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9 【食を楽しむ者】?


「つっても俺の方が姫さんなんだがな」


「逃がさんよ!」


「【挑発】、【一閃】」


「助かるわぁ!」


 目の前でスライムの群れを相手に暴れまわる神楽。言うまでもなく俺よりも強い。

 たまに神楽から逃げるモンスター相手に【挑発】【一閃】のコンボを決めるくらいである。


 パーティになったのであまりモンスターを倒していなくても経験値が手に入るし、俺としてはむしろありがたい限りだ。


「【回復】!!」


 あと何がヤバいって、奴の職業聖職者なんだよな。ヒール草を使うまでもなく攻撃を受けたら自分で回復していくのだ。プレイヤースキルが高いので攻撃力が足りないというハンデを負っていながらもすべてクリティカルを出して差を埋めていると言えばヤバさ具合が分かるだろう。


「ジンの種族聞いてなかったな」


「何や急に。ノアと同じではてながついとるわ」


「ランダムにしたやつは皆そうなのか?」


「かもなぁ」


 ふと思い出して質問するが、神楽も不明なようだ。見た目は完璧人間なのでエルフとかそういった類でないのは分かるのだが、そうなると選択肢は絞られるので首を傾げることしかできない。


「ジン! そっちじゃない!!」


「んあ? まっすぐ言わんかった?」


「戦闘前はな。そっちは戻ることになるぞ」


「せやったね」


「……俺の後ろを歩けよ」


 何度も行ったことがある場所以外は必ず道に迷うという極度の方向音痴持ちな神楽は、目的地まで目の前に矢印まで表示してくれるシステムがあるにも関わらず迷う。

 それは途中にモンスターがいたら狩ったり、気になったものに寄せられる好奇心のせいもある。そのため神楽と合流するには誰もが知ってる建物が好ましく、誰かに介護してもらうことを想定しなければならない。


 幸い人当たりがよく、誰とでもすぐに打ち解けるタイプなので道案内に困ったことはないようだ。


「ついでに双蛇のところに寄ってもいいか?」


「そーだ? なんやそれ、美味しいん?」


「頭が2つの蛇らしい。蛇だし、焼いたらうまいんじゃないか?」


「ええな。行こか」


 戦力だけは頼りにしている神楽がいるので余裕ではないだろうか。






 ……と思っていた時期が俺にもありました。


「【回復】、【回復】!!」


「振り回しだ、スタンいく!」


「じゃあ傷薬入るわぁ!」

 

 洞窟はダンジョンになっていて、ムカデやら昆虫系のモンスターが多かったのだがそいつらは楽だった。

 それで余裕ぶっこいて大部屋に入ったら巨大な蛇がいたのだ。


 攻撃技は2つの頭を振り回すのと尻尾を打ち付けるのがメイン。あとは締め付けようとしたり、ダメージが溜まるととぐろを巻いて回復したり様々だ。


「――っ!」


「ナイスや」


 タイミングを合わせて膝蹴りをし、頭の1つをスタンに持ち込む。衝撃でじんわりとHPが減るが、そうするともう1つの頭が守るように威嚇するだけになるのでその間に神楽が回復に入る……を先程からずっと繰り返している。ヒール草は傷薬として使うなら口から出さないとだが、そのまま飲み込んでもHPは回復する。

 ヒール草はまだストックがあるが、なくなる前に決着を付けたい。


「回復終わったで」



「いけそうか?」


 そう聞くとヒール草の苦みに若干眉を顰めていた神楽が笑った。

 

「今のままやとジリ貧やね」


「だよな」


 何かないかと思いスキル一覧を開くが見事に生産系に寄っている。

 状態異常系があればワンチャンなんだが。


「スタン切れそうやな。ほなまた色々試してみるわ」


「短剣、こっちを使ってみるか?」


「おーレアもんやん! よし、頑張ってみるわ」


 入れ替わりで俺が先程削れたHPを回復させながら頭を回転させる。


 リアルでの蛇の撃退方法と言えば棒でつついたりとしか覚えていない。意外と火に強いとか聞いたことがある。

 あとは冬眠することとかか。

 ……使えないな。


「ノア! そっち行った!!」


「!?」


 間一髪で尻尾の攻撃を避ける。戦闘ペースが速くて気をまわしていなかった。

 俺が貸したエフィの短剣のおかげでダメージが多めに入っているようだ。尻尾を暴れさせ頭はとぐろを巻いて回復に入った。

 尻尾に警戒してヒール草を取り出そうとすると同時に視界が一回転する。


「――っつ!?」


「大丈夫か!?」


「かろうじて、生きてる」


 壁まで吹っ飛ばされたようだ。満タンだったHPが数ビットを残して真っ赤になっている。急いでボックスから取り出したハイヒール草を噛みながら攻撃してきた相手を確認すると、2本目の尻尾であった。

