6 『きしさまのはなかんむり』
名前を付けていざ出発と歩いたはいいが、如何せん道が分からない。誰か友好的で知能のあるモンスターと接触出来たらいいなと思いつつとりあえず南の方へ足を進めることにした。理由は単純に南の方が植物の多いイメージがあるからである。迷いなく南を歩いているのだが、見送ってくれた誰も注意しなかったので多分合っている。
【探知】と【鑑定】を併用することで【探知】の範囲内にある植物を片っ端から【鑑定】するという本来の意にそぐわないだろう使い方をしているが、頭を使いすぎてパンクしそうである。【探知】は生命体にしか反応しないって? 植物も生きてるんだから生命体だ。
「『すぴー』」
「くるぅ」
二匹は寝足りないのかバスケットの中でお昼寝――朝寝? の際中である。寝顔が可愛いので頭痛がするのも吹き飛んでしまいそうだ。
このバスケットはレフくんの奥さんが持っていきなさいとくれたもので、毛布が敷かれていたことから二匹のためのベッドなんだということはすぐに分かった。これなら戦闘中に二匹が寝ていても後方に避難させてそのまま戦うことが可能であるし、レフくんの奥さんグッジョブである。
「あ」
【探知】の範囲内に植物ではない反応があり、その気配を辿っていく。
これで【索敵】を取ったら敵の種類が分かるんだろうが、【探知】だと何となくの気配しか分からない。
ネッ友とは合流するが両方ソロでやっていくつもりなので【索敵】はあった方が便利なのだろうが、如何せん残りのSPが心もとない。早く街へは行きたいが、レベルも上げたいので街がマップに現れたらそのままネッ友と合流するまでは森に残るのもありかもしれない。
「ゴブリン……か?」
いざ戦うとなった時に有利となるよう背中側から様子を伺う。遠目からでは分からないが、【観察】で上がった五感のおかげでディック達ではないことは確認できた。リーダー格の名前を見ても知らんやつだったからという理由だが。
よくよく見ると、あちらさんも何かをじっと見ていることに気が付く。その視線の先を追おうとする前にゴブリンの一匹が奇声を発し、走ってどこかへ行ってしまった。
「経験値が」
いや、それはモンスターに失礼だろうか。
「まあ、タイミングが悪かったというこ――」
「たすけてッ!! 誰か――」
「レン、ルーウィ、ちょっと揺れるよ」
頭から抜け落ちていた。ディックはモンスター相手に狩りをしていたから――いや、それはただの言い訳だろう。
さっきの豪華だと思った装備は身の丈にあっていない、人間が使う装備だと認識してはいたのに。
そんな後悔が俺を責める。
不意打ちとか、そんなことを考える暇はなかった。とにかくゴブリンたちが走って行った方に向かう。
「【一閃】」
「『オンナコドモ、シバ――』」
「まず、一匹」
目についたのはリーダー格のゴブリン。初めて使う【一閃】だったが、うなじを狙ったかいあって発動できたようだ。グロに規制がかかったこのゲームでは倒したら青く四角いパーティクルとなって消える。しっかりと消えたのを確認してのんびりとドロップ品の確認をする。
ゴブリンは親玉を失うとしばらく放心状態になるので心配はいらない。残り四匹、短剣だとリーチに劣るので足元に落ちていたドロップ品である冒険者の剣に切り替える。
「これ、大事な子だから預かっててくれる?」
先程助けの声をあげた女性だろうか、その前方にお母さんを助けようとしたのかまだ年端も行かない少女が両手を広げている。しかし恐怖でか膝が震えているし、今にも泣き出しそうな目をしている。少しでも癒しになれば、とヴァレンティアとルーウィの入ったバスケットを小さな手で抱えさせた。それから頭を一撫でして四匹に向き合う。
「【一閃】」
出来れば彼女たちにもこのゴブリンたちがパーティクルに見えるように、と願いながら。
『レベルが7に上がりました。SPを1取得しました』
冒険者の剣をボックスにしまい、エフィからもらった短剣に入れ替える。なんだかんだこっちの方が普段使いに便利だし、腰に長剣がぶら下がっているのが慣れないのもある。
「ありがとうございます! 貴方がいなければどうなっていたか……!」
「いえ、当然の事をしたまでですよ」
「お兄ちゃんありがとう!」
俺がざっと片っ端からボックスにドロップアイテムを突っ込むのがひと段落すると、こちらも落ち着いたらしい女性が丁寧にお礼を言ってくれる。ボックスは雑草の大半を置いてきたので少し余裕が出来ているのだ。
ちなみに女性の物腰が完璧に未亡人のそれで少し距離を置いてしまったのは秘密だ。
「この子たち、お兄ちゃんのペット? テイマーさんなの?」
「非常に残念なことにまだテイマーではないんだ」
お母さんを庇っていた少女もバスケットの中にいる二匹を可愛がるほどの元気はあるようだ。
「何かお礼を――」
