こだわりの8番
「またすっごい甘そうなの食べてるね……」
ギガはそれ程甘いものが好きではない。
──だがな、お前は誤解している!
「何言ってんの、これは程よい甘さだよ! 喉が焼けるような甘味も好きだけど、これは違うぞ? このシロップで甘さを補ったり、酸味を足してサッパリさせて愉しむ設計になってんの!」
「へぇー……」
ギガはどっちでも良いという態度だな。
「あらン修ちゃん、よく分かってるわぇん。それだけ言ってくれたら依子ちゃんも喜ぶわ〜」
ん? ああ、依子さんが作ってるのか……
──まさか!? あのファンシーなネーミングって。
「上島君、甘いものの話になると暴走するよね? あ、暴走は普段からか」
「おいィィ!! なんて事言ってくれてんの!?」
「ふふふっ、仲が良いのね?」
ママが野太い声で笑う。
「そうそう、俺たち仲良しなんだよママ」
ギガめ、調子に乗りやがって……
話題を変えるしかないな、コレは。
「あ、あの! 今日もフルダイブを利用したいんですけど、2部屋空いてますか?」
ママは斜め上に視線を動かして少し考え込む。
「確か、1、2、4番以外は空いていたハズよ? ちょっと依子ちゃんに確認してみるわね?」
「はい、お願いします」
ママが立ち去ってから、俺は首を捻る。
5番空いてんのか……
「どうしたの、上島君?」
「いや、今まで何度か来たけど5番が空いてるのって初めてなんだよ」
「いや、そりゃあ。常に張り付いている人間ばかりじゃないから。固定でついてる方が、どちらかと言えば異常だからね?」
「たしかに、そうではあるんだけど……」
──まあ、どうでもいいか。
そんな事を言い合っているうちにママが戻ってくる。
「ワタシの記憶通りだったわ〜、何番にするのかしらン?」
「あーママ、上島君が食べ切ってから、またお願いするね」
「何を言っているギガ? 俺はとっくに食べきっているぞ?」
「マジか! 早っ!」
俺はやっぱり8番が使いたい。
特に意味の無いこだわりだけど。
「──自分は8番でお願いします」
「上島君は8番か、確か8番までしか無いんだよね?」
ギガの言葉に頷く俺。
「じゃあ、7番でお願いします」
「分かったわン、じゃあカウンターでメンバーカードを預かるわね〜」