 新たなる攻撃パターンの登場に俺は今までの攻撃パターンが通じなくなったことを確信する。

 

「頭が2つじゃなくて2匹がくっついているのか」


「両方捌くのは難しいんやけど、ノアは大丈夫そうか?」


「HPが半分もない」


「頑張れ」


「無茶言うな」


 軽口を叩き合いながらも神楽は俺側にくる尻尾を逸らし、自分は致命傷のみを回避している。

 どうにか上体を起こして蛇を観察する。

 何か、何かないのか?


「くる!!」


「『がんばれー!』」


「こりゃ頑張るしかなさそうやね?」


「そうだな」


 絶対に攻撃が来ない安全圏で待たせていた2匹がバスケットの中から一生懸命応援してくれている。

 バスケットの中から出てはいけないと俺が言ったからだ。

 2匹の応援だけでHPが満タンになった気がする。


「ん? ルーウィ、耳に毛玉が……」


 向上された視力のおかげで遠くにいるヴァレンティアたちの毛の艶まで確認できる俺は、ルーウィの身体に毛玉が付いているのを発見した。

 たんぽぽの綿のような、それよりも大きいサイズのそれに俺は見覚えしかなかった。


「『どれー?』」


「いや、え?」


「――――!?」


「ちょいノア!?」


 俺は身体が痺れていたのも忘れてバスケットの方に走った。逃げると思ったのか尻尾が追いかけて来るが、


「【一閃】」


「~~~~!!」


 腰から下げていた冒険者の剣ですっぱりと輪切りにして差し上げる。耐久値が来ていたのかパリンと音を立てて消えたが構わない。

 最初からそうして欲しかったわぁーなどと後ろで呆れた声がしたが、俺は気にせずルーウィについた毛玉をそっと掌に載せた。


「リース。マース」


「「――――♪」」


 ピンポン玉サイズの毛玉。いわゆるケセランパサランと呼ばれる生き物である。

 だらけたように口をぽかんと開けているのがリースで反対にきゅっと横一文字に閉じているのがマースだ。言うまでもなくクリスマスに仲間になった子たちである。


「リース、マース。【眠り粉】をお願いできるか?」


「「――――♪」」


 ふわふわと頼りなさげに飛んでいくリースとマースだが、蛇の上までいくと白い粉を振りまいた。ちなみに言っとくと危ない粉ではない。ポリスメンもにっこりの安心安全な薬である。

 双蛇はもう片方の尻尾も神楽に切られて怒っているようだったが、粉を被るとすぐに眠ってしまった。


 神楽はあまりの呆気なさにぽかんとしていたがふわふわと俺の手元に降りて来たリースとマースを見て納得したように頷いた。


「相変わらずの反則攻撃やねぇ、リマはんは」


「「――――♪」」


 その後はリースとマースのおかげで無事眠りについた蛇をちくちく二人で攻撃し、最終的には技練習としてお互い頭を切り落として討伐した。


《エリアボス、シディスの双蛇が初討伐されました》


『レベルが12 に上がりました。SPを2取得しました』


『エリアボス初討伐により称号【勇なる者】を取得しました』


「ノア、これめっちゃ使いやすかったわ。どこで手に入れたん?」


「兎からもらった」


「なるほどな」


 ヴァレンティアがリースとマースにルーウィを紹介している方を見やってそう言う。


「でもティーちゃんだけならまだしもリマはんまでとはね。不思議なこともあるもんやね」


「AIとはいえデータを消すのに抵抗があったとかか? ジンが初期地点にいたときこういう話は聞いたか?」


「んー仕事中ちらちら掲示板も見てたけど、ないなぁ」


 せっかく喋れるようになるかもしれないというのにリースとマースに至ってはレベルも分からない状態だ。【鑑定】を使っても名前しか見れなかった。そもそもあの2匹は喋っているのか……?