「お礼は結構ですよ。さっきも言った通り当然の事をしただけなので」
傍から見ればさぞ善良な人間に見えただろう。今の俺は人間かどうかも怪しいのだけれど。
しかし敢えてそれを否定したい。
皆はお礼と言われてまず思い浮かぶのはなんだろうか。……そう、金だ。
だが目の前の二人は特にお金が余っているようにも見えなければ困窮しているとも言い難い、どちらかといえば貧しいんだろうなという感じだ。そこから渡されるお金は非常に受け取りづらい。
あと、RPG系で定番といえば家宝やらだろうか。
ぶっちゃけ興味ない。図鑑にあるやつだったら登録だけしたいなとか、それだけだ。
そりゃもふもふとの遭遇率が高くなる系のアイテムだったら凄く嬉しいが、そんなこと万が一にしかありえないしそれなら今確実に欲しいものを貰った方がいいだろうというのが俺の考えだ。
「ならせめてうちで休憩していきませんか?」
「ああ、それは助かります。ここから一番近い街に行きたいんですけど地図がないので行けなくて」
「簡単なものでよければうちに地図があるのでそれでお礼になるのでしたらどうぞお使いください」
どうだこの完璧な流れ。正直ここまでうまくいくとは思わなかったので内心では顎が外れそうな勢いで驚いている。
そんな感情を表に出さないよう気を付けながら少女からバスケットを受け取り、危なっかしい少女の手を繋いで歩く。お母さんはにこやかに笑い、ここからすぐ近くにある村に案内してくれることになった。
すると、突然【探知】に生命反応がいくつも現れる。なるほどこの村にはイベントをこなさない限り辿り着けないんだとすぐ分かった。
道中何も話さないのもどうかと思い、お母さんのお腹が少し膨らんでいるのに気づいて尋ねるとお腹に子供がいるのだと幸せそうに言う。
うん、全然未亡人ではなかったね。でもキャラメイクに運営の悪意を感じる。
これで口説いたりしてたら好感度下がって村に入れなくなったりするのだろうか。
「弟か妹、どっちがいいのかな?」
「妹! でもね、でもね、ままが元気だったらどっちでもいいよ!」
偉い子。
お母さんはそんな我が子の成長に目に涙を浮かばせていた。
分かる。俺も風邪ひいたときにいつも素っ気ない態度をしてくるまぐろが傍で暖を取ってくれてくれたときは泣くかと思った。
「奥さんたちはどうして森に?」
「旦那が今日誕生日なのでサプライズで大好物のウルの実のケーキを作ってあげようって、娘と一緒に。丁度帰ろうとして油断していた隙を突かれました……お恥ずかしい限りです」
そう言って俺の持つバスケットよりも1回りサイズの違うそれに入ったウルの実を見せてくれる。ウルの実のケーキはもしかしなくもショートケーキではないかと思い、羨ましそうな顔をしていたのかお母さんは少し考えて提案してくれる。
「もし良かったらですけど、ウルの実も沢山採れたので小さくなりますが……もう一個作りましょうか?」
「いいんですか?」
「ええ、もちろんです。3つも4つも変わらないので」
まさかのデザートにほくほく顔になる俺であった。甘いものは母親に付き合わされてしょっちゅう食べていたので普通に好きではある。最近食べれていなかったので非常に楽しみだ。
途中ウルの実に反応したルーウィやヴァレンティアを抑えつつ、本当にすぐそこにあった村の一軒家に着いた。
簡単な武装した若者たちがお母さんと娘を見て酷く驚きつつも、お母さんから簡単な事情説明を受けると凄く感謝された。ゴブリンたちの鳴き声を聞いてすぐにお母さんたちを助けようと武装し集まったのだと分かる。
俺が恩人だと分かると村長が直々に地図をくれた。
いい村だ。
地図は手に持つとマップに反映され、一日程歩けば着くかな? という距離だった。三日後に街へ買い出しに馬車を出すがどうかと誘われたが、レベリングもしたいので丁寧に断らせて頂く。
食料やテントはありがたく貰ったよ。
一人分とはいえ街に着くまでの諸々の必需品を揃えるのにはそれなりに時間が掛かる。ウルの実のケーキを作るのにも少し時間がかかるので、家で待たせてもらうよりもと俺は子供たちの遊び相手になることにした。子供ももちもちしてて可愛いよな。
勘違いして欲しくないが、ロリショタに興奮するというわけではない。雑貨を見て「あ、これ可愛いな」とかそんな感じの可愛いであり好きなのである。
「兄ちゃんゴブリン倒したんだろ!? すげぇー!!」
「ねえねえ、剣見せて!!」
男の子はやっぱりそういうのに興味があるのか目を輝かせて俺を見て、女の子たちはヴァレンティアやルーウィを抱っこしたりしてはしゃいでいる。
二匹は大人ぶってされるがままになっている。弟気質の二人はお兄ちゃんになってみたいのである。決して抵抗できないとかそういうのではない。
「危ないから鞘のままな」
「すげー!」
「俺の兄ちゃんの、もっとボロいんだぜ!」
