが鳴るわ。なる前にやめても大丈夫だけど、オーバーはなるべく控えてね? その間は隣の売り場の子にフルダイブコーナー見てて貰わなくちゃいけないから」
う、そうか。
「分かった。肝に銘じておくよ」
そしてようやく真新しいマイヘッドセットを装着し
SEVENS GARDENの世界へと旅立つ。
──GAME START
青みがかった白一色の世界に、どこからともなく0や1の数字が飛んできて
それらの数字が様々な物に形をなしていく。
徐々に読み込まれていく世界を眺めていると、突然遠くからの視点に変わり
先程から生成されている数々の構造物が個では無く
全体を彩る為に作り出されているのが理解出来る程の
美しい景色が映し出される。
「はー、やっべぇ。なんてクオリティだよ。今の所体は動かないけど、映像で体感するタイプのアトラクションみたいだ、風とか匂いとか、一体どうなってるんだコレ」
そんな事を口走っていると、景色がいくつも代わり火山や砂漠、海や森が
どんどん流れていく。
そして最後にたどり着いたのが、平原だった。
しばらく眺めていると、フード付きのマントを羽織ったキャラクターが
慌てた様子で駆けていく。
「ああ、パターン的にアレが俺か? 顔が見えないし」
すると、暫定俺の視点に俺自身の視点が重なっていく。
「お、街が見えた! アレがスタート地点の街か」
などと呑気なことを言っていると、暫定俺の視線が後ろへと送られる。
「なんじゃあ、ありゃあ!」
およそチュートリアルで戦う敵では無い、大型の犬? ……狼?
とにかく、四足獣に追われていた。
敵の名前が表示される。
『処刑セシ魔犬 ガルム』
「なんでぇ!? 産まれたばかりの世界で、まだ何もしてないのに処刑されそうなんだけど!?」
──チュートリアルを開始します。
腰にある武器を抜いてください。
武器を取れば良いのか、腰へ手をのばして……
その瞬間、手に何かを握る感触が伝わってくる。
──『始まりの短剣』を装備しました。
──ガルムは、今の装備では到底倒せない相手です
この場を離れるために、回避に専念して下さい。
──ガルムの突進が来ます
横方向に跳びましょう。
おっし、横っ跳びね。………今だっ!
──お見事。続けて飛びかかり攻撃が来ます。
ガルム方向にダッシュして下さい。
上手く行けば背後が取れます。
いやいや、ガルム方向って! 鋼の心臓の持ち主かっての
ええい、やぶれかぶれだっ!
あー! 無理っ! くらうっ!
──残念ですが被弾してしまいました。
直前まで時間を戻します。
──ガルム方向にダッシュして下さい。
上手く行けば背後が取れます。
ああ、こういうヤツね。
じゃあ、遠慮なく! っと!
さっきより動きやすい?
──お見事。上手く背後が取れました、次は攻撃をしてみましょう。
脚に突き刺してみるか!
ダッシュでガルムに近づき短剣を太腿に突き刺す。
──相手の機動力を削ぐ為には
脚を攻撃する事が有効です。
ガルムが復帰しました、振り返りざまに引っ掻き攻撃が来ます。
バックステップで躱しましょう。
地面を蹴って、後ろに跳ぶ!
顔スレスレに極太の犬足がすり抜ける。
「っぶな! 出が速すぎッ!」
──お見事。ガルムが大技のチャージに入りました。
ガルムの横をすり抜けて街方向へダッシュして下さい。
チュートリアルの指示に従い、街方向へダッシュ。
──ガルムのチャージが完了しました。
殲滅技発動『地獄ノ業火』
激しい炎のエフェクトを受け、俺は吹き飛ばされる。
「身体が動かない!? クソ!」
すると、街の方から声が聞こえてくる。
「大丈夫か! ここは我々が預かる! メーヴェ! その人を街へ避難させてくれ!」
「了解っ」
6人の探索者風のキャラクターが駆けつけ
その内の1人の女性が俺を背負って再び街へ駆け出す。
「名前も表示されているみたいだな」
NPC『スターク』 騎士
NPC『ライアス』 斧戦士
NPC『レア』 弓術士
NPC『メーヴェ』 軽歩兵
NPC『ネレイド』 修道士
NPC『アリアドネ』火術士
ちょっと長くなりすぎました
次回からはもう少し手を抜きます。