「皆こっちに来てるんだとしたら探さないとだな。一番探しにくいリースとマースは見つかったし幸い当てはあるしな」


「当てって、ナルジアのときやろ? リエタでも分かるんか?」


「勘でなんとかなるだろ」


 ドロップ品を確認すると頭と尻尾が入っていた。切断ボーナスとかもあるのかもしれない。あとは鱗が数枚ある。売れそうだ。


「ノアはこのまま街に行くんか?」


「ああ。ジンは行かないのか?」


「リマはんおるし、レベルアップしてこかな思ってんけど」


「付き合おう」


 【アルス】に登録したいし、10回くらい殺ればコンプできるだろうか……?


「ジン、ドロップ品持ってないのあったら後で交換して欲しい」


「なんで?」


 【アルス】のことを説明したら自分も欲しいと言い出したので2周目に行く前に【観察】と【採取】のレベル上げに付き合わされました。やっぱり図鑑ってみんなのロマンだよな。






『レベルが17に上がりました。SPを9取得しました』


『【隠蔽】を取得しました』

 

 結局俺と神楽の両方が図鑑に登録できるまで粘ることになった。途中俺のログイン制限が近くなったので交代でログアウトしたりしていたらいつの間にかゲームで2日経っていたというね。


 神楽は図鑑に【思兼(オモイカネ)】と名付けたらしい。かの有名な天照さんを岩戸から出すときに知恵を貸した神様の名だ。名前までは知らなかったがまあピッタリなのではないだろうか。


「やあっと来たね」


「そうだな」


 カサヴェの街。

 プレイヤーの姿はまだ見えない。先発組はいてもいいはずなんだが、探索中だろうか?

 まあ俺たちには関係ないので唯一知ってる建物であるギルドに向かう。


 ギルドに入った瞬間、冒険者たちがぴりっとしたのを感じる。

 それもそのはず。俺たちは50回ほど双蛇を倒した時にドロップしたローブを羽織っていたから。見る人が見ればあの蛇の素材だと分かるのではないだろうか。中身は全然初期装備なのだが、仮面も相まって強者感が出ている。


「シヴィスの、双蛇のドロップ品を買い取って貰っても?」


「ひゃ、ひゃい!」


「やっぱりあの蛇を倒したのか!?」


「どうやったんだ、2人でか!?」


 尻尾は食べれるし鱗は装備の強化に使えるとかで俺たちは頭と被ってしまった指輪を出した。検証した結果、切り落とした部位が高確率でドロップされるらしかったので頭は毎度切り落としていたのだ。思ったよりも大量に頭が取れたので流石に半分くらいは売りに出した方がいいだろう。指輪に関しては器用値を上げるものなので生産職に高値で売れると踏んでの小銭稼ぎだ。指は10本もあるのに指輪は3個までしか付けられないので生産するとき用に3個だけ残している。


「あれ、あの蛇ってそんな手強い奴やったんか?」


「俺たちも最初は手間取ったろ」


「ああ、せやったね」


 流石にレベルも上がったので最後の方はリースとマースにデバフをかけてもらわなくても相手が可哀そうになるくらいぼっこぼこにしたから余計に弱い印象しかない。

 爆弾を投下するだけした俺たちは受け付け嬢さんからそれぞれ3500ゴールド渡されぎょっとしてしまう。


「あ、やはり少なかったですか……? 冒険者でしたらもう少し高くなるのですが」


「ジンも登録してないのか?」


「ギルドに行こうとしたらノアと会ったんよ?」


「なるほど」


 俺が無事にアルウェルのギルドに行けたとしても神楽に会えない可能性の方が高かったと。

 少し迷ったが、俺は意を決して登録する旨を伝える。


「――ただ、こいつらも一緒でいいか?」


「あ、はい。テイマーさんなんですね」


「職業は放浪者だ。でも、こいつらに危険はない」


「!!」


 バスケットのタオルをめくると爆睡している4匹がだらしない姿を見せている。

 可愛さにやられてくれないかなと思いながら様子を見ていると大勢の視線に気づいた4匹が目を覚ました。


「くる?」


「「――――?」」


「『どうしたの?』」


 ギルドにいた皆が悶える声がギルドいっぱいに響いた。




「し、失礼致しました。双蛇を討つ実力のあなた方でしたら危険はないでしょう。ギルドカードにその旨を記載いたしますのでしばらくお待ちください」


 やはり可愛いは正義だ。他の受け付け嬢さんももうタオルの下に隠れてしまった子たちが見えないかとバスケットをちらちらと見ている。ヴァレンティアのアホ毛がぴょこんと出ていたのでそれで我慢してもらおう。

 

