おはよう、素晴らしき朝
ううん……むにゃむにゃ──はっ!
俺は慌てて飛び起きる。
「良かった、今日はおっさんの温もりを感じなくて済んだ」
「あ、起きたんだ! 今日、休みだよね? 今日こそフルダイブ三昧でしょ!」
え、もう起きてんの? 今、5:30前だけど……
『職人の朝は早い』思わずそんなワードが過る。
「朝早くからなんてテンションだよ……フルダイブ三昧したくはあるが、今日はリアボックスを見に行こうかと思ってる」
「リアボックス? ああ、ヘッドギア用にチャリにつける感じ?」
「リュックも良いけど、そういうものに入れとく方が良いかなって思って」
「確かに、デザインもカッコイイのから、可愛いのから、多岐に渡るからね。良いと思うよ、値は張りそうだけど」
「そうなんだよ、そこそこするんだよ。なんとか安くて、使い勝手の良さそうなのが無いかと、店を見て回ろうと思って」
「ネットのはチェックした感じ?」
「それは一応な。オシャレなヤツか、大容量のヤツかの二択で、安いのはレビューも期待できなそうだったわ」
ギガは納得したように頷き
話題を変える。
「そっか、自分は今日も朝から1日潜る予定」
「そこまでやると、日常がどっちか分からんな」
呆れたように、肩を竦めるジェスチャーを
してみせる。
「あっちが日常でも、全然良いけどね? お金と運動不足が深刻なだけで」
「思い切った発言ですね、ギガ氏」
「そのくらい本気でやってるって事だよ、まあ半分比喩みたいなところはあるけどね?」
ギガのやつ、順調にガチ勢ムーブし始めたな
俺、まったりやるつもりだったんだけどな……?
「まあ一応、俺も午後からは行けると思う。ガーデン侵攻戦チュートリアルで時間取られると思うけど」
「あ、じゃあ侵攻戦用フィールドはカスタマイズしたんだね。……で、あの、卵の結果を聞いても?」
俺は白目を剥いて項垂れる。
「……聞いちゃうの? ソレ」
「だってさすカシューだよ? 聞かない方が無作法というものかと思って」
「作法なんてねぇよ……」
俺は渋々、爺さんと巨大魚について話す。
「…………カシュー君、今回はセーフだよ! ギリだけど」
「え? マジで? 魚そんなに強いの!?」
「ああ、いや。人喰魚も強いっちゃ強いけど、評価が高いのはシルバの方」
──はぁ? 控えめに光ったやつが強い?
「あ、勘違いしないでね? 『強い』じゃなくて『便利』なんだよ」
「便利? 遠距離攻撃だからって事?」
「それも一因。あの爺さんの魔法ってさ、敵の足元から生えるんだよね、『ブレイズ』とかいうシンプルな名前の火柱が立つ魔法なんだけど、射線を気にする必要はないし、命中率は高いし、そこそこ回数撃ってくれるし、低レアの中では結構有能な『便利枠』で、どんなデッキでもほぼ腐らない」
「腐りかけみたいなヨボヨボ加減だけどな? そんな便利で、なぜ低レアなんだよ?」
「魔法の威力が弱い、敵にヒットした時に起こる硬直が短くて足止めにならない、射程も然程長くない、打たれ弱い、あと足が遅い。まあ、役割的には火力補助かな。一般兵に足止めさせてチクチクやれば戦える」
なるほど、使い方次第で長く使えるかもな。
「で、魚さんは?」
「正直、強いけど攻められないのがキツイ。相手の心理を読んで罠として使うか、配置せずに敵が水場の近くを通った時に召喚して、食い散らかす感じ? イカれた攻撃力と耐水攻撃以外通らない種族的な耐性が強い。変わったところでは、深い水場をわざと多く設置して、人喰魚とかを警戒させて、実はいない詐欺で、浮いたコストで実際の守護獣や一般兵連打で押し切るって作戦もある」
「それ人喰魚持ってなくても出来るじゃん……」
「……まあ、そうだね」
なんだか凄く微妙な気持ちになったが
ひとまず、大爆死ではない事に胸を撫で下ろす。
安心したせいか、なんだか腹が減った。
今日は時間もあるので自分の分の他に
ギガの分の朝食も用意し、二人で食べる事する。
そういえば、俺より先に起きてたって事は
それまで、一緒だった可能性が……
いや、考えるのはよそう。