名前からして初心者装備かと思っていたが、これより下の武器があるらしい。レアリティでいうと短剣の方が高いのだが、子供はそれよりも見栄えを気にするのでこっちの方がいいと思い選んだ次第である。そのままの心でいて欲しいと思うのは年をとった証なのだろうか……。
「お兄ちゃん! しゃがんで~」
「ん?」
「何だよ、今おれたちが話してるだろ!」
「あんたちは十分話したでしょ!」
女は何歳でも女なんだな。
俺が助けた少女に連れ立って来た女の子たちもそうよそうよ! と男たちを責め立てる。
俺は遠い目をした。
少年よ、ここは女性に従っておくのが吉だぞ。女性は情報をあの手この手で入手して噂の種にするんだからな。いいことならともかく悪い事が流されたら人生詰みだぞ。
なので俺は大人しく従って地面にしゃがみ込む。
「あたしとままを助けてくれてありがとう!」
ふわりと花の匂いが香る。
『宝物:きしさまのはなかんむり』
「お兄ちゃんはあたしとままのきしさまだよ!」
……ほんとに、女の子はいくつでもちゃんと「女性」なんだよな。
そう言ってはにかむ少女の流れ弾を喰らった男どもが顔を赤くするのでプライドを守ってやろうと俺は背に皆を隠すのであった。少年よ、大人になれよ。
「それで……これは何をしているのかな?」
「みつあみ~」
「はあ」
明らかに普通の男性よりも長い髪が女の子たちに目を付けられた。
生まれた時から伸ばしていても俺の長さには届かないから憧れなんだろう。俺としては邪魔なだけなんだが。
「あ~一か所だけな?」
「「「え~」」」
鏡を見ていないのでどうなってるか分からないが、凄いことになっているのは男どもの顔を見ると分かる。おいそこ笑うな。
女の子たちは「どこにする~?」「ここは?」「いいね!」みたいなやりとりをして、次は誰が編むかとか話をしている。誰でもなんでもいいよ。
最終的にマレリーちゃんという一番手先の器用な子が左側の少し長めな横髪を編んでくれた。
「自信作だよ!」
「へえ」
女の子らしいポーチから出て来た手鏡でまじまじと出来上がった作品を見る。綺麗に編んだな。
それに、何気に初めて見る俺の顔。大幅に顔を変えることは出来ないのだが、髪が長く目がキリッとしたお陰で別人のように見える。リアルでも童顔と言われていたので子供たちにお兄ちゃんと言われても受け入れられたが、確かにこれはおじさんの顔ではない。
背に流れる髪はさらさらなのに頭の方は少しもふもふしていて気持ちいい。
あとは特に、って感じだ。強いて言うなら左目の下の頬にある黒子は健在だということか。
「くる!」
「『おにーちゃん、見て見て!』」
呼ばれて振り返ると二匹の首にリボンが巻かれている。ヴァレンティアにはダークブルー、ルーウィにはライトブルーのものが後ろで形のいいリボン結びをされていた。
「か、かわ……」
スクショタイム。
いや、ヴァレンティアはダークブルーってかっこいい! みたいに思ってるんだろうけど全然可愛いし、自慢して胸を張ってるのもまじで可愛い。ルーウィもライトブルーでヴァレンティアと同系色だからお揃いみたいってはしゃいでるの可愛すぎるし…………すぅ、俺を殺しにきたな。
「二匹とも格好いいよ」
「くる!!」
「『でしょ!』」
「だよね~」
「かっこいいっていうかかわ――」
シャラップだ男ども。本人たちが格好いいと思っているのだからそれは格好いいのだ。そして女の子たちナイス。
俺が親指を立てると分かってますよとばかりに同じポーズを返してくれる。あと男の子が照れてるから口を抑えた手を離してあげようね。
「ノアさん、お待たせしてごめんなさい。ウルの実のケーキが……あら。子供たちがよくしてもらったみたいで何よりです」
うふふと笑いお母さんが箱を持ったままにこにこした。後ろにケーキ作りを手伝ったのだろう奥様たちもあらあらうふふしている。そして、その視線は俺の頭に。
……きしさまのはなかんむり、付けっぱなしだったよね。
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名前:ノア Lv7
職業:放浪者
種族:??
【HP】 60(+5)/65
【MP】 30/30
【STR】 26
【VIT】 15
【INT】 15
【MND】 15
【DEX】 15
【AGI】 61(+7)
【LUK】 40(+3)
残り(+3)
◇称号
【ギャンブラー】【異形と分かり合えし者】
◇スキル(SP3)
・攻撃系
【一閃】
・鑑定系
【観察Lv5】【鑑定Lv2】
・収集系
【採取Lv1】
・その他
【探知Lv1】
・常時発動
【言語理解】【勘】
◇特殊スキル
【図鑑1%】
◇絆
ディック(ゴブリン)
エフィ(角兎)
レフ(角兎)
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