「先に追加分の2000ゴールドをお渡しいたしますね」


「ありがとうございます」


 地図分があっという間に戻った。登録するだけでこんなにも金額が違うんだな。

 神楽も同じ金額を貰い嬉しそうにはしゃいでいた。

 その後受付嬢が慌てて持って来たギルドカードを首から下げてようやく一息つく。


「じゃあわしは地図買いに行くわ」


「買ったところでだけどな」


「それな!」


 元気にあのおっさんの元へ向かう神楽を尻目に俺は依頼が貼られている提示版の方へ向かう。

 ボックスにある分で済ませられるものは済ませたい。ランクが上がればもっと信用度も上がるだろうし。


「これを」


「はい、ええと……ヒール草50本、ハイヒール草10本、スライムの核10個、カエン草10本。確かに受け取りました。報酬の1200ゴールドです」


「ありがとう」


 一気に懐が温かくなった。

 何に使おうか? やっぱり皆のブラシも買ってあげたいし、リースとマースにも揃いのアクセサリーを買ってあげたい。軽くないと飛べないからレース系だろうか。なければ手作りしかないな。


「猫の男、仲間じゃないのか?」


「ん? ああ、仲間だが……ずっと一緒じゃなきゃいけない決まりでも?」


「すまん。ないな」


 提示版の前で邪魔になっていたか? と場所を譲ると机の方に案内された。


「新人いびり……?」


「違うわ!」


「てっきり勝手に注文されて金はこちら持ちかと」


 神楽の姿を探すが見当たらない。パーティも解除されているようだし、何かしたいことでも見つかったのだろう。もうフレンド登録はしてあるし、お互いずっと一緒に行動するようなプレイではないので気にしない。


「先日、妻と娘を助けてもらったようで」


「……ああ、ウルの実のケーキが好きな」


 記憶の底からなんとか引っ張り出す。あそこの女の子たちがリボンくれたんだよな。

 

「なんつー覚え方してんだ……まあ、そんなわけだから逆に好きなものを頼んで欲しいところだな」


「子供がもう一人生まれるんだから金は大事にしろよ。礼なら村長からテント貰えたし」


「ぐっ……」


 正論すぎる返答に男は詰まる。

 刈り上げられた快晴に似た青い髪。あの子供は父親似なのだろう。大分若々しく見えるがこれで二児の父なんだもんな。

 うっ……親戚からの子催促が…………。


「おい、大丈夫か?」


「だいじょうぶだ」


 そういえば誕生日を過ぎたんだったか、と思い出して近くにいた給仕の人にメニューから美味しそうなものをいくつか頼む。しっかり1000ゴールドに収まるように頼んだので懐的にはそんなに痛くない。


「お、おい」


「誕生日祝いと、これから生まれてくる子供への祝いだ。受け取ってくれ」


「――それはありがたいが、こんなに食べれるわけがないだろ」


「持って帰ってくれるとありがたい……うっぷ」


 冒険者のギルドだから男率が多い。そうなれば必然的に一メニューの量も多くなる。俺たちは大量のメニューを前に腹を抑え、余りは半々に持ち帰ることで決着がついた。


『称号【食を楽しむ者】を取得しました』



 *

 


 

 名前:ノア Lv17

 職業:放浪者

 種族:??


 【HP】 85(+40)/125〈+12〉

 【MP】 40(+10)/50


 【STR】 31(+5)

 【VIT】 20(+5)〈+30〉

 【INT】  20(+5)

 【MND】 20(+5)

 【DEX】  20(+5)〈+45〉

 【AGI】 87(+47)〈+10〉

 【LUK】 54(+23)


 残り(+37)


 ◇称号

【ギャンブラー】【異形と分かり合えし者】【先駆者】【勇なる者】【食を楽しむ者】


 ◇スキル(SP17)

 ・攻撃系

 【一閃】

 ・鑑定系

 【観察Lv5】【鑑定Lv4】

 ・収集系

 【採取Lv3】

 ・その他

 【探知Lv3】【挑発Lv2】【隠蔽Lv1】

 ・常時発動

 【言語理解】【勘】


 ◇特殊スキル

 【図鑑2%】


 ◇装備

 ・頭

 紫狐の仮面〈AGI+10〉

 ・胴

 双蛇のローブ〈VIT+30〉

 ・指輪

 双蛇の指輪×3〈DEX+45〉


 ◇絆

 ディック(ゴブリン)

 エフィ(角兎)

 レフ(角兎)

 ??(土狼)


 

 *


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