メンバーカード
朋美の背中を見送ったあと、ママに声をかける。
「あの、俺もフルダイブを利用したいんですが……」
「あの子も色々大変よねぇ」
とつぶやき、先程まで朋美が座っていた場所に腰をおろす。
「修ちゃんは、ウチのお店初めてよね? 最初は、メンバーカードの作成をお願いしてるンだけど、良いかしらン?」
修ちゃん……そしてやっぱり圧が凄い!
「はい、お願いします」
ママはにっこり笑って、チョット待っててという言葉と
胸ポケットから取り出した、名刺サイズのメモを残し
店の奥へと、引っ込む。
「えーと、なになに。メンバーカード作成時に必要なもの?」
・マイナンバーカード
・電子マネー口座
うーん、なかなか直接的。
「お待たせぇん!」
ママが何故か衣装チェンジして出てきた……
なんか俺、現実の方がファンタジーしてる気がしてきた。
「じゃあ、説明するわね? 先ずは、必要なものには目を通してくれたかしらン?」
「はい、マイナンバーと電子マネー口座、ですよね」
「そう、よく出来ました!」
ああ、この衣装『女教師』だったのか……
「じゃあ、マイナンバーの用途を説明するわよ。マイナンバーは、フルダイブ中に万が一、健康に害を及ぼす状態に陥った場合、お医者様にかかってもらうんだけど、その時の身分証明と健康保険証として使用するわ。マイナンバーはリーダーで読み込んで、基本的には顔認証で本人確認。アタシや他のスタッフも直接内容を確認することは無いし、ほかの用途に使用することは無いから安心してちょうだいね?」
え、待って……意外とちゃんとしてる。
「次に電子マネー口座、これは支払いに使用するの。メンバーカードと紐付けておくことで、支払いがスムーズになるわ。でも、これは必須では無くて、アタシの所では現金も受け付けてるわよ」
「どうしてですか?」
ママはちょっと恥ずかしそうにしながら、答えてくれる。
「それはァ、一人一人とコミュニケーションを取りながら、付き合って行きたいって思うから。お喋りしながらお会計とか、昔ながらの喫茶店の店主と常連さんみたいで良いじゃナイ?」
「あー、ママは喫茶店に憧れてる感じですか? 喫茶スペースにはフルダイブのフの字も見えないですし」
「そうなのよォ! 自分の夢の空間を作るために、大金をはたいて地下にフルダイブ施設を作ったのよォ。空調とか湿気とか排水対策とか、その辺がクリア出来てないと、認可も降りなくて」
「大変だったんですね……」
「分かってくれるぅ? っておっとっと。話が逸れちゃったわね」
身を乗り出してきたママの圧に、上半身を後ろにスウェーさせて回避する。
「あとは、署名ね。タブレット上で署名してちょうだい、本人確認にも使う事があるから、本名且つフルネームでお願いねン」
「はい、わかりました」
その後、マイナンバーの登録、電子マネー口座の紐付け
最後にタブレット上で署名、手数料の支払いを済ませ
メンバーカードを発行して貰